銀の恐怖
ここは…どこだ?
…ね…起…て……命の……!
…脳裏にやかましい声が響き渡る。
目を開けようとするが、瞼は鉛のように重く、中々開けることができない。
は……起……よ!ウ……待……なんて………んだよ!
…っ…物凄く体が重い。
主に腰の辺りが重い。
…う…!眠……王子様………には……し…姫の……キス…
「っ…はっ!?」
本能的な危機を感じ取った俺は目を見開く。
目の前には、獣のような笑みを浮かべながら顔を寄せてくる女がいて…
「うわぁぁぁぁ!?」
「あ、起きたー!お早うウチの運命!」
驚き急いで突き飛ばそうとするが、
何故か手足が拘束されていた為に行動できなかった。
…どうやら俺はベットに拘束されているらしい。
それも問題だ。だが、今はそれよりも…
「うへへ、お目覚めのキッスしてあげようと思ったんよー!ざんねーん!もう少し眠ってたらウチとキスできたのにねー!うひゃひゃひゃっ!」
この目の前の馬鹿笑いしている女…
そうだ、コイツはセスラだ!
鉄の女の…しかし、何故ここに?
「よっと!元気になったー?治癒魔法をたっぷりかけたから元気ハツラツのはずなんけど!」
軽快な動きでベットから飛び降りたセスラは、俺の事を心配してるのかどうか良くわからない笑みを浮かべながら聞いてくる。
ふと、辺りを見渡してみる。ちゃんとした部屋のようだが家具の類いは一切無く、扉もかなり頑丈な鉄で作られているようだ。
…何となく察した。あの戦いの後、恐らくここに運ばれたのだろうが…とりあえず、質問に答えておくことにした。
「…たぶん元気なんだろうな。
しかし怪我人を拘束するなんて、趣味が悪い…」
「拘束したのはウチじゃないよー?
命令したのはパパンだよー!」
…パパン?
「…一応、安全のために拘束させてもらった。
暴れられたら困るのでな。」
扉が開き、重そうな鎧を装備した男が部屋に入ってくる。
「…アンタは?」
「ウチのパパン!」
「…ユニティ国、軍事統括者のパールボルト・ヘルムートだ。それは私の娘の一人、セスラ・ヘルムート。」
パールボルト…通称軍神。ユニティ国内にて知らないものはいない程の有名人で…
流石のリドもこの男の事は知っていた。
連邦との戦いで大活躍した教科書にも乗っている程の英雄。
そんな男が俺に何の用だ?
内心ビクビクしながらパールボルトを見つめる。
「…貴様の武勇、聞き及んでいる。村を襲ったエルフの悪名高き盗賊団と果敢に戦い、自分の身を犠牲に村人を守ったそうだな?」
大体合っている。
頷き、肯定する。
「…では、貴様に問おう。ユニティに仕え、ユニティに繁栄と名誉をもたらす事を誓う覚悟があるか?」
…驚いた。パールボルトの放った言葉は有名なフレーズで…
簡単に説明すると、ユニティに仕える騎士…上級兵士になる者へ送られる言葉だ。
反射的に俺は言葉を返す。
「我の魂はユニティと共に、死して尚、ユニティを永遠に守る事を神に誓う。」
こう返答すると、了承の位を示したという事になる。
「…よろしい。ではセスラ、拘束を外しなさい。」
セスラが了承の意を示し、俺の拘束を解く。
…助かった?
しかし、意味がわからない。獣人の俺をユニティの騎士にするなんて…なにかがユニティ国内で起きているのか?
「では、ユニティの新たな騎士よ…貴様の名を名乗るがいい。」
「…リド。」
「…では、リド。明朝にセスラとの婚姻式を執り行う。醜態を晒さぬよう、確りと準備しておけ。
セスラ、後の事は頼んだぞ…」
…え?
「リド!ウチはね…アンタの監視役兼、お嫁さんになるんだよ!うひゃひゃひゃっ!これがらぶろまんすってやんなんねー!」
…色々な事が起こりすぎて、パンクしそうだ…




