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黄金の胎動

…背後から誰かの驚く声が聞こえるが、俺はそれに反応出来なかった。絶命したからではない、目の前の不可思議な光景に驚いていたからだ。


胸の傷口から、金が流れて出てきた。


いや正確には、金色の液体、きっと血液だ。

何故かはわからないが、金色だ。

目を奪われるような、素晴らしい金色だ。


続けて不可思議な現象が起こる。

心臓に突き刺さっていた黄金の剣が、

俺の傷口の中にゆっくりと溶けていった。

それに呼応するかの如く、俺の意識が段々と覚醒していく。

目が見開かれ、体の中がどんどんと熱くなり…



そんな現象が起こっている最中、不意に何かが俺の背中にぺたりとくっついた。

その何かは、あっという間に俺の体の中へ染み込んでいくのだ。

驚いた。俺は急いで後ろを振り向くと、そこには異種族の商人ではなく、人間の女性がいた。

何故か畏怖したかのような表情を浮かべていたが…

女性がいるのに気がつくのと同時に、背中に染み込んでいった物の正体がわかった。


金貨だ。こぼれ落ちた彼女の財布から、金貨が…そう、まるで意思をもったかの如く自分の方へところころと転がってきて、俺の肌に溶け込むのだ。


その事に驚いていると、何処からか金属を引きずるような音が聞こえ始めた。その音の正体を探ろうと、辺りを見渡す。

…どうやら俺の体に寄ってくる物は、彼女の金貨だけではなかったようだ。

恐らくこの町にある全ての金が、俺の体へと向かってきているのだろう…

様々な形の<金>が、俺を目指して這いずり寄ってくる…さながら黄金の海のように。


金の杯、装飾品、金の指輪、etc…

様々なものが一つ、また一つと俺の体と融合し、俺の体の一部になっていく。驚きはしたが、不思議と怖くはなかった。


しばらくして、黄金の波が止んだ。全ての黄金が俺の体と融合したらしい。

…体が、妙に重くなったな。

そう思い俺はゆっくりと立ち上がり、辺りを軽く見渡してみた。するといつのまに集まっていたのか、大量の人間が俺を見上げていた。

とある者は怯えた顔で、

またある者は…まるで神様でも見たような顔で。


…あれ、なんでこんなに人に見られてるんだ?

それに、俺ってこんなに背が高かったか…?


自分の姿を確認するため、近くにあった鏡を覗いてみる。


鏡に写っていたのは人間では無かった。


例えるなら、黄金の獅子だ。獅子の獣人の姿だが、体格や筋肉の量が決定的に違う。身長も200㎝を軽く越えるだろうし、一番特徴的なのは体に生えている毛だ。光沢があり、一本一本が本物の黄金で出来ているような質感を誇っている。目の結膜は黒色で、角膜は金色だ。


動かなければ、黄金の像にも見えただろうその姿は、何処と無く神々しい物だった…


これが、俺か…!?


…新たな自分の姿に唖然としている俺は、この時まだ知る由もなかった。熾烈な運命の歯車は、既に動き始めていたことを…

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