黄金の呪い
心臓がバクバクとやかましく激しく鳴る。
息はどんどんと荒くなっていく。
声にならない悲鳴をあげながら、俺はとにかく必死に逃げる。
大通りに行こうとは思わなかった。
この剣が人目に触れてしまった場合、欲に刈られた誰かに奪われてしまうのでは…と、その時の自分は考えていたからだ。
人目の少ない狭い裏通りを一生懸命に、とにかく逃げ回った。
…暫く走り続け、体力が限界を迎える直前まで走り続けていた俺は、不注意になっていたからか小石につまづいて派手に転んでしまった。
呆れたことに、自分の体より黄金の剣の方が大事だったらしい。
ころんだ後真っ先に、剣が傷ついていないか入念に確認し始めた。
黄金の剣が傷ついてないことを確認し、ほっとため息をつく。
しかし、背後から誰かが迫ってくるような足音が聞こえた。
どうやら、あの異種族の商人が迫ってきているようだ…
「く、くひっ…ひひひぃぃぁぁぁっ!」
いきなり気色の悪い笑い声を上げてしまう。無意識に黄金の剣に頬擦りし、刀身にキスをし始めた。
剣を奪われる事への恐怖心と、剣への狂気的な愛情が混ざり合う。
それが精神を犯し始め、段々とリドの人格を崩壊させ始めていた。
あぁ、愛しい。愛しい、愛しい、イトシイ、イトシイ、イトシイイトシイイトシイイトシイイトシイイトシイイトシイイトシイ…
無意識にブツブツと呟き続ける。
思考が黒く、いや黄金に染まっていく。自分の脳はもはや黄金の剣の事しか考えられなくなっていた。
そして狂気の最中、何故か俺は突然あることを思い出した。
死ぬときは愛した女と一緒に死にたい…と、願っていた事を。
本当にそんなこと願っていたかは眉唾だが。
自分の腕の中にある、黄金の剣を凝視する。
愛した女はいないが、愛した剣は今ここにあるではないか。
この剣が奪われてしまう前に、この剣と共に死んでしまおう…
その時完全に狂っていた俺は、躊躇いなく黄金の剣を逆手に持つ。
そして自分の心臓を黄金の剣で貫いてしまったのだ。