朱色の魂
戦況を確認する。
敵は通常のアンデット16体にスケルトンドッグ6体、スワンプマン1体だ。
アンデットは再生能力を持ち、痛覚が無い。だが知性は低く大半のアンデットがそうであるように、生きている生物の魂だけを求めて動くだけの存在だ。足は遅いため、接近される前に弓で潰すのが得策と書いてあった。
スケルトンドッグ。コイツに関して注意するべきは足が早い事と、急所を的確に狙ってくる噛みつき攻撃だ。知性は他のアンデットの例に漏れずとても低くい。体も脆く、移動は直線に進んでくるだけなのでスケルトンドッグも弓で十分撃退可能だ。
スワンプマン。コイツは厄介だ。
高い再生能力と高い防御力をを持っているため急所に必殺の一撃を叩き込むか、もしくは高威力の攻撃を与え続けないと倒せない。更に近寄ってきた者に臓物の触手攻撃と、大きな泥の塊を高速で打ち込む攻撃をしてくる。これらは並みの兵士では一撃でやられてしまう程の威力なのだ。。弓では運が悪いと倒しきれないだろう…その為、投石器を使う。
スワンプマンも知性が非常に低く、生きてる生命体を襲うだけしか脳がないので…投石器の射程に兵士を使って誘い込み、倒すのがセオリーと書いてあった。
しかし、問題なのは陽動の兵。スワンプマンとの戦いで陽動に出た兵士の半数は死亡していると記述されているのだ。
ここで兵士を死なすと俺の評価が下がる可能性がある…
だが、逆に全員生還させれば俺の評価は上がるだろう。
その為に全員生還させる為の方法を考えながらも、弓の射程に入った敵に…特にスケルトンドッグとアンデットを、集中的に射撃するように命じる。
「放てぇぇっ!狙いはスワンプマン以外だ!」
兵達が迷いなく弓を構え、矢を放つ。
放たれた矢のいくつかは数体のアンデットとスケルトンドッグに直撃し、数を確実に減らしていく。
そして射撃が続けられ、アンデットとスケルトンドッグが全滅した頃には、スワンプマンは拠点近くまで迫ってきていた。
スワンプマンは高台を見上げ、目の前にある生命を見つめてゾッとするような笑みを浮かべる。
兵士の一人が声を荒げ、叫ぶ。
「大将、スワンプマン接近!!陽動の兵を出さないと不味い、陽動の兵はこっちで選抜してある!命令を!!」
…なるべく声を低く。カッコいい声を…
「その必要は無い、奴は俺が倒す!」
結局策は思い付かなかったので、自分の強さをアピールする為に…そして被害を出さない為に自分が出ることにした。
側に置いてあった鉄の角材を手に、勢いよく高台から飛び降りる。
「リドさん!?」
リリィの悲鳴のような声が聞こえた。
高いところから飛び降りるのに慣れていることもあり、なんとか無事に地面に着地することができた。無事な事を知らせるために高台に向けて軽く手を振った後、スワンプマンへ向かって跳躍する。
…腐っ!?
顔をあまりの悪臭で歪める。…その時のリドは、獅子の獣人は鼻が利く事をすっかり失念していた。スワンプマンは腐った肉の塊。匂わない訳がなかった。
早くトドメを刺そうと決意し、一度スワンプマンの前に着地し、数秒後に全力でスワンプマンの頭上付近へ跳躍する。
スワンプマンの攻撃を誘発させて足を止めさせ、頭部に一撃を加えて倒す作戦だ。うまくいけば先程俺がいた位置に攻撃してくれて…
…え?
だが、何故かスワンプマンは俺に反応しない。俺を無視するかのように、イエルハイムの拠点に向かって歩いてく。
…おかしい!スワンプマンやアンデットは側にいる、生きている生物に敏感に反応するのに…俺は側にいるんだぞ!?
予想外の行動を取られた為、一度攻撃を中止する。
…一瞬。嫌な考えが脳裏をよぎった。
なんとかその考えを振り払い、スワンプマンを背後から追いかけるように跳躍し…スワンプマンが無防備なのを利用して、後頭部に全力で角材を叩き込む。
ぐちゅっ、と鈍い音をたてて角材がスワンプマンの頭部にめり込んでいった。スワンプマンは体を大きく揺らし、地面に倒れる。そしてスワンプマンの目の光がゆっくりと消え、偽りの生命が消えていったのがわかった。
あっけなく終わった…損害も、怪我もない。けど…
ふと、イエルハイムの高台を見る。
そこには俺の一撃を見ていたのか、両手を振って喜んでくれている兵士達とリリィがいた。
あの時。俺が剣で自害しようとした…いや、自害した時から俺の運命は変わってしまった。
複雑な気分でイエルハイムの拠点に戻る。
俺は…生きてるのか?死んでるのか?




