錆の矢尻
イエルハイムに着任してから三日が立った。
リリィとはなんとか普通に話せるようになり、怯えた顔も…たまにしかしなくなってくれた。
兵士達ともなんとか打ち解ける事にも成功する。
その要因と考えられる出来事は、俺が担当者に就任したその晩に起こった。
補給物資の中に何故かあった大量の酒を用い、大規模な酒盛りをした…らしい。
何故か酒盛りをしたときの記憶が全く無いのだ。回りの兵士に酒盛りの時何があったか?と聞いたのだが…ほぼ全員が知らない方がいい、と答えた。
だが、その日を境に兵士達がそれなりの頻度で話しかけてくれるようになった。無論、敵意を持たずに。
…色々と嬉しいが、同時に不安だ。二日酔いのような症状は無かったのだが…
そんな事をぼんやりと考えながら仕事をしていると突然警報の鐘が鳴り響き、同時にドアが数度ノックされた。
「どうした!何があったか?」
兵士がやけに落ち着いた様子で報告してくる。
複数のアンデットが、イエルハイムに向かってきているとのことだった。
アンデットが?急いで指示をしなければ!と考え、席を立ち兵士達の元へ向かったが…
俺が命令をする前に既に兵士達が行動し始めていた。
軍属の人間も同じく。動きがかなり洗練されている。
「…早いな。」
つい呟いてしまう。
リリィが俺の呟きを聞き、誇らしげに微笑む。
「皆さんとてもお強いんです、歴戦の兵なんです!」
イエルハイムの兵士の戦闘方法は、拠点の高台からアンデットに大量に弓を打ち込む。接近されたら専用の長槍で、高台の上から攻撃するといったものだ。
考案者はリリィの父親…前担当者だったらしく、他にも様々な知恵と発想力をもってイエルハイムに希望をもたらしたそうだ。
この戦法は知能の低いアンデットには効果的で、兵士達の安全性もそれなりに確保している戦術…
一時的な後釜とはいえ、前担当者と比べられ万が一にでも無能の烙印を押されるようなことがあるのなら…たまったものではない。
何か活躍できることは…?そう考えながらイエルハイムに接近してきたアンデット達を高台から眺める。
人間並みの大きさのアンデットが16体、小型の犬のスケルトン…スケルトンドッグが、6体。そして最奥に人間の二倍ほどの…様々な腐った肉が融合したような、不格好な泥人形の姿をした中級アンデットの<スワンプマン>が一体…
ここに置いてあった資料でアンデットの種類もある程度は確認済みだ。
スワンプマンは強敵だが、それ以外はそうでもない。
アンデット達を見つめ、もっと楽に処理できる方法がないかうんうん悩んでいると…
「リドさん、指揮をとってください。」
リリィが側に寄ってきて、指揮を頼んでくる。
兵士達も此方をみて頷き、命令に従う意思を見せてくれた。
それなりに期待されてるのだろうか?
真意は不明だが、ここでそれなりにいい処を見せたい。
…初めての指揮を執る。
指揮の基本も先生から教えられていて、しっかり覚えている。兵も熟練者揃いだし、敵もそこまで数は多くない。
かなり有利な状況…それでも、恐怖は拭いきれない。
どんな名将でも始めての指揮は怖かったはず、経験を積んで始めて先に進め、成長できるはずだ。
俺は意を決し、片手をあげ指揮を始める…




