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蚊の鳴くような声で。
もう少し頑張れたはずなのだ。
テレビを見ていた時間を、ゲームに興じていた時間を、携帯を弄っていた時間を、叶えたい夢の為に使っていれば、もう少し違う現在があったのかもしれない。
あの日、心療内科の待合室で何故後ろめたい気持ちになったのか、今ならわかる気がする。
彼女は必死で生きていたのだ。必死で自分と向き合い、他人と向き合った結果、心に風邪をひかせてしまっのだろう。
それにひきかえ、私はどうだ。自分と向き合うことも他人と向き合うことも出来ない、臆病者。
そんな人間は蚊の鳴くような声で震える事さえも許されない。
空を見上げると、無数の蚊が飛んでいる。
そろそろ、眼科に行かないと。
この目が綺麗な夢を見る事はもう無い。