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蚊の鳴くような声で。  作者: N.G
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ぼうふら。

 空を見上げると、無数の蚊が飛んでいる。季節は春。いつもの朝である。さして驚くことではない。

 「飛蚊症」という言葉をご存じだろうか。知らなくても構わない。むしろ知らないほうが幸せではないだろうか。

 かつて私は、「知らないほうが幸せ」などという言葉を、何も知らない人間の言い訳だと思っていた。知らない言葉に出逢う度に、広辞苑を引いては知的欲求を満たしていたのである。

 「ニート」という言葉をご存じだろうか。知らなくても構わないし、むしろ知らないほうが幸せであることは間違いないが、一応知っておいてもらいたいのである。私の事を。

 大学受験失敗を三年連続で失敗したのがきっかけである。

 進学の道も、就職の道も絶たれたような気がした。

 死んでもいいとさえ思っていたのかも知れない。それでも、絶望の中で地獄ではなかったのである。

 本当の地獄は、「シンガーソングライターになりたい」という希望を見い出してからであった。

 天才ではないかと思った。日に日に産み出されていく楽曲たちをいとおしく思った。そして、それを産み出した自分自身も。

 「死にたくない」と思った。胃が痛ければ胃癌の項目を、頭が痛ければ脳梗塞など脳の病気の項目を、広辞苑で調べるようになった。 そんなことを繰り返すようになったある夜、地獄は始まった。

 口は渇き、その反面手汗は溢れた。

 胃痛、頭痛、動悸。

 「死ぬかもしれない」と思った。

 翌朝、母親に相談し、とりあえず子供の頃から世話になっている病院へ行こうと玄関を開けた時、

 目の前に無数の蚊が現れたのである。

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