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妹はアイドル? その①

「それで結局さ……。なんでお前は落ち込んでたわけ?」


 素晴らしいライブの余韻に浸る間もなく、僕はすぐに本題を切り出した。 ソファーに座る僕と立ったままの恋子。普段は家庭内カースト制度に従い、恋子が座り僕が跪くんだけどな。


「それは……その」

 

 口ごもる恋子を目にし、僕は考える。恋子のライブには感動したし、もっと見たい、そう思えたのは確かだ。けどやはり、恋子が落ち込んでいた理由が気になる。

 気になるし、さっさと解決して、昼寝をしたいというのが本音だ。少しためらいながらも、恋子は僕の目をしっかりと見据え、全てを話してもいいのかどうか考える。その結果、僕に打ち明けるという行為を選択したのだ。


「実はさ……ファンの人から、手紙をもらったんだ」


「手紙? もしかしてその手紙の内容が、脅迫染みたものだったとか?」


 普通ファンレターをもらえば嬉しいはず。少なくとも僕は嬉しい。それなのに、恋子はここまで落ち込んでいたのだから、決して喜べるような内容ではなかったことが容易に想像つく。


「まあ、そうなんだけど……ね」


 やたらと歯切れが悪いので、僕は思わず言ってしまった。


「はっきり言ってくれないと、分からないだろ? 何があったんだよ?」


 すっかり私服に着替えを済ませていた恋子は、スカートをギュッと握りしめ肩をわずかに震わせる。


「何も知らないくせに……、アイドルがどんだけ大変か知らないくせに……」


 恋子を見て僕は「しまった!」と思う。昼寝などという下らない自分の用事に気を取られ、恋子の悩みを解決することをすっかり蔑ろにしてしまった。


「あ、その……悪い。お前のこと何も知らないくせに偉そうなこと言って……」


「もういい。やっぱりあんたには話さない。自分で解決するから……」


「お、おい! ちょっと待てよ!」


「うるさい!」


 気分屋な夏の天気と似ている。いつ雨が降るか分からないのと同様に、いつ恋子が機嫌を損ねるか分からない。天気予報ならぬ、恋子予報でもあればいいんだけど。僕が下らないジョークを繰り広げている間に恋子はスタスタと歩き、足早にリビングを立ち去る。それを追いかけようとした僕は、しかし、一瞬にしてそれを躊躇う。

 リビングから出る間際、恋子はこちらをちらりと一瞥したのだが、その表情があまりにも鬼気に迫る表情であったというか、とてもじゃないけど僕が介入できる余地はないことに気がついた。そりゃそうだ。僕はアイドルなんかではなくごく平凡な男子高校生。

 アイドルであるが故の葛藤や苦悩など知る術もない。だから、今回の恋子の悩みを解決するのは不可能。頭の回転が遅い僕でも、この結論にたどり着くまでに要した時間はほんのわずか。


「弱ったな……」


 たぶん今から恋子に部屋に行っても、僕の態度に腹を立てた恋子が全てを話してくれるとは思えない。だいたい、僕に解決できるような問題じゃない。さっきそう結論付けたはずだ。


「昼寝……する気にはなれない」


 なんだか頭がモヤモヤとしてしまい、こんなぐちゃぐちゃ考えているまま安らかに昼寝をできるとは思えない。僕の神経は図太いようで図太くないのだ。


「仕方がない。宿題でも、するか」


 今はとにかく、冷静になろう。柄じゃないが、僕はたまりにたまった宿題をやることを決意し、自室へと引き返した。

 漫画やスナック菓子の袋で散らかった机を整理しながら、少しだけ耳を澄ませる。隣の部屋、つまり恋子の部屋からは、物音一つ聞こえない。ベッドに横たわっているのだろうか。

 綺麗になった机に、勉強道具を広げる。

 汚ければ汚いで勉強は捗らないが、綺麗だからと言って捗るものでもない。どうしても隣の部屋が気になってしまい、さっきからノートに下手くそな落書きしてばかりだ。


「だめだ……集中できない……」


 結局、勉強開始わずか五分ほどで僕はベッドに飛びこんだ。布団を頭までかぶり、目をゆっくりと閉じる。布団の中に潜り込むとなんだか心地が良くて、まるでこの世界から自分が隔絶されたような、そんな感じがする。孤独は人に嫌われがちだけど、僕は嫌いじゃない。むしろ、好きだ。他人を気にすることなく、自分のことだけ気にしてればいい。

 暗闇にこの身を委ね、しばらくすると、僕は静かに深い眠りの中へと落ちていった。


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