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EveningSunlight  作者: 蒼原悠
第〇章 ──ひとりぼっちの帰り道──
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Episode07 おばあちゃんは占い師!



「あんた、名前は何て言うんだい」

 おばあちゃんがふとしたみたいに、尋ねてきた。

「藤井芙美……って、言います」

「いい名前じゃないか。将来、いいお嫁さんになれそうだね」

 ──!?

 またびっくりした。それってアレ? 名前の印象の話だよね!? どぎまぎして顔を赤くしていたら、返事をするのを忘れちゃった。

「その制服、すぐそこの城南中学のだろう。自転車でどこから通ってるんだい」

「えっと、世田谷です。等々力っていうところなんですけど」

 そりゃまた遠いねぇ、っておばあちゃんは笑う。

 私が自転車を押してるせいかな。ワンちゃんもすっごく嬉しそうだ。しっぽをぶんぶん振ってるワンちゃんの影と、腰をちょっと曲げて歩くおばあちゃんの影が、私を挟むようにして土手の向こうに落ちていってる。なんだか私の影だけ、ずいぶん悲しそうに見えた。

「言い忘れたけどね、私は馬込(まごめ)っていうのさ。普段はこの東京(まち)のあちこちを廻りながら、占い師をやっておる」

 おばあちゃんは杖をついて歩きながら、さらっとすごい自己紹介をしてみせた。──う、占い師!?

「ああ、あんたとその子犬を見つけたのは、別に占いでも何でもない。その子犬に楽しそうに引きずられてるあんたの姿を、土手に座りながら見かけたもんでね」

「……確かに私、引きずられてました」

「あんまり子犬と仲がよさそうに見えたからね、さしもの私も初めは飼い犬かと疑ったもんさ」

 なにも知らない様子のワンちゃんは、それを聞いてわんわんって大きな声で吠えた。ぼくたち仲良いよね! ……なんて言いたかったのかな。

 うん、私も初対面の割にはいいなって思ってるよ。だけど私まだ許してないからね、キミが自転車を倒してきたの。あれけっこう痛かったんだから!

 非難の気持ちを込めてワンちゃんを睨んだら、おばあちゃんが急に立ち止まった。見るとおばあちゃん、また目を閉じてる。

「……あの、何を」

「静かにおし。見れば分かるだろう、匂いを嗅いでるんだよ」

 分からなかったんだけど……。だって鼻をくんくんさせたわけでもないし。

「どうして匂いなんて嗅いだんですか?」

「鈍い子だねぇ。飼い主の匂いの方向を感じようとしてるに決まってるだろう?」

「そんな、ワンちゃんみたいな……」

 なんかもう私、戸惑ってばっかりだ。

 目を開けたおばあちゃんは、うん、って頷いてまた歩き始める。


 占い師って言ってたな、このおばあちゃん。

 もしも本当にそうなのなら、私の抱えてるこの気持ちも、簡単に読み取っちゃえるんだろうな。

そしたら、教えてくれるのかな。私のこの不安と、淋しさと、私はこれからどんな風に付き合っていけばいいのか……。

 あと二年半以上もあの中学に通うんだもん。もうこれから先ずっとこのまんまだなんて、もう……イヤだよ。




 きぃ。

 錆び付いた音が響いて、気づいたら私、立ち止まっちゃってた。

 音を発したのは、右手が握ってる自転車のブレーキだった。

 一緒に立ち止まったワンちゃんが、足元で首を傾げてる。おばあちゃんが尋ねた。

「どうしたんだい」

「……何でもないです」

 心配かけちゃダメじゃない、私。止まっちゃった足を叱咤して歩き出した私を、おばあちゃんはどんな顔をして見ていたんだろう。真横から照らし出した夕陽が眩しすぎて、私にはよく見えなかった。

「疲れたのかい」

「…………」

「そんな湿気た顔してると、また子犬に引きずられるよ」

 もうすでに引きずられてる気がする。

「ばばあを舐めるんじゃないよ。あんたみたいな若造の考えてることなんざ、簡単にお見通しだからね」

愉快そうに笑ったおばあちゃんの声は、すぐに落ち込んだ。

「何か悩みがあるんだろう」

 自分で思ったことが現実になって、私は三度びっくりした。

「それも、けっこう奥の深そうな悩みと見たよ。少なくとも、子犬と遊んだくらいじゃ忘れられなかったくらいには深そうじゃないか」

 わうーっ、とワンちゃんが同意するように唸る。

「……それも、占いですか?」

「占いじゃないさ」

 おばあちゃんは即答した。え、じゃあどうして……。

「どうだい。このばばあに話してごらん。これでも客商売だからね、他人の話を聞くのは得意のつもりだよ」

 言いながらおばあちゃん、さっさと土手に腰かけてる。……私に話させたいっていうか、おばあちゃんが聞きたいだけなのかもしれない。

 それでもいいや、って思った。なんでだろう。





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