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EveningSunlight  作者: 蒼原悠
第四章 ──夕陽色の約束──
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Episode07 泣きっ面にバール


「これで大丈夫じゃないかな?」

 手をぱんぱんって払いながら、男の子達を見下ろした私は笑った。持ち主の子がペダルを回すと、ぐるんと回った。

 ああ、この快感と言ったらないよ! ざまあみろ自転車軍団、これでもう私のことをバカにできないんだからね!

 呆気に取られていた男の子達が、次々に「あ……ありがとう」って言い出した。私は余裕の笑顔で返す。すると持ち主の子が、私の右手に握られたバールを指差した。

「姉ちゃん、これ、何?」

 魔法のステッキだよ──とはさすがに言えなかった。

「バールって言うんだよ。触ってみる?」

 うんって言うので渡してやると、男の子たちは物珍しそうにバールを眺めた。この子達に梃子の原理を説明するのは、さすがにまだ早いかな? そんな余裕が、よけいに私の優越感を煽り立てる。

 何とも形容できない清々しさに包まれながら、オトナの笑みを浮かべた私はカバンを取って、そこを離れようとした。



 すっかり、忘れてた。

 バールを取り出すためにカバンの口を開けてたの。


 どさどさどさどさっ。

 開いた口から色んなモノが雪崩落ちた。さっき受け取った合格証書一式や入学関係の資料、筆箱、おサイフ……!

「あっ」

 自分で言うのもなんだけど、猛烈に間抜けな声が出た。

 私はすぐにしゃがんで、落ちたモノをかき集めにかかった。まずい、まずいよ。入学関係の資料なんて特に、汚れたらまずいのに!

 くそー、悔しいけどこうなったら男の子達にも手伝ってもらわなきゃ……。私は顔を上げながら、そこにいるであろう自転車軍団に向かってお願いをした。

「ごめん、ちょっと手伝っ──」



 その時にはもう、自転車軍団の姿は無かった。


 早っ!!

 行くの早っ!!

 今度は私が茫然とする番だった。視線を上げると、走り去る自転車軍団の姿が十数メートル先に見えた。

──「早く帰ってゲームしよーぜー!」

──「あ、あの姉ちゃんカバンの中身落としてるぞ!」

──「やっぱダセー!」

 むかっときた。きたけどもう声は届かない。悔しさを噛み締めながら、私は散らばったカバンの中身を全て集め終わった。良かった、大して汚れてないや……。

 切ないくらいに輝く夕陽が、私の足元をじわりと照らしている。うん……。私も、早く帰ろう……。

 心なしか軽くなったカバンを背負った私は、後ろを振り向いた。

 そこで、はっと気づいた。

 バールがない! あの子たちに渡したままだ!

 どうしよう。自転車軍団の姿はもう見えない。たとえ見えたって向こうは自転車、私は運動部経験者ですらないただの女子高生(仮)だ。追い付けるはずも、声が届くはずもないよ……。


「…………はぁ」


 私はさっきより大きく、ため息をついた。

 西日の明るさが、そろそろ腹立たしくなってきていた。





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