表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
EveningSunlight  作者: 蒼原悠
第四章 ──夕陽色の約束──
55/74

Episode05 Eメールショッキング!

 夕陽に染まる風景の中で、私が出会ってきた花はいくつもあった。コスモスやゼラニウム、それにサザンカも。

 どれもみんな、それぞれの場所で伸び伸びと暮らしていた。ここが私の生き場所なんだよって、精いっぱいの色で訴えていたっけ。

 君はどうなの? ──そう、フリージアにも尋ねてみる。

 答える代わりに薄紫色のフリージアは、さわさわと穏やかに揺れてみせた。その姿は確かに、光に縁取られてきらめいていたな。


 しばらく絵と実物とを、交互に眺めていた私だったけど、不意にはっとした。

 って私、いつまで見入ってるの? 私がここにいたら、画家さんが絵の続きを描けなくなっちゃうよ。


「あの、私、そろそろ行きますね」

 画家さんにそう告げると、私は足元に置いていたカバンを持ち上げた。あら、って画家さんが声を出す。

「ごめんね、引き留めちゃって」

「い、いえいえっ」

 私が勝手に残ったのに。その絵と筆と、太陽に魅せられて。

 お辞儀をした私は、さっき歩いてきた方向とは反対の側へと歩き出した。三十メートルくらい歩いて振り返ると、画家さんは小さなイスに腰掛けて早くもあのキャンバスに筆を滑らせていた。

 結局、あの画家さんは誰だったんだろう。実は大物だったりして……なんてね。




 少し進むとデッキの整備された場所はおしまいになって、アスファルト舗装の細い通路が川の横をかすめて走っていく。ちらちらと視界を横切る夕陽の光を感じながら、私はその道へ入ってみた。あんまり行きすぎると五反田駅に戻れなくなるし、どの辺で止めとくかな……。

 合格したことをお母さんに伝えたら、今夜はご馳走ねって返信もあったし。早く帰るのもありだもんなぁ。

 悩みながら歩いた。そんなことで悩めるようになった自分が、余計に嬉しかった。



 その二十秒後、本当に悩まされる事態に陥ることになるなんて、思い至りもしなかった。


 バイブレーダ音が、かすかに聞こえる。何だろう、メールかな。スマホを起こした私は、画面に表示された名前を見た。

蒲田(かまた)秀昭(ひであき)〕。

 なんだ、誰かと思えば蒲田くんかぁ。ちょっと頬を緩める私。蒲田くんは小学校の時の同級生で、仲が良くなった最近はよく話したりする友達だ。

 そんな訳で、何も考えずにメールを開いてみる。なになに、

 〔藤井、今どこにいるー?〕だって。

 五反田だよ、って打って返信した。あ、間違えた。ここ大崎か。言い直そうかとも思ったけど、それより蒲田くんからの返信が来る方がかなり早かった。

 〔お、じゃあ受かったの⁉ やったじゃん!〕

 〔まあねー〕

 本心ではすごく嬉しかったけど、敢えてその気持ちは出さないように素っ気ない文面にしてみた。送ろうとして、ふと、付け加える。

 〔……蒲田くんは、どこ受かったの?〕


 まさかの答えが返ってきた。

〔八王子の学校だぜ!〕

 八王子⁉ あの、中央線とか京王線とかにずっと乗って行かなきゃいけない、あそこ⁉

 遠くない⁉ 蒲田くんって確か、神奈川県に住んでるはずじゃ……!

 ってか、そう答えるって事は、蒲田くんのもとには既に合格通知が出ていたんだ。私より早かったんだな、なんて不思議な敗北感が私を包み込む。八王子に高校なんてたくさんあるだろうし、どれなのかまでは知らないけど……。

 さて、どんな返事をしよう。

 悩んでいたら、蒲田くんから更に次のメールが来た。


〔で、約束通り受験終わったしさ、藤井の答えを聞かせてくんない?〕




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ