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EveningSunlight  作者: 蒼原悠
第四章 ──夕陽色の約束──
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Episode01 ハイテンションの帰り道

あなたの日々に、出会いはありますか。


これは、ある日の夕方の、ちょっとした奇蹟の物語。







 受かった!


 受かった!


 受かりました!



「──はぁっ」

 駆け足で道路を走り抜けてきた私は、大きな道路に直交する交差点で立ち止まると大きく深呼吸した。三月の涼しい風が勢いよく喉のなかに流れ込んで、どんな飲み物よりも美味しく感じられた。

 都会の風が美味しいはずはないんだけどね。そのくらい私、いまテンションが上がりまくりなんだ! ああもう、その場でぴょんぴょんしたい! それでこの興奮が収まるなら、ウサギみたいに跳ねてもいい!


 私──藤井(ふじい)芙美(ふみ)は、中学三年生。そして元受験生。ついさっき、無事に高校受験の第一志望校の入試に受かりました!

 すぐ背後の街中にある、大きな校地を持った女子高なんです! これ以上に嬉しい事なんて、きっとこの地球上には何一つない! そのくらい今の私、嬉しいんだ! 一年間頑張って良かった、本当に良かったよ……!

 胸に抱えた茶封筒をぎゅうっと締めながら、青くなった信号の下を私は軽やかに駆け抜けた。高架線路を走り去る電車の音がはっきり聞こえるくらい、街の空気は澄んでいた。ここは山手線内の一番南にある、五反田っていう街。これまでそんなに来たこともなかったこの街が、これからは私のホームグラウンドになる!

 ああもうどうしよう、嬉しすぎて嬉しすぎてどうしようもないや。だってもう私、勉強しなくていい! 卒業までの間、遊び歩けるんだもん!

 ふと気づいてスマホを取り出すと、メールが何件も来てた。開いてみると、差出人は中学の後輩の大井(おおい)真香(まなか)ちゃんだ。

〔先輩すごいですっ! おめでとうございます!〕

 声が飛び出してきそうな文面に、思わずにんまりとしちゃった。ああ、嬉しいなぁ、嬉しいなぁ……!


 ……不審者扱いされても仕方ないような挙動をしながら、私は元来た五反田駅を目指して右折しようとした。世田谷区の等々力(とどろき)にある私の家までは、ここから東急線を乗り継いで行かなきゃいけないから。

 でも、不意に思い立って歩みを止めた。

 そうか。私、もう晴れて自由の身なんだから、遊び歩いたって文句を言われる筋合いはないんだ。


「……ちょっと、歩こうかな」


 つぶやいた私の行き先は、五反田駅の方向じゃなく南西の方向へと変わった。 ほら、学校の周りがどんな感じなのかくらい、入学前に知っておいても損はないもの。


 実は、気になっている場所があった。

 ここへ来る時、電車の中から見えたんだ。この近くに、建物の間を縫うみたいにして川が流れてるのを。

 前に通っていた中学の通学路は多摩川の土手で、輝く夕陽に照らされて光る川面の景色が毎日のように見えた。もう夕方だし、もしかしたらここも同じように綺麗な夕陽が見られたりするかもしれない! 橙色の絵の具をスポイトで垂らしたみたいな空を見つめながら、さっきからすっごくわくわくしていたんだ。

 果たして、どうだろう。目論見通り私の前に細い川が現れて、私はラスト少しの距離を小走りで駆け抜けた。





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