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EveningSunlight  作者: 蒼原悠
第三章 ──あの夕陽が、見えますか?──
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Episode12 花に学んだこと



 絵と同じ花だと、一目で分かった。

 私は振り返ってしげしげとそれを眺める。

 花壇から溢れそうに繁っているサザンカの木。花はその枝の先に、刺さってるみたいに咲いている。ここにあるのはみんな、赤い花みたいだった。

 こんな風にして咲いてる花なんだ……。実物を意識して見たことのなかった私は、ついまじまじと眺めてしまった。

 それはまるで、みんなで寄り集まって越冬するペンギンの群れみたいだった。心なしか小さい気がするのは、どうしてだろう。花壇が小さいからかな。

 そして、そのうちの一輪の花びらに今、私がどいたことで陽光が当たっていた。光を浴びたその花は、赤ともオレンジとも黄色ともつかない、不思議な色合いをしていた。

 私はすぐに気づいた。絵と、おんなじだ。


「寒いよね……」

 私は花びらに手を触れた。

 私が寒いんだもん、この子が寒くない訳ない。

 燃えるような──否、それすら通り越して真紅に近い赤色。冬の植物はポインセチアやツバキのように、寒さに鍛えられて鮮やかな色になることが多いって聞いたことがある。このサザンカもきっと、たくさんの寒さを取り込んだから、こんなに綺麗な赤になっているんだろうな……。

 植物だから動くこともできない。ただ、春も夏も秋もじっとこの場で、こうして花開くのを待っている。私だったら出来ないな、我慢できなくなっちゃうよ。


 でも、と思う。

 川崎さんの話に拠れば、サザンカには他にも色んな色があるんだ。

 昔、図鑑で見た。確か白とかピンクとか、薄い色をしたのだってあったはず。冬の寒さを……とかいうのは、その子たちには当てはまらない。

 それに、それだって綺麗であることには変わりないんだろう。赤だけが絶対の美しさって訳ではないもの。


 色んな色──人間に喩えるならそれは、何に当たるんだろう?

 やっぱり仕事? 性格?

 それとも、未来そのもの?


 未来だな、と私は思った。

 半分くらい既に決まっていて、でも咲かせるには苦労が要る。それは仕事ではなくて、未来だと思う。

 咲かせようと思わなければ、がんばれないよ。ただ漠然と目指した未来に待っているモノなんて、どうせ花も咲かないつまらない日々だ。目標がなきゃ、私たちは生きて行けない。それが、「生きる」っていう目標だとしたって。

 そしてニンゲンはサザンカと違って、自分で選ぶ力がある。どんな色に咲きたいか、どんな花になりたいか、自分で考えて未来を決められるんだ。




「…………」


 私、がんばるって言葉を履き違えてたのかな。

 もしくは、目指す未来が本当は見えていなかったのかもしれない。


 頑張り方には、種類がある。

 私、これまでずっと、時間をかけることが大事だと思ってた。だから塾の授業もほぼ毎日詰め込んでるし、寄り道もしないでいたんだ。質の維持も大事だけど、何より時間をかけなきゃ力にはならない。その考え方そのものに、間違いはないはず。

 でも、漫然と努力し続けることと、やる時はやって息抜きもするのは、全く違う。

 サザンカだってそうだよ。植物は光が当たらなきゃ、養分を作って蓄えることはできない。夜はちゃんと休んで、その分昼間にがんばって、そうしてみんな綺麗な花を咲かせるんだ。夏の熱線にも、秋の台風にも負けないで、寒波の冬に大輪の花を見せてくれる。

 サザンカの花言葉は、「ひた向きさ」。でもそれはだらだらと続くひた向きさじゃなくて、減り張りをつけている間のひた向きさ。

 そういうこと?


 答えはたぶん、サザンカだけが知っている。

 私は触れていた指をそっと外して、サザンカを見た。一直線に差し込む夕陽の色が染み込んだその花は、不意の風にカサカサと揺れた。


 その時、サザンカが何と言っていたのか、分かったような気がした。





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