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EveningSunlight  作者: 蒼原悠
第三章 ──あの夕陽が、見えますか?──
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Episode10 はぐれ中学生



────あっ!

 完全に忘れてた、荏原さんのこと!

 やばい!

 私は青くなった。もうけっこう、時間経っちゃってる……!

「……どうしたんだい」

 あたふたする私に気がついたんだろう、川崎さんが落ち着いた声で聞いてきた。ああ、私そんなに落ち着いてはいられないんです……!

「用事を思い出しました! すみません、もう帰りますね!」

「あ、ああ……。気を付けるんだよ」

「マタ会イマショウネー」

 二人の声を背中に受けながら、カバンを手に私はアトリエを飛び出した。



 今はもうさすがに、自分のいる場所が分かる。

 か細い夕陽の差す方へ、私は走った。離れてしまったあの交差点までは、あと数十メートルだ。

 しまったな……。川崎さんたちに再会できたショックで、完璧に忘れてたよ……。あの人、「私ってやっぱりそのくらいだったんだ」って嘆きそうだなぁ……って違う問題はそっちじゃない。

 荏原さん、未だに私のことを探してるはずだ。このままにしておくのは、さすがに申し訳ないって言うか可哀想って言うか……。


「……着いた」

 交差点に辿り着くとすぐに、私は背伸びして周りを眺めた。ダメだ、いくらライブの人たちがいなくなったって言ってもそもそも人通りが多い。どれが荏原さんかなんて、まるで分かんないよ。

 とにかくお店の方まで戻ってみよう。今来た道のすぐ左に延びる道に、私は踏み込んだ。人を掻き分け掻き分け──って言うほど混んでないけど──、前に進む。

 あった、看板。『スノウバレイ』だ。

 お店の前ではまだ、雪ヶ谷さんが勧誘(ナンパ)を続けているみたいだった。その前へ、私は駆け込む。

「あれ、芙美ちゃんじゃないか。どうした?」

 当たり前だけど雪ヶ谷さんはびっくりしたらしい。肩で息をしながら、私はそんな雪ヶ谷さんを上目遣いで見る。

「──ケーキまだ食べたいのか?」

「どうしてそうなるんですか……。あの、荏原さんのこと見かけませんでしたか?私さっき、そこの交差点ではぐれちゃって……」

 雪ヶ谷さんは少し目を逸らして考えていたみたいだった。ぽん、と手を打つ。

「ああ、あの子たちならさっき、ここに戻ってきたよ。そう言えば君のことを探していたな」

 やっぱり……。その時ついでに、小山さんも行っちゃったんだろうな。

「あ、ありがとうございました!」

 急いで戻らなきゃ。私はまた一礼すると、小走りで道へ出た。えっと、日が出てるから駅の方はあっちか……。

 ざわざわと耳を掠める雑音に、自分の足音が混じっている。ああ、駅はどっちの方向だっけ。今くぐった線路が東急東横線?それとも目黒線?

 とにかく他の人たちが目指す方向へ、私は走った。みんなが直進するから私も直進、曲がるから私も曲がる。そうしているうちに、見知った景色が向こうに見えてきた。

 あった、駅前広場だ!





 広場の真ん中まで来た私は、辺りをぐるりと見渡した。

 いるかな、荏原さんと小山さん……。こんなに人がいたら見えないよ。私の方は、見えてるのかな……。

 しばらく駅前をうろうろと歩き回ってみたけど、ダメだった。それらしい人影は、どこにもない。ああ、やっぱさっき別れちゃったのは痛かったなぁ……。


 どうしよう。

 最悪、私だけでも先に帰っちゃおうかな。あの二人はこの街を知ってるし、雪ヶ谷さんのところに立ち寄れば私が一度戻ってきたことも分かるだろう。

 私はもう半ば諦めていた。と言うより、この人混みから早く抜け出したかった。

 なんかもう、疲れたよ。プラスマイナスゼロの法則がまだ働いてることはよく分かった、分かりました。だからお願いです、帰らせてください……。



「…………」

 いいや、帰ろう。




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