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EveningSunlight  作者: 蒼原悠
第〇章 ──ひとりぼっちの帰り道──
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Episode04 いつも心に好奇心


 元に戻した自転車の前かごに、草まみれになっちゃったカバンを放り込んで。

 名前も知らないかわいい夕陽色のワンちゃんを、足元に添えて。

 いつもとは少し違う、私の帰り道が始まった。


 それにしても、どうやって探したらいいんだろ……。住所とか連絡先とか、書いてあったら良かったのに。

 そうだ。この子の興味の向くままにしていれば、いつか飼い主が恋しくなって探し始めたりするのかも。そう思って、しばらくはワンちゃんの動きに私が合わせることにした。

 そうしたらこの子、あっちにふらふら、こっちにふらふら……。道端にあるモノ全てに興味を示しているみたいに、匂いを嗅いだり辺りを見回しながら歩くの。

 ああもう、かわいい。かわいいけど、自転車で轢いちゃいそうになるから怖いよ。私も釣られて足元ばかりを眺めながら、慎重に後を追いかける。

 でも、私を置いて走って行っちゃわないあたり、この子の意識のうちから私はまだ消えていないみたいだ。

 そんなに仲間に見えるのかなぁ、私。いぬっぽいって言われたことは、今のところなかったはずだし……。

 まあいいや。後で悩もうっと。



 ワンちゃんに引っ張られながら、私は土手を歩き続けた。

 一応、進むたびに周りを見渡すけど、犬を探しているっぽい人影はちっとも見当たらない。どうしたんだろう飼い主さん、ワンちゃんがいなくて心配にならないのかな……。

 そんな私の憂いを知ってか知らずか──たぶん知らないだろうなって気がするけど、ワンちゃんは心の惹かれるものの移ろいに従うように、ずんずん先へ行っちゃおうとする。

 ワンちゃんの関心の向かう先は、色々みたい。真っ先に興味を示したのは、道端に寄り集まって生えている小さな草花たちだ。くんくんって鼻を動かしながらワンちゃんはその周りを一回りして、次に二つのつぶらな目でじいっと観察してる。

 何を見てるんだろう?

 気になって、私も倣って観察してみた。花の名前とかは小学校でも習ったはずなのに、いざこうして見てみるとちっとも分かんない。勉強って、本当に私たちの役に立つのかな……。

 でも、ワンちゃんくらいに目線を下げて眺めてみた土手には、普通に自転車で走って通り過ぎる分には気づけもしなさそうなたくさんの種類の花や草が顔を出していて、名前は分からなくても何だか少し、知ってる世界が広がったような気がするんだ。

 ピンクや白、それに薄紫。それぞれの色の花びらをまとった花たちを、西から差し込んだ夕陽は何もかも『夕陽色』にしていく。その輝きは穏やかで優しくて、しばらく見ていると眠くなっちゃいそう。

かわいいな。こんな花に囲まれながら眠ってみたいな。その時は、倒れ込まれないように自転車は脇に置いとかなきゃだね。

 ……なんて妄想しながら油断してると、ワンちゃんはどっかへ行っちゃいそうになってた。危ない危ない!

 もう、ゆっくりしてなんかいられないよ。


 この子の目に留まるためには、生き物でなくても問題ないらしい。

 次に見つけたのは、アスファルトの上に落ちていた小石。これも本当は灰色のはずだけど、西陽のオレンジに染められた今は凸凹の陰影がはっきりして、ちょっと違った夕陽色の顔を見せてくれてる。

 ワンちゃん、それがすっごく気に入ったみたいで、しばらく熱心に眺めてる。

「気になるの?」

 自転車を停めた私が尋ねると、この子は小石を口にくわえて振り返った。え、それ汚いんじゃ、なんて思っちゃうのは、人間が尺度の考え方だからなのかなぁ。そんなことを思っていると、子犬は小石を私の足元にぽとんと落とすんだ。

 くれるの? ……いやいや、もらっても使い道ないよ! 困るよ! 困るけどかわいい!

 もうね、口から小石を離した子犬がそのまま上目遣いに私を見上げて、『これじゃダメ?』って言いたげに首をかしげるのが、最高にかわいいの!

 ……なんて気を抜いてるうちにまたどっかへ行っちゃいかけて、私はまた慌てて後を追いかける。



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