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ゆめ日和~希望が丘駅前商店街~  作者: 天咲 あゆる
5/13

・みんなで食事です。私にもお酒下さい。

 東京郊外は松平市にある希望が丘駅前商店街。

 更にその外れにある形だけの民宿[ゆめくら]。

 そこが私のお城で居場所です。


 いいえ、正しくは先月迄お城でした。


 と言うのも。


「ねぇ、由芽ちゃんはさ、どうしてコイツが好きなん?オレじゃダメだった?」


 すっ、すっ、と、湯がいたフキの筋を取りながら、口を動かす雁屋さん。その雁屋さんの横で電卓を高速で叩くのは、何故かかつて兄だった人。


 先生はどうしたのでしょうか。

 あんなに心酔していた議員さんの秘書さんになれたのに。


「ゆーめーちゃん?聞いてる?聞いてないよね?」


 ぶつぶつ文句を溢す雁屋さんには悪いですけど、私は今混乱しているのです。


 兄さんには完璧な恋人さんがいたはずなのです。

 いくら信頼しあっている関係だからってそろそろ帰らなきゃフラレちゃいますよ?


 我が家の家計は苦しいのですよ。それに部屋数も限られてますしね。


「あぁ.やめやめ!!やってらんねぇー。どっか飯食いに行こうぜ。由芽ちゃんならこの辺で上手い飯出す店知ってるだろ?」


「神神飯店さんが美味しいらしいですよ。焼売とか餃子とかとか。」


「相変わらず好きだね、桃饅頭もあったら食べる?」


「食べます、雁屋さん好きです♪」


 と、昼食の計画を立てていた私と雁屋さんは、次の瞬間、命が縮むような心地を体験することになりました。 


「楽しそうだねぇ~、二人とも。そんなに仲良かった何て知らなかったよ」


 ―流石は元許嫁同士だったわけあるね?


 綺麗な笑顔が悪魔か鬼のように見えたのは目の錯覚ではないと思います。




「で、結局俺が財布かよ。

俺、今薄給なのよ?壱芦マジ鬼畜」


「黙って食え。役立たずめ。ゆめはもっと食べろ。体力つかないだろ」


 白磁の滑らかな陶器茶碗には、信じられないくらいほかほかなお粥が盛られていて、兄さんと雁屋さんは紹興酒を開けています。


 私も呑みたいのですが、お粥を食べ終わる迄お預けだそうです。


その間のお店の様子と言えば、


「奥さん、愛してるアルよ~。」


「ちょっと黙るね!!このお兄さん、衣装映えするね!!」


 お玉を振り回しつつ、雁屋さんと兄さんをギラギラした瞳で魅入る女の人と、その女の人に愛を叫ぶ男の人。

 そして、そんな二人を生ぬるいような瞳で見る人。


 多分、親子なのでしょう。


 私は少し女の子が羨ましいと思いつつ、一生懸命ご飯を食べました。


 で、それを見ていた兄さんは。


「また来ような。どうやらゆめはこの[神神飯店]の料理が口にあったらしい」


 口に合うもなにも。

 私の体調に合わせてくれたのですよ、多分。

 

 ですが、それは言わぬが華、ですよね?


 ですから私はそれを言わずにお礼と料理の感想だけを言葉にしました。


「美味しかったです。また来ますね」


 お腹を撫でながら言えば。


「待ってるネ、また来るよろし」


 にっこり笑って見送ってくれました。


 余談として、雁屋さんはお支払い地獄から逃れられました。


 よかったですね、雁屋さん。

 そして素直じゃないですね、お義兄さん。


 こうして私の初めての外食は神神飯店さんにて、無事に終了したのでした。



 

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