第4話:模擬戦
投稿が遅れてすみませんでした。
午前12時 沖野航空基地
北川は兵舎の自室の机で何かを書いている。机のランプ以外の明かりは無く、部屋は薄暗かったが、北川はこの薄暗い雰囲気が好きだった。
部屋は鉛筆で物を書く音以外は何も聞こえない。
北川がさっきから書いているノートは日記だった。
北川は子供の時から日記を書くのが趣味で、死ぬまで書くつもりだった。いつかこの日記を自分の子供、いや孫の代以降になっても読まれる続けることが北川の夢の一つである。
”5月12日 午前9時
今日は前から言われていた新しい相棒が来た。第一印象は大人しそうで弱々しかった。彼はどうやらあがり症だしく、私と司令に自己紹介をするとき噛みまくっていた。まぁ、その件は置いといて、問題は”腕”だ。まだ彼の実力はわからない。でも明日になれば「模擬戦」でわかると思う。もしダメだったらその時は血のにじむような猛特訓をされるつもりだ。”
北川は日記にこう書いた。
次の日、沖野航空基地の2本の滑走路の内の1本に2機の九六式があった。これが日記にも書いた模擬戦に使う機体である。
北川はその内の1機にもう着いて、機体の最終確認を側にいる整備士といっしょにしていた。
「どうですか?」
「うむ、いい出来だ。お前もだいぶ上達したな。」
「へへへ」などと会話をしていると、
「失礼します!!遅くなりました!!」といきなり後ろから馬鹿でかい声、いや怒鳴り声というべきかな。
北川と整備士は思わず驚いた。それはもうはたから見たら二人の体は一瞬だが思いっきり”ビクン”と震えた。
「いきなり後ろから声をかけるな!!」北川は思わず怒鳴ってしまった。
(やばい!!つい!!)さすがに北川もまずいと思った。
声の主は安藤少尉だった。安藤は軍人だしい直立不動で立っているが、よく見ると体が小さく震えていた。表情も硬くなっている。
「す、すまん安藤・・・つい...」
「い・・いえ、私もいきなり・・声をかけてしまって。」安藤の声は誰が聞いても明らかに震えていた。
(あ~気まずい雰囲気になってしまった。いつもそうだ・・)九六式の操縦席に着いた北川はぽつりとつぶやいた。
北川は昔からこの目がコンプレックスの一つであった。この目のせいで初対面の人によい印象を与えていないのだ。ある者は安藤のように怖がるし、またある者は”挑発している”と捉えてしまうなど、この目せいでいい思いをしたことが一度もないのだ。
本来、北川は人思いの優しい性格なのに感情を顔に出さない無表情でコミュニケーションが苦手でいつも無口なことが重なり大抵の人からは、”ヤバイ奴”だと思われてしまっている。
(嗚呼、おかげで同期で友達は”坂田”と”武藤”だけだし・・あれ、なんか涙が出てきた、ははは・・・)苦笑いをしながら北川は頬をつたる涙を拭いた。
その頃安藤はもう一方の九六式の操縦席でため息をついていた。主に憂鬱な時のため息である。
(はぁ、中尉はどんな戦法で来るのかな。やっぱり格闘戦かな・・もしかして・・」安藤は訓練兵時代に北川の”ある噂”を聞いたことがある。
北川中尉の空戦は例えるならまるで血肉を欲する貪欲な獣のような戦い方だという。
それを思い出した安藤の顔は一気に蒼白になった。
2機の九六式はそれぞれ1番、2番滑走路に待機していた。ちなみに赤い帯は北川で、白い帯は安藤である。
「北川中尉、安藤少尉。準備はよろしいでしょうか?」滑走路の側で折りたたみ机と椅子を用意して見ている整備士が通信機で2機に質問した。
「大丈夫だ、問題ない。」
「はい。」2人は質問に答えた。
北川はスロットルレバーを徐々に上げていき、それに合わせて機体も進み始めた。ふと隣の安藤の機体に目をやった。あちらも調度動き出したようだ。
北川と安藤の機体は始めは亀のように遅かったが、徐々に速度が早くなっていき、時速80kmに達した時、車輪が浮き上がり、2機はそのまま空へと飛んでいった。
2機はしばらく機体を上に向け、上昇していた。模擬戦が行われる高さまで行ったら、模擬戦を開始する予定である。
北川の機体の目の前に巨大な雲があった。北川はその雲にそのまま突っ込んだ。北川は視界が白一色の世界になった。
「ふふふ、そういえば子供の時、雲を綿菓子だと思っていたな。」などと北川は思い出し笑いをした。
”中尉そろそろ目標地点です!”と安藤の声が通信機越しに聞こえた。北川はそれに答えた。
北川と安藤はお互いを追いかけるように左旋回していた。これは地上から模擬戦が始まる合図のを待っていて、飛行機はヘリのようにその場にとどまって飛行ができないので、このようにお互い旋回しているのである。
”しかし遅いですね・・”
「そうだな。」もう目標の高度まで上がって報告したのにかれこれ3分は経っている。
すると突然、通信機から雑音がなり整備士の声が聞こえた。
”すみません。通信機の真空管が割れてしまって取り替えていたんです。”と整備士は説明した。
「そうか、それじゃはじめるか。」
”それでは・・よ~い・・”リレーかよと北川は心の中で思った。
”始め!”その合図で2機は旋回していたところから一旦離れ、北川はUターンしてに安藤機に突っ込んで行く。
一方安藤はというと離れたら、なるべく北川から距離を話そうとスロットルレバーを全開にしていた。
ふと安藤は後ろを見た。すると北川機がすごいスピードで追ってきているのに気づいた。
「み・・見るんじゃ・・・なかった。」見た後悔と北川が猛スピードで追いかけてくる恐怖で安藤の顔は一気に雪女並の白さになった。
安藤は慌てて操縦桿を捻った。考えがあったわけではない、ただとっさな行動だった。
安藤の機体は左主翼が下がり、代わりに右主翼が上がった。そして機体は滑るように左に移動した。左旋回である。
しかし、それでも北川も左旋回で追いかける。安藤はその後も左旋回や右旋回を繰り返した。しかし北川はそれでも追いかけ続ける。
「ひいいいい」安藤はもう死に物狂いで逃げる。目には涙が溜まっているのが自分でもわかる。
「!そうだ!!」安藤はあることを思いついた。
北川はそろそろこの模擬戦に終止符を撃とうとした。
「ふむ、一般的な腕前だな。」などとつぶやいていると安藤が奇妙な行動に出た。
それは、機首を上に上げ、上昇させたのだ。北川はその行動の意味をすぐに理解したが、あえてそのまま追いかけた。
「よし!ついてきてるな!」安藤は後ろを確認して北川機がついてきているかを確認した。
「・・・今だ!」安藤はスロットルを引き、機体を減速状態にさせた。すると北川機がそのまま前に出た。安藤はすぐさま引き金を引いた。しかし、
「え?」北川機は突然安藤に視界内から姿を消した。
すると機体の後ろから軽い衝撃が来た。安藤は一瞬ないがあったかわからなかったがしばらくして横に見失った北川機が見え、同時に通信が入った。
「”安藤、尾翼に命中した。お前の負けだ。以上”」通信が切れて安藤はやっと事がわかった。
「そうか・・負けたんだ。」と安藤はつぶやいて、北川と共に基地の方角に向かった。
二機の九六式は滑走路に陣取っていた。一機には尾翼に赤い色のペンキが着いていた。
そのすぐ傍で北川と安藤がいた。
「え~と、評価する前に安藤、お前に聞きたいことがある。」
「はい。」
「お前は”木の葉落とし”をどこで習った。」木の葉落としはベテランのパイロットにしかできない高難易度な技である。なのに新米の安藤がいきなりこの技を行なったから北川は安藤に質問したのだ。
「それは・・」安藤は一瞬言うのを躊躇ったが、それでも話した。
「信じられないと思いますが、昨日、中尉は模擬戦をましたね。」
「ああ、それがどうした?」
「実はあれを見て見よう見真似でやったんです。」その言葉に北川は驚いて言葉が出なかった。
「・・・・・」
「・・・・・」第三者から見たら異様とした言い様がない雰囲気(主に北川せいで)を出しながら二人は沈黙した。