第八話 最後の賭け
何一つ音のない孤独感と、淋しさを詰め込んだ美音の部屋に、赤や青、緑、いろんなグラデーションの光が美音の目に飛び込んできた。
携帯を見ると、メールだった。誰からだろうと開いてみると、流星君からだった。まぁ、綾に頼んでおいたのだから不思議はないんだけれど、予想以上に早くメールがきて驚いた。それに、少し嬉しさも感じていた。音のない世界で過ごしていると、世界に自分だけ置き去りにされたような孤独感が、波のように押し寄せてくる。そんな時のグラデーションの光は、少しだけ波を押し返してくれる。
メールを見たあたしは、悲しかったとか本当の気持ちが知りたい、と言うフレーズにばっかり目がいってしまう。
『ダメ!!』
あたしの心がストップをかける。こういう言葉に寄りかかって何度も痛い目にあってきたから、素直に喜べなくなってる。特に男の人の言葉には…
でも、流星君は今までの人達と違うように感じた。初対面であそこまで言える人はなかなかいないし(ただ無神経だけなのかもしれないけど)、人と接するのが怖いっていう気持ちも解ってくれた。
それに、あたしに怒ってくれた時の目、あの目はただムカついてるだけの目じゃなかったと思う。耳が聞こえない分あたしには解る。
同情の目、怒りの目、思いやり優しさの目、もう一度あたしは自分の勘に賭けてみる事にした。そして、あたしは本当の気持ちをメールに打ち込んだ。
<メールありがとう。確かに昨日はあたしイライラしてたと思う。実は、綾と百合に半分無理矢理連れていかれたんだ。彼氏探しにって…。だからって流星君に当たって、あたしの方こそ年上なのに大人げなかったです。ゴメンナサイ…
あたしの本当の気持ち入れるね。
あたし人と接するのが怖い。って言うより、人にどう見られてるのかが怖い。小学校の時、事故にあって、それから耳が聞こえなくなったんだけど、それからはずっと、人の顔色ばっかり窺って生きてきた。親も、友達も、関わる人全て…。あたしの隣には、いつもいろんな恐怖と、孤独感がいるの。
こんなあたしでも好きになってくれた人も何人かいた。でも、結局あたしが重荷になって、適当な別れの言葉を残して去っていってしまうの。偽りの優しい言葉を残してね…。
そんな事繰り返してるうちに悲観的な考えになっちゃったのかもね。流星君に言われた通り悲劇のヒロインなのかもしれないけど…。
あたしの素直な気持ちは、この孤独と恐怖を忘れる居場所が欲しい。ただそれだけだと思う。
ゴメンねこんな長々と。後、流星君が知りたいって言ってくれたの嬉しかったよ。なんてね…
ありがと>
あたしは、思い付くままに一気に打った。でも打ち終わってみると、恥ずかしくなってきた。送ろうかやめようか三十分位、携帯を持ってウロウロしていたが、意を決して送信ボタンを押した。
俺は、ベットの上でゴロゴロしながら雑誌を読んでいると、携帯が勢いよく鳴った。俺は、ビックリして飛び上がった。俺って結構小心者だなぁ〜、と思う瞬間の一つがこんな時だ…。
携帯を見ると美音からのメールだった。ドキドキしながらメールを聞いてみた。
… … …そうだったのかぁ、これが美音さんの本当の気持ちかぁ。孤独感と恐怖心かぁ、それは、きっと俺なんかの想像を遥かに越えて苦しいもんなんだろうなぁ。そうゆう気持ちも分かってないくせに俺はあんな事を…。今までにもまして罪悪感が沸いてきた。
でも一つだけ入れておかなきゃならない事があった。
<返事ありがとう。
美音さんの気持ち、少しだけ解った気がします。でも、解ったなんて言ったらまた美音さんに、何が解ってるのよぉーって、怒られそうだけど…
俺、美音さんに一つ言いたい事がある。美音さんは、自分で気付いてるか分からないけど、自分に対して「あたしなんか」とか、「あたしなんて」と言う言葉を良く使っているけど、そんな事を言わないで下さい!!つーか、美音さんは、自分に対して「あたしなんか」とか、「あたしなんて」を使わなきゃいけない人じゃない!!使わなきゃいけない奴は他に沢山いるよ!!まぁ俺も時々使ってるけど…。でも、やっぱり自分の事は、もっと好きになりたいから使いたくない。
偉そうな事言って、また怒らせたらゴメンナサイ。でも、これだけは伝えておきたくて>
メールを送信して、今日はもう寝る事にした。
目を閉じると、その奥に出てくるのは、何故か美音のフフッと笑ったあの笑顔だった。