第五話 優しさ=同情…?
俺と美音がボーッと見つめ合ってると、
「おい流!!何、美音さんに見とれてるんだよ!」
と、俺は俊に叩かれた。
「いってぇ〜なぁ!!別に見とれてなんかねぇよ」
と、今度は俺が俊に叩き返してやった。すると、美音がフフッと小さく笑った。俺達は何となく恥ずかしくなってきて、くだらない争いはやめた。
食べたり飲んだりしながら、当たり触りのない話を一時間位みんなでした頃、
「そろそろみんな打ち解けてきた頃だし、席替えでもしない?」と、綾が言った。
「いいっすねぇ」
一番先に食い付いたのは、やっぱり俊だった。
「じゃあ割り箸にA、B、C一人づつ引いて」
そう言うと歩は、割り箸に書き始めた。
「さぁ〜引いて。俺は余り物でいいよっ」
綾から順に割り箸を引いていった。そして、みんなが引き終わったのを確認すると歩が、「さぁみんな一斉に出してね。せーの!!」
一斉に出された割り箸を見ると、綾と歩、百合と俊、そして俺は、美音と一緒だった。テーブルの下で、小さくガッツポーズしてる俊を横目に、俺は少し不安だった。だって、耳が聞こえないんじゃぁ喋れないし、俺が手話を出来る訳でもない。俺の内心を見抜いたのか百合が言った。
「流星君手話出来る訳ないよねっ?美音と筆談してあげて」
やっぱり百合は優しい。ちょっと俊が羨ましくなった。
でも、俺には一つ気になってる事があった。あの一瞬目があった時の『怖い…。』と言う言葉が何かひっかかる…
綾と歩は、さすが知り合いだけに共通の話題もあって、楽しそうに話してる。
俊と百合は、カラオケをしてる。って言うか、俊が百合に気に入ってもらおうとして、一生懸命にあれこれやってるって感じだ。
俺と美音はというと、少し時間が経っているのにまだ何も話していない。百合からノートを渡されたが、何を書いていいのかさっぱり分からない。とりあえず、ノートに
<美音っていい名前だねっ>
と書いてみた。それを見た美音のペンが、素早くノートの上を走り、
<そんな事ない!だって、あたしには美しい音なんか聞こえないし、美しい声だって出せない。そんな子に、美音なんて全くあわない。無音の方がピッタリよ>
そんな風に前面否定されちゃって、次、返す言葉に困ったが、俺は又書いた。
<そんな事言わないでよ。耳が聞こえなくたって、綾さんと百合さんみたいな、いい友達いるじゃん。>
すると、すぐにペンは走り出した。
<はっ!?何処がいい友達なの?>
<だって色々気を使ってくれたり、優しいじゃん。>
<あんなん優しさなんかじゃない。あたしはみんなが話してる事、口の動きで分かるの。みんな、あたしを見て、可哀想って同情してるだけよ。>
<そんな事はないよ。綾さんも百合さんも、美音さんの事、考えてるって>
<違う!あの子達は、あたしに同情して優越感に浸ってるだけなのよ!>
俺は、悲観的な事なっかり言う美音にイライラしてきていた。
<美音さんの辛い気持ちも分かるけど、友達なんだからもっと信じなよ>
<解る?解る訳ないじゃない。そんな綺麗事言わないで!こうゆう身体になった人にしか、気持ちなんて解んないの。私なんてどうでもいいでしょ!?ほっといてよ>
俺はもう我慢の限界だった。テーブルをバン!と叩き、立ち上がった。みんな一斉に俺に注目した。
「あぁそうだよ!!本当の事言ってやるよ!あんたの気持ちなんて分かんねぇよ!!悲劇のヒロイン気取って、みんなを否定してるような女の気持ちなんて解りたくもねぇよ!!あと、そんな女、言われなくてもほっとくよ!」
そう言って、俺は部屋を飛び出した。
後ろから歩と俊が追い掛けてきた。
「どうしたの流?何があったの?」
「女の子にあんな言い方すんなよ!!」
二人の言ってる事には答えないで、
「ゴメン雰囲気壊しちゃって…先に帰るわ俺」
と、言いたい事言ってスッキリしているはずなのに、俺の心に引っ掛かるものがあった。
ずっと…