第20話 夏の始まり
今日は受験生らしく図書館で勉強をしている。この間、ペンを落とした時と同じ席に座っている。何でかよく分からないけど、この前の事がまだ少し気になっていたのか、自然とこの席に吸い込まれてきた。
今日は、流星の勉強を見に美音が来てくれる事になっている。恋人同士が図書館で勉強なんて、何か青春だなぁなんて、思いながら勉強をしていると肩をポンポンと叩かれた。振り返ると美音が笑顔で立っていた。
『遅くなってゴメンネ』
『全然いいよ。勉強あんまりはかどってなかったし。』
そんな会話をして、美音が席に座るなり、
『さぁ、今やってる所見せて?』
楽しい会話がまだ終わってないのに、もう勉強なのかよと思ってしまった流星だったが、参考書を美音にみせた。美音はしばらく参考書を見た後、
『何か懐かしいな。あたしも受験の時は、綾と百合とで図書館に来て、毎日のように勉強してたな。』
と、昔を懐かしんで笑った。流星は、そんな無邪気な美音の笑った顔が可愛くてたまらなかった。ここが人気のない森の中だとしたら、確実に抱きしめているところだ。でも、ここは夏休みで人気の多い図書館…。
思い出に浸っている美音をポンポンと叩いて現実に引き戻して、
『勉強はどうするんですか?先生。』
と、流星が笑った顔で言うと美音が、
『ゴメンゴメン。ついつい自分の時の事を思い出しちゃって…。それじゃ今日は、この30ページをやってみよっか。』
と、美音が参考書を流星に渡した。
二時間くらい勉強して休憩する事にした。
『流星全然勉強できるじゃん!!あたしが教える事ないくらいだよ。』
『そんな事ないよ!!美音と一緒にやってるからいい感じに進んでるけど、一人でやってたら全然集中できないもん。先生がいいんだよ。』
それを聞いた美音は、少し顔を赤くしながら笑っていた。
『受験生がこんな事言っていいのか分かんないんだけど、8月に入ったら毎年歩達と、俺のばあちゃんの所に遊びに行くんだけど、美音達も行けたらいいなぁって思ってたんだけどどうかなぁ?』
『そうなんだ。あたし達も毎年夏休みに三人で旅行してるんだけど、今年の行き先がまだ決まってないから、予定があえばいけるかもしれないね。』
『そっか!!行けるといいなぁ〜。ばちゃんの家は田舎だからすごく広いし、花火大会も大きいのがあるから、美音ともいっぱい思い出作れるからいいと思ってさ。』
美音はまた顔を赤くして喜んでくれた。その時ふと、この間の事を思い出した。この場所、この席で起こった流星にとっての大事件だ。結で確かめて、その疑いはなくなったはずだけれど、やっぱり心に引っかかっていたので、美音の目を見つめた。すると、
『流星と旅行かぁ〜。何かドキドキしちゃうな。逢うたびにどんどん好きになって、いろんな流星がわかってきてる。こんなに好きになれて本当に幸せ!!ありがとう流星。でも、こんな事恥ずかしくて言えないけど。』
と、頭の奥の方でしっかり聞こえてきた。確かめる為に聞いたつもりだったのに、思わぬ形で美音の本音と遭遇してしまった。こっちまで顔が赤くなって、美音から目が離せなくなった。そして、そのまま美音を見続けていると、目の前で手が行ったり来たりした。不思議そうな顔をしながら美音が、流星の顔を見ていた。
『あたしの顔に何か付いてる?』
と、聞かれて、流星は慌てて首を横に振った。いつもそうだ!!この能力を使った時は、何故か不自然な反応をしてしまう。いつになっても慣れない部分だ。
『そろそろ勉強に戻ろうか。』
二人は、頬を赤く染めたまま再び勉強を始めたのだった。
その頃、歩と俊が公園でキャッチボールをしながら話していた。
「なぁ歩!!綾さんて俺につりあってるのかな?最近思うんだけど、俺達ってノリで付き合ったみたいなところあるじゃん!!それなのに綾さんすごく尽くしてくれるんだよなぁ!!あんな綺麗な人が色々してくれると不安になっちゃうよ…。俺ってシャイで恋愛ベタな男じゃん!?」
と、言うと歩が笑って、
「恋愛ベタは分かるけど、シャイははどうかなぁ??」
と、言った。
「シャイなの!!」
と、思いっきり歩にボールを投げた。すると歩が、
「いいじゃん。甘えて尽くしてもらっちゃえば!!男のプライド捨てて、女の子に流されるのも必要だよ。そう言えば話変わるけど、今年も流星のばあちゃんの所に行くでしょ?もし良かったら、百合とか、綾ちゃん達も一緒に行けたら楽しいだろうね。」
歩がそう言うと、俊がダッシュで歩に近付いてきて、
「それいい!!すっげぇ〜楽しそう!!」
と、はしゃいでいると歩が、
「あっ!!でも、どっかにオオカミがいるからだめかもね。」
そう言って、歩が笑っていると俊が、
「お前オオカミって誰のことだぁ〜〜〜〜!!」
と、歩を追い掛け回していたのだった。
こんな風に流星達の夏休みは幕を開けたのだった。