第二話 秘密
電車を降りて、俊と歩と、クラスのあの子が可愛いとか、あのアイドルがどうとか、たわいもない話をしながら学校へ向かっている。でも、俺はいつもうつむき加減で歩いている。いつからこんな風になったのかは、良く覚えていない。けど、親や先生に、「人と話す時は、相手の目を見なさい。」なんて、良く言われた記憶がある。それは、人見知りや、照れ屋、なんて簡単な理由なんかじゃない。皆はそう思っているかもしれないけれど、それはない。だって俺は、決してそんなキャラじゃない。
ホントの理由は…
相手の目を見ると、その人が今、何を考えているかが分かってしまうからだ。目を見ると、耳の奥で相手の声がする。しかも、微かな声じゃなくて、ハッキリ聞こえてしまうんだ。こんな事、誰かに言っても信じてもらえる訳がないから、ずっと秘密にしてきた。
皆は、「人の心が分かったらいいのに」とか、「心の声が聞けたらなぁ」とか言うけど、全然良い事なんかない。初めは、誰かがホントに、話しているのかと思ったが、そうでない事に気付き、嬉しくもあり、好奇心を揺さぶられるような、不思議な感覚だった。俺は、この能力を使っていろんな人の心を覗いてやった。
授業中に先生が、「あいつ今日のブラは黒かぁ、いいねぇ」とか言っていたり…
交番のおまわりが、「暇だなぁ〜事件でも起きねぇかなぁ」とか…
好きな女の子が、「流星君っていつ見てもカッコイイなぁ」とか…
でも、ありとあらゆる人の心を覗いている内に当然と言うべきか、聞きたくない声まで、聞こえてきてしまった。
相手の本音、表じゃなくて裏の部分が…
俺の話にすごく共感してくれている目の前の相手の目を見ると、鼻で笑う声が聞こえてきたり、本音と言うのは、時として残酷だった。
俺は、俊や歩、父ちゃん、母ちゃん、結には一回も、ちゃんと目を見て喋った事はない。一時期人間不信になった事もあったが、この人達だけは信じたかった。でも俺は、信じたかったくせに皆の目を見て話せない…
やっぱり、何処か怖かったのかも知れない。
こうやって、俺は生きてきた。こんな事をボーッと考えてたら、「流どうした?」と、歩の優しい声がした。「何でもないよ。」と言うと、「どーせエロい事でも考えてたんだろ」と俊が笑いながら言う。「歩は優しいな、どっかの誰かさんと違って!!」と、皮肉たっぷりに返してやった。
俺は、三人でするこんなやりとりが、かなり好きだ。
みんなの、目の奥にある真実を知らない今だから…一つ溜め息がこぼれた。