第十七話 織姫と彦星
いよいよ、誕生日を明日に控えた日の夜、流星は早々と布団に入り、今日にたどり着くまでの何日かを振り返っていた。
まず、俊を強引に呼び出して歩の事をちゃんと説明して、誕生日パーティーの時だけは普通にしてくれと何とか説得して、歩にも、俊は大丈夫だから来てくれと頼んだ。その後、美音に連絡をして、これでやっとみんなが来てくれる事になった。かなりの力を使った気がする。でも、これも美音と楽しく自分の誕生日を過ごしたいと言う目標もあったから頑張れたのかもしれない。そんな事をボーっと考えていたら何時の間にか眠りに着いていた。それは、まだ十一時の頃だった。
十二時ちょうど流星の携帯にメールが届いた。しかし、流星はもう深い眠りの中で起きる気配はなかった。
「流!!起きなさい!!もうみんな来てるわよ!!」
「お兄ちゃん置いていくよ!!」
と、うちの女達の声が耳に飛び込んできた。布団の中、寝ぼけた頭をフル回転させて考えた。その数秒後、慌てて飛び起きた。
「すぐ行くから待ってて!!」
と、叫んで急いで着替えを始めた。何を着ていいのか、何をどうすればいいのかさっぱりわからなくてパニックになってると、いきなり部屋のドアが勢いよく開いた。
「おっはよー!!主役が寝坊してどうすんだよ!!」
俊が笑いながら入ってきた。
「俊!!そこの服取って!!」
俊に手伝ってもらって、焦りながらも着替えを終えて部屋を出ようとすると俊が、
「おい流!!携帯忘れてるぞ!!」
と、言ったが、いらないと言って下に降りてしまった。
下へ降りると、綾、百合、美音、歩、結、母ちゃん、父ちゃんが勢ぞろいしていた。流星が部屋に入ってくるなりみんな笑っていた。流星は、少し赤くなった顔で、
「ごめんなさい!!」
と、深く頭を下げて謝ると、それを無視するかのように母ちゃんが立ち上がり、
「さぁ〜みんなそろそろ出発しよっか。」
と、言って後、みんな一斉に動き出した。みんなぞろぞろ出て行き、最後の父ちゃんが流星のケツをポンと叩いて出て行った。流星はその後を急いで追いかけて行った。
車の中で自己紹介なんかを軽くしたり、母ちゃんと結の、みんなへの質問攻めなんかをしている内に海に着いた。
今日は幸い雲一つ無い晴れた日で、海がキラキラ光って見える。荷物を降ろして、いろんな準備が整った所で母ちゃんが、
「それじゃ〜男性陣は、魚を釣ってきてちょうだい!!女性陣は、バーベキューの下ごしらえをしま〜す。」
と言った。流星はドキッした。歩と俊を同じ空間に置くなんて危険な事…。そう思ってた時綾が、
「あたし全く料理とかダメなんですよね。包丁持つと危険ってよく言われるし、あたしも釣りじゃダメですか??」
「それなら仕方ないわね…。それじゃ〜行動始めぇ〜。」
綾の料理が出来ないと言うのが本当か嘘かは分からないが、とにかく心強い人が来てくれて少しホッとした。
釣りのポイントに向かう途中歩と俊の微妙な距離を保っていた。ポイントに着いて、釣りを始めた。綾は釣りをした事がないと言うので、みんなのを観察していた。少し時間が経って綾が流星の横に来て聞いてきた。
「あの二人って本当に仲直りしたの?そんな感じじゃないよね?」
「実はそうなんです。二人を何とか説得して来てもらったって感じですよ…。」
「じゃ〜本当の意味で仲直りさせなくちゃね!!」
そういうと、綾が、歩と俊の間に行って、
「ねえねえ二人ともそろそろ仲直りしないの?それでいいの?」
流星は慌てて綾に近付いて行き、
「綾さん!!今日はその話しなくても!!」
「今日だろうが、明日だろうが、いつかは話さなきゃならないんだから、今だっていいでしょ?」
「そうだけど…。」
流星は返す言葉を無くして黙っていると歩が、
「そうだよね。いつまでも逃げてちゃダメだよね…。俊、俺が悪かったよ!本当にゴメン!!百合との事隠して、俊を傷付けた事謝るよ。」
歩が頭を下げると俊が、
「何謝ってんだよ!!百合さんとお前が付き合ってた事なんてしってたんだよ。俺は、そんな事で傷付いてなんか無いし、そんなんで怒ってたんじゃねぇ〜よ!!」
「それならどうして…?」
俊が歩に背中を向けて言った。
「俺は、お前が百合さんとの事を隠してた事に腹を立ててたんだよ!!俺達って、今まで何でも話してきたじゃねぇかよ!!それなのに隠し事なんかしやがって!!俺達ってそんな仲だったのかって悔しかったんだよ!!お前を殴ったのは、お前に嫌われようとしたんだ。好きになった女がお前を好きで、初めは悔しかったけど、お前で良かったと思ってる!!俺の信用してるダチなら、好きな人を任せていいと思ったんだ!!まぁ〜俺のものじゃねぇけどな…。そうゆうお前の遠慮にムカついたんだよ!!」
歩は俊の本音を知って涙ぐみながら、
「本当にゴメン!!俊がそんな風に思ってくれてるなんて知らなくて…。」
その言葉を聞いた俊も肩が少し震えてるように見えた。俊が振り返って言った。
「もういいよ!!その代わり、俺の分も百合さんの事幸せにしてあげなかったら許さないぞ!!お前だって百合さんの事嫌いじゃないんだろ?」
「嫌いじゃないけど、俺はもう戻る気は…。」
「ゴチャゴチャ言わないで戻ればいんだよ!!わかったか!?」
「はい…。」
そのやり取りを聞いていた流星は、これでいいのか?と、思う部分もあったけど、とりあえず仲直りが出来たんだからいい事にした。それまで歩と俊のやり取りを何も言わずに見ていた綾が、
「これで一件落着ね。二人とも握手して!!それでもうこの話は終わり!!」
歩と俊は、綾の言う通り握手した。二人の頬は真っ赤になっていて、改めていい友達を持ったなぁと実感した。そんな俺達のやり取りを、少し離れた所で釣りをしながら聞いていた父ちゃんが呟いた。
「若いっていいよなぁ〜〜。」
と…
その頃母ちゃん達は、野菜を切ったりしながら楽しそうに話をしていた。でも、美音はキョロキョロして一生懸命にみんなの口の動きを読むのに必死だった。美音はそんな感じで、少し居ずらさを感じていた時だった。目の前に指が出てきて、ぎこちなく動いた。その相手は、母ちゃんだった。指の動きと口の動きで、『いつも流星がお世話になってます。』と手話をししたのだ。結、百合、美音の三人はすごくビックリした。結がすかさず聞いた。
「お母さん、手話なんて出来たの!?」
そう結に聞かれた母ちゃんは、
「流の部屋掃除してた時に手話の本見つけたからちょっとだけ勉強してみたんだ。」
と、ちょっと照れながら言った。
「ちゃんと伝わったのかなぁ?」
と、美音に向かって聞いた。美音はその口の動きで理解して、うんうんと頷いた。その後は、百合を間にして四人で女だけの会話を楽しんだ。美音は、母ちゃんの優しさのおかげでそこからはしごく楽しそうで笑顔もたくさんこぼれていた。
どれぐらいだか時間が経って、みんなが合流した。そしていよいよバーベキューが始まった。みんながグラスを持って(中身は、ビール!!何故かこの日だけは、母ちゃんも父ちゃんも酒を許してくれた)円になった。そして母ちゃんが、
「天川流星君十八回目の誕生日おめでとう〜〜〜〜乾杯!!」
と、甲高い声で掛け声をかけるとみんなも、
「おめでとう〜〜!!」
と言ってくれた。一人喜びに浸っていると、母ちゃんが何かを渡してくれた。
「これは家族から。流が前から欲しがってた物はいってるから。」
と、満面の笑みを見せた。ワクワクしながら仲を見る愕然とした。何と中身は、参考書だった。みんな一斉に笑いだし、
「受験だもんな!!いい物もらったじゃん!!感謝しろよ!!」
等等と、口々にいろんな事を言う。パチンと母ちゃんが手を叩くと、みんなバーベキューの肉へと方向転換してしまった。これで流星の誕生日は終わり!!まぁ、何もないよりは全然ましだからいい事にした。
その後酒を飲んだり、食べたりして楽しく過ごしていたが、一つだけ気になる事があった。何か美音の態度がいつもと違う感じがした。でも、気にしないでみんなでワイワイやってると結が隣に来て言った。
「お兄ちゃんの好きな人って美音ちゃんなんだね。かわいらしい人だよね。お母さんも気にいってるみたいだし良かったね。でも、お兄ちゃんのタイプは百合ちゃんにも思えたんだけどね。」
さすが結は鋭い!!第一印象は百合だし、外見的なタイプで言ったら百合が理想に近いんだけど、やっぱり好きになるのは外見だけじゃないんだって改めて思い知らされた。
「そんな事ないよ!!俺が好きなのはあの人だけだよ。」
酒が回ってきたのか、結にストレートに言ってしまった。
「まぁ〜頑張ってね。こうゆう綺麗な所で告白されると女の子って意外と弱いから。」
と、結が笑顔で言って戻って行った。
時間が経って、夕日が綺麗に見える。みんな片付けに掛かってるところで美音が一人、手があいてるみたいだったので、チャンスだと思って美音を誘い出した。
美音と二人みんなから離れたところに来た。何を話そうか考えていると、美音がバックの中から何か小さな袋を渡してきた。流星は、俺に?と、自分の顔を指指すと、美音はうん、と頷いた。流星は中を見て笑顔になった。そこにはイルカの小さなガラス細工と、イルカのストラップが入っていた。流星が顔を上げると美音がノートを見せた。
<お誕生日おめでとう。今日はすごく楽しかった。それはあたしからのプレゼント。大した物じゃないけどとっておいて。>
流星はそれ見て、大きく首を横にふった。流星は満面の笑みでありがとうと手話でした。嬉しさと、景色の良さと、少しの酒の力もあって、自分の本当の気持ちを言う事にした。美音からノートを借りて書いた。
<俺は、今日と言う日を美音さんと一緒に過ごせて幸せだよ。第一印象は最悪だったけど、逢うたびに好きになって行った。こんな幸せな気持ちになったのは初めて!!あんまり長々と思いを伝えるのは得意じゃないから単刀直入に言います。>
そこまで書いたところで美音にノートを見せた。美音が読み終わって顔をあげたところで流星は手話で、
『美音さんの気持ちはわからないけど、俺は美音さんの事が大好きです。もし宜しければ、付き合ってください。』
と、おぼつかない手つきでした。美音は顔を赤くしてノートに何かを書きだした。まぁ、顔が赤いのは、夕日のせいかもしれないけど…。美音がノートを流星に差し出してすぐにみんなの所に走って行ってしまった。嫌われたのかと思ったがとりあえずノートを見てみた。
<返事はもうシンデレラが帰る時間に伝えてあるよ。>
とだけ、書いてあった。何のことだかさっぱり分からなくて呆然としていると遠くから、
「おいていくわよ〜〜〜!!」
と、甲高い母ちゃんの声がした。そしてモヤモヤした気持ちを抱えながら家路に着いた。
夜になり、熱くなって窓を開けると空には満天の星空が広がっていた。そしてベットの方を見ると携帯が光っていた。誰かからメールが来ていた。中を見ると、
七月七日 0時
美音
<お誕生日おめでとう。あたしは、もうこの気持ちを抑える事が出来ません。流星君はどうか分からないけど、あたしは流星君が大好きです。来年のこの日もこうして0時ちょうどに、この世で一番最初にあなたにおめでとうを言いたいです。>
と書いてあった。流星はびっくりして腰を抜かしてしまった。シンデレラが帰る時間…。そうゆう事だったのか!!今日は本当に今まで生きてきた中で一番幸せな誕生日になった。
こうして流星と美音の心の中に天の川がかかって、織姫と彦星のように結ばれる事が出来た。そして、空にも天の川はちゃんと輝いていた。