第十五話 守りたい絆
水族館のイルカの水槽の前に、美音と流星がたっている。それを美音自身が上から見ている。これは一体何なんだ?と、思いながらも二人を見ていると美音が、
「あたし流星君の事好きよ。」
と、言っている。
しかも、美音は手話ではなくてちゃんと流星に聞こえる声で言っていた。どうして自分が話せるのか分からなかったが、何だか嬉しかった。そして、美音は流星に笑い掛けると、流星はそ
の笑顔から目をそらして、何か一言だけ言って消えてしまった。そこで、パッと目が覚めた。目が覚めてやっと夢だった事に気付いたが、それでも心はすごく切ない気分で一杯だった。最後に流星が言った一言は、口の動きからすると、『ゴメン』といっていた。美音は、最後の賭けもダメなのかと朝からブルーな気分になった…。
一方、流星も同じ頃夢を見ていたが、流星の方は美音と全く正反対のすごく嬉しい内容になっていた。そんないい夢を見て目が覚めた流星は、すぐに美音にメールを入れた。
<おはよう。今日はいい天気だし、すごくいい夢見たから気分がいい!!今日から俊と、歩を仲直りさせるために頑張るよ。美音さんも何かいい案があったら教えてね。>
朝から勢いに任せてメールなんて入れてしまった。でも、自分の気持ちがハッキリ分かると意外と大胆な行動に出る事も平気なようだ。
美音にそのメールが届いて、中身を見た瞬間溜め息がこぼれてしまった。美音にとってメールは嬉しいんだけど、タイミングの悪さだけが悲しかった。でも、一応返事は送っておくことにした。
<朝からいいメールありがとね。いい案があったら送るね。あたしは嫌な夢見て最悪な目覚めだったけどね…。>
ちょっと皮肉混じりなメールを送った。
美音とは対象的な流星は、意気揚々と学校に向かった。
駅のホームに着くと、いつもの様に俊と歩がいた。でも、いつもと違うのは、二人の距離だった。電車の一両分位離れて、決して目を合わせようとしない。流星はどっちに声を掛けていいのか分からず結局、三人はバラバラに登校した。こんな事、三人にとって初めてだったからすごく切ない違和感を三人それぞれが感じていた。
いつもの事だけど、こんな時はいつも以上に授業に身が入らない。授業中に歩の顔を見たけど、いつもの様な爽やかさは無くて、影をしょっているように見えた。これじゃ俺達本当にマズイと思い、俊に歩と百合さんの事を全部話すことに決めた。
昼休みになって、俊がクラスの友達いる所に流星が割り込んでいき、
「俊!!ちょっと話があるんだけどいいか?」
と、言うと、
「歩の事なら、俺は何にも話すことないからもういいよ。」
と、言う俊の腕を掴んで無理矢理引っ張って行こうとしたが俊は流星の手を振り払って、
「もう話すことなんてないって言ってるだろ!!今更何を聞けって言うんだよ!!」
と、言う俊の気持ちも分かるけど、ここでは引き下がりたくなかった。
「じゃあ俺達このままでいいのかよ!!俺達ってこんな事で壊れてもいいのかよ!!俊にとってはそんなに簡単なもんだったのかよ!!わかったよ、もう勝手にしろよ!!」
つい、感情的になってしまい、ちゃんと話をしないまま背中を向けてしまった。美音がこの間言ってた通り、最近の自分は俊みたいな熱い人間になってきているような気がする。
学校が終わり、一人でどうしたらいいのかなぁ?とあいていると、遠くから声がした。
「おーい!!流星く〜ん!!」
ハッとして、回りをキョロキョロすると綾と百合がいた。二人に近付いて行くと綾が、
「あれ?今日は一人なんだ!なんか元気なさそうだけど何かあったの?」
と、聞かれ、
「まぁいろいろあって悩んじゃって…。」
好奇心の多そうな綾は、話を聞いてあげると言う事で、近くの公園に行った。流星は、問題の張本人の百合がいるからどこまで話していいのか迷ったが、包み隠さずに話す事にした。
一通り全部話し終わると百合はうつ向いた顔をしていたが綾は、
「そんな事があったんだ?でも、百合は、俊君にちゃんと歩君との事話したんでしょ?それなのにどうしてそんなに怒るのかな?」
「えっ!?俊は知ってたんですか?だから余計に怒ってたのかもしれないな…。他の男なら別に怒らなかったかもしれないけど、歩だからこそ悔しかったのかな。俺と俊は、多少だけど歩に嫉妬してる部分があるんですよ。ルックスはいいし、振る舞いとか、男から見てもカッコイイですからね…。」
「でも、歩君と百合はもう終わったんだし、そんなに気にすることないのに。」
「そうかもしれませんね。けど、俊はバカ正直で単純な奴だけど、ひねくれた部分もあってそれで、歩に応援されてるのを素直に喜べなかったんだと思います。」
そんな綾と流星のやり取りを聞いていた百合は、うつ向いた顔をしながら聞いていた。少しずつ申し訳なくなってきた流星は、
「百合さんゴメンナサイ。本人の前でこんな話するなんてデリカシーに欠けてますよね…。」
すると百合は明らかな作り笑顔で、
「あたしは平気だよ。でも、何か歩にも俊君にも悪い事したなってちょっと自己嫌悪かな…。それと、あたしが歩にもう一回会いたいなんて言わなければとか、俊君に中途半端な態度とってた事に反省かな。」
「俺は百合さんを責める為に話したんじゃないし、俺は別に誰が悪いとか全然思ってないですから!!たまたまタイミングが悪かっただけですよ。それに誰かを好きになる気持ちは誰にも止められないですからね。二人の事は俺に任せてください。俺が絶対何とかしますから!!俺達の仲は、こんな事で壊れるような仲じゃ絶対ないですから。」
そうキッパリ言うと、
「流星君ありがとう。」
と、百合が言い、
「頑張ってね!!友達の事も、自分の恋の事もね。」
と、綾はニヤニヤしながら言った。流星はドキッとしたが、力のある眼差しで、「はい!!」と言った。
そして、二人と別れて一人になった所で、今日一日あった事を美音にメールした。何とかしたい気持ちはあるんだけど、結局の所どうすればいいのかわからなくて、誰かにすがりたくなっていた。
いや、すがりたかったのは誰かじゃない。すがりたかったのは、この世でたった一人美音だった。