第十三話 優しい嘘
ダッダッダッダッダッダッダ バタン
「起きろ〜いつまで寝てるつもりだ〜!!いいかげん起きないと、携帯見ちゃうぞ!!」
朝からハイテンションの結が、耳元でキンキン声を出すので頭に響いた。でも、携帯だけは見せられないと思い、すぐに起き上がった。すると結が、
「お兄ちゃんって本当に分かりやすいよね。あたし、人の携帯見る趣味ないもん。」
流星は、我ながら情けなくなる。妹にカマをかけられておこされるなんて…。そうやって自分に嘆いていると、結が一冊の本を手に言った。
「何これ?手話の本?お兄ちゃん手話なんて始めるの?何で何で?彼女に進められたの?ボランティアでもするの?それはないか…… ねぇ何、何?」
全くこの妹は、好奇心旺盛とゆう何と言うか、人の事に興味があり過ぎて困ったもんだ。
「俺だってボランティア精神くらいあるよ!まぁ、あおれはボランティアとは全然関係ないんだけどな。ちょっとこれから必要になるかもしれないから一応買っただけだよ。」
そう言った途端、結はパッと顔を上げて、
「お兄ちゃんの彼女耳が聞こえないんでしょ?それで、手話初めようと思ったんでしょ?違ってたらごめんね。」
俺は、ドキッとして結のカンの鋭さが少し怖くなった。でも、今日の俺は何故か結にだったら話してもいいような気がした。
「結の言う通りだよ。でも、まだ彼女じゃないんだ…。俺はもっとその人の事を知りたいと思ってる。だからこそ、手話が必要なんだ。」
「そっかぁ。何かおにいちゃんカッコいい!!そんな風に相手の為に努力するのって、その人だってすっごく嬉しいと思うよ。頑張って。あたし応援するね。」
「何だよ!!お前がそんなに素直だと調子狂っちゃうだろ。でも、ありがとな。」
二人で微妙に照れ合ってると下から、
「二人とも何やってるの〜〜?学校遅れちゃうでしょ早く降りてきなさい!!」
と、母ちゃんの叫び声がした。二人は声をそろえて大きな声で、
「はぁ〜い!!」
と言って、下へ降りて行った。
いつもと同じようで、どこか違う少し暖かい気分の一日がスタートした。
学校に向かう電車の中、歩と俊を発見した。
「おはよう。今日、雨降りそうじゃない?月曜日の雨っていつもに増してやる気なくすよな。」
「確かに、月曜日に雨降られると最悪だよ!でも、きょうのお前には全然関係なさそうな位いい顔してるじゃん。昨日はそんなに楽しかったのか?」
と、俊がからかうように言ってきた。
「俺、別にそんな顔してないだろ歩?」
「そんな顔してるよ。そうとう仲が深まったんだろうね。」
歩も俊と同じようにからかった顔で言う。
「歩までそんな事言うのかよ!!まぁ楽しかったけど、別に何にもないよ。」
ちょっと照れながら言った。その後俊がハァ〜と溜め息を漏らしながら、
「いいなぁ〜、俺なんて百合さんから全然連絡ないんだぜ…。俺も二人で早く遊びたいなぁ。」
すると、笑顔で歩が、
「大丈夫だよ、俊だってすぐに二人で遊べるよ。百合さんは、すぐに連絡して軽い女だと思われたくないんだよ。」
昨日、百合と二人っきりで水族館行ってた男のセリフとは思えずビックリした。見間違いだったのかもしれないと思ったが、やっぱりあれは歩だ。そんな事を考えながら歩を見ていると、
「どうしたの流?俺、何か変な事を言った?」
とっさに我に帰り、
「いや、別に何でもない…。」
こんなモヤモヤした気持ちを抱えながら半日授業を終えた。そして、昼休み歩を呼び出した。
「話って何?こんな人気無い場所に呼び出して、もしかして俺に告白?」
歩は、笑顔でそう言うので聞きづらかったけど、勇気を出して聞いてみた。
「あのさ…、昨日歩が百合さんと二人で水族館にいるの見ちゃったんだ。俺と美音さんもその時水族館にいて…俺達の見間違いだったらゴメン。でも、あれは歩だよな…?どうゆう事か説明してくれないか?こんな事、俊に聞かれたらあいつ歩に殴りかかりそうでヤバイと思ったからこんな所に呼び出したんだ。」
歩は、少し驚いたような顔をしたが、すぐに冷静な顔になって、
「そっか、見られてたんだ…それじゃ何の言い訳も出来ないな。昨日水族館にいたのは俺だよ。」
何だか俊の気持ちを考えると悔しくなって、思わず歩の胸ぐらを掴んで言った。
「じゃあ何で俊に、今日の朝言ったみたいな事言うんだよ!!あいつが真剣に百合さんの事好きか分かるだろ!!あいつは単純だけど、バカみたいに純粋な奴だろ!!それは、歩だってよく分かってるはずだろ!!」
歩は固まったまま何も言おうとしないので、歩の目を真正面から見た。すると、歩の心の声が聞こえてきた。
『流も俊も本当にゴメン…。俺は、優しさってのを勘違いしてたのかもしれない。もう本当の事言わなきゃな。』
『本当の事』ってなんだ?と、思った瞬間、背後から足音が近付いてきた。
「流!!手を話せ!!」
歩から手を離して振り返ると、俊が近付いてきた。どうしてここに?と、思った時にはもう遅かった。ボコッ、と言う音と共に歩が倒れていた。そして、俊が歩に向かって言った。
「何でだよ!!俺、歩の事信じてたのに…俺の事可哀相な奴って影で笑ってたのかよ!!もうお前なんて親友でも何でもねぇーよ!!」
それだけ言うと、俊は背中を向けて去って行った。俊の目には、うっすらと涙が光ってるように見えた。
流星は、倒れた歩と、俊の背中を交互に見る事しか出来なかった。これから俺達はどうなってしまうのだろう…