第十二話 胸の高鳴り
流星は、自分の手がすごく暖かい事にハッとした。歩と百合から逃げてくる時に、美音の手を掴んできたのだった。掴んでた手を急いで離し、美音を見ると少し顔が赤くなってるようにも見えた。
「ゴメンナサイ!いきなり走り出しちゃって…それにしても、どうゆう事なんですかねあの二人。そうゆう事になってるなら言ってくれればいいのに歩。」
<本当にビックリしたよね!!あたしも百合から、何にも聞いてなかったから…あの二人って付き合ってるのかなぁ??>
「どうだろう?そんな事言ってなかったし、そんな素振りだって(俊が百合さんを好きな事知ってるし、応援までしてたのに付き合ってるなんて…ないよな…)見せてなかったし、それはないと思うんだけど…百合さんは何か言ってなかったんですか?」
<そんな事全く言ってなかった。百合って、自分の事ってあんまり話してくれないから。特に、男性関係の話はしてくれない。百合は、可愛くて優しくて理想的な女の子だからモテのは当たり前なのに、気をつかってか隠すんだ。>
「そうだったんですか…仲良さそうに見えても色々あるんだね。」
流星と美音は、もしまた歩と百合に逢ったら気まずいので水族館を出た。
<これからどうする?何かドキドキしちゃってちょっと疲れたね。>
「そうだ!!美音さんにお願いがあるんですけど、俺に手話を教えてくれませんか?」
<えっ!?いいけどどうして?>
「だって、俺が手話出来れば美音さんがもっとスムーズに話せるし、もっと楽しくなると思って。」
<ありがとう。そう言ってくれると楽になるし、もっといっぱい話が出来る。あたしからも一つお願いがあるんだけど、敬語やめない?一応年上だけど、気にしないでタメ口でいいよ。>
「良かった。俺も敬語って苦手なんですよ、あんまり頭良くないから…。」
<そう?全然そんな風には思えないよ。じゃあその辺の公園にでも行こうか。>
「そうだね。それじゃ宜しくお願いします先生。」
二人は軽く笑いあって近くにあった公園に行く事にした。
<手話教えるって言っても何から教えたらいいんだろうなぁ?じゃあまずは挨拶から教えるね。>
「教えて欲しいって言ったけど何か難しそうだなぁ…。」
そんな弱気な事を言ってると、美音が手話をしだした。手を早く動かして怒ったような感じだった。
「何で怒ってるの?俺何か怒らせるような事言った?」
<ほらね!!あたしの言おうとしてた事ちゃんと伝わってるじゃん。気持ちを込めて手話すれば相手に伝わるんだよ。だから、流星君にも出来るよ。>
そう笑顔で言ってくれた事で、更に手話を覚えたいと言う意欲が沸いてきた。
<じゃあ、挨拶から始めるね。まず…>
どれくらい時間が経ったのかは分からないが、結構な時間いろんな事を教えてもらった。気付いた時には、もう空は薄暗くなって来ていた。
「もうこんな時間になったんだね。何か楽しくて時間経つのすっかり忘れてたよ。美音さんは、時間大丈夫?」
<そうだね!こんな時間になってたなんて全然気付かなかったね。あたしは、一人暮らしだし、大人だから時間は平気だよ。それより流星君は実家だし、未成年なんだから早く帰さないとね。>
美音は、ちょっと大人ぶった感じで流星に言った。流星は困ったような感じで、
「俺、もう子供じゃないですよ。酒だって、煙草だって当たり前だし!!」
流星は、得意気にそんな事を言うので美音は笑ってしまった。
<別にそうゆう事じゃないよ。流星君ぐらいの年頃って、みんなそうゆうところで大人になったつもりになっちゃうから子供なんだよ。背伸びしなくていいのに。まぁそんな所も可愛いんだけどね。>
からかわれてるのに、美音に言われると全然ムカつかない。他の人に、『可愛い』なんて言われたら腹が立つことも、美音だと逆に嬉しくなっってしまう。
「参ったなぁ…その通りです。お姉さまのおっしゃる通りです。じゃあ今日はそろそろ帰りますか?俺、家の近くまで送っていきますから。」
美音は、一回うつむいて二人は歩き出した。
歩いてる途中は、ほとんど会話らしい会話は出来なかった。ただ、美音の横顔を見ながら歩くしかなかった。こんな時、自分が手話をできたらもっといっぱい話が出来るんだろうなぁ、と強く思う。そんな風にして何十分か歩いたところで美音が足を止めた。
<もう家近くだからここでいいよ。今日は本当に楽しかったし、流星君の事も少し分かったから良かった。どうもありがとう。>
「こっちこそ楽しかった。まぁ途中ハプニングもあったけど、あれはあれで刺激的で良かったと言う事で。じゃあ、気を付けて帰ってね。」
と、言いながら美音の目をまっすぐ見ると、美音の心の声が聞こえてきた。
『これでバイバイかぁ…また逢ってくれるのかなぁ?聞きたいけど、そんな事女から聞けないし…』
そんな事を、思ってるんだ!!ここで心を覗くのはズルイけど、どうしても知りたかった。
<流星君も気を付けて帰るんだよ。バイバイ…>
そしてすぐに背中を向けて行ってしまいそうになったので、流星は美音の肩を掴んだ。美音がビックリしてこっちを向いたので、
「また連絡する!今度は俺が行きたい所に一緒に行こうね。バイバイ」
それだけ言うと流星は、後ろを向いて家へと向かった。そして美音は、望み通りの言葉をくれた流星の背中を、少し赤くなった顔で見つめていた。
流星は帰り道本屋に寄って、いろんな手話の本が置いてあるコーナーで、『手話入門』と言う本を買った。これで美音と逢ってない時も勉強して、もっと手話を出来るようにしたかったからだ。
家に着くまで今日あったいろんな事を思い返していた。どんな事を思い反しても幸せな気持ちになれる。こんな暖かい気持ちになれたのは初めてかもしれない。美音といると、知らなかった自分を発見出来て新鮮さもあった。こんな事を考えてる時に、ふと歩と百合の事を思い出した。あの二人はどうゆう関係なんだろう?あの光景を俊が見たらどうなってしまうだろうか…気になって仕方が無い。よし!!明日学校で聞いてみよう。
流星は、幸せと何とも言えない不安感を抱えながら、一人夕日に包まれ家に帰った。