路地裏のクマ・2
続きます。
2
自転車でうんとスピードを出すのが好き、暴走バイクみたいに、びゅんびゅん飛ばしてるとき、あたしは自分が悪い子になった気がする。悪格好良い子。サングラスとかかけたくなる、スカートが風にめくれるのも片手で乱暴に、ちっ、とかって舌打ちして押さえつけて、男っぽく振舞いたくなる。
「そういう気持ちって分かるでしょ、なんかびゅんびゅーんって、タバコとか咥えちゃいたい気分で」
「女はタバコ吸うな」
「ちっがう、そこちっがーう! しかもなんで贔屓してんの、女はダメって」
「コグマ、それは贔屓じゃなくて差別だ、言うなら」
おバカでごめんね、と顔をしかめると、タカちゃんは鼻をちょっとだけ鳴らした。彼はあたしをコグマと呼んでいる。熊井咲、というのがあたしの名前で、名乗ったときに「えらいちっちぇー熊だな」と言われて、ちっちゃい熊は子供だからって、コグマだそうだ。でも咲って呼んでくれた方が嬉しいし、字数も少ないから簡単だと思うんだけどな。それにクマなのはタカちゃんの方だと思う、見た目とか、見た目とか、見た目とか。
お外は雨降りであたしは学校帰りに直接彼のアパートに来た。タカちゃんはあんまり外を出歩かないみたい、いつも仕事がない日はお家でテレビを見てる。あたしのこと邪魔だとか思ってるのかとたまに不安になるけど、なんにも言わないから多分そんなに目障りでもないんだろう、相変わらず手も足も出してくれないけど。ちゅうとかしようよ、って言っても、鼻で笑われるだけだ、くそう、年増好き――あたしはそう思ってる、だって現役女子高生に興味がなさ過ぎる!――め。
「女は子供産むからダメだ、タバコは」
さっきの話の続きをしていたらしい、部屋に転がっていたバレーボールマガジンをぺらぺらめくっていたあたしは、まだ会話が続いていたことに驚く。だってタカちゃん、会話のキャッチボール下手くそ、っていうか、いつも面倒くさがるんだもん。
「子供できたらタバコやめればいいじゃん」
「そういう問題じゃないだろ、タバコの害が身体から抜けるまでに、二年かかるって聞いたぞ」
「誰から?」
「……誰でもいいだろが」
「むーう、じゃあ誰から聞いたのでもいいけどさ、あたし別にタバコ吸ってないもん、吸う気もないもん、タバコの煙大嫌いだし」
「ますます背ぇ伸びなくなるしな」
タカちゃんはあたしより二十五センチくらい平気で背が高い。タバコは吸わないんだって、別に美味しくないし煙に金払うのバカバカしいって、だからあんなにおっきくなったのかな。うちはお父さんがタバコを吸うけど、トイレがタバコ臭くされちゃってすごく嫌だ。制服とかに臭い染み付いちゃうし、最悪。タバコなんてこの世から消えちゃえばいいのに、あ、でも男の人がタバコを吸ってるのはちょっと格好良いんだよな、どうせならタバコの煙に匂いつけちゃえばいいのに、苺とかレモンとか桃とかの。そしたらもっと売れたりしないのかな。
「じゃあタカちゃんはタバコ吸う女の人、嫌いなの?」
「タバコ吸うってだけでは嫌わんよ、でもまあ惚れないな、少なくとも」
「すっごいいい女でも? タバコ吸わなきゃ超好みで超理想でしかもあっちから好きとか言ってきても?」
大人になったらそう簡単に好きとか言い合わん、と、ズレた返事が放られた。面倒くさそうな声だったから、もう喋るのに飽きたのかもしれない。
この頃天気が悪い日はタカちゃんの家に入り浸ってるから、彼はあたしの存在に慣れちゃった感じがする。あんまり慣れて欲しくない、緊張感がないとときめかないから恋愛が進展しないって、恋愛科学の先生が言ってた、うちの学校の先生じゃなくて、なんか深夜の番組に出てる男の人、半分裸みたいな服着た女の人が二列に椅子にずらっと座ってて、その人達の前でホワイトボードとかで説明してて。その人が言ってた。だから結婚して時間が経つと、お互いが兄弟みたいになっちゃって、そこには信頼関係は生まれるけどときめきはなくなるんですよ、みたいなこと。信頼関係は愛って言い換えることができるんだって、ときめきは恋、だから、恋が死ぬと愛が生まれるんだって、でも、でも、でも、じゃあ、恋愛って言葉はなんか変じゃない?
めくってたバレーボール雑誌は興味がないから何が面白いのかさっぱり分からない。中学の頃バレーやったな体育で、っていう認識くらいしかない、六人制とか九人制とか、タッチネットとかサービス権とか、それくらいなら知ってる。
タカちゃんは趣味でバレーをしているのだという。中学と高校の途中まで部活もちゃんとやっていて、どうして高校が途中までなのかというと中退しちゃったからで。高校中退ってすごいと思う、いくら馬鹿学校っていってもあたしはやっぱり集団に属してるのが楽チンで、そこから抜けて自由にやっていく自信はない。退学しちゃう人間は半分くらいが、ただ「かったるい」とかで辞めちゃって結局親に養ってもらったり格好良くない生ぬるい自由もどきの中でだらだら生きてるだけかもしれないけど。でもタカちゃんは親元離れてちゃんと仕事してるし。すごいなって思う、あたしはまだ気楽な不自由の中で甘やかされてたい、いずれは世の中に出てかないといけないんだから、せめて今くらいは。
寝転がってテレビを見てるタカちゃんの背中は、あたしにお父さんを連想させた。あたしとお父さんはあんまり喋らない。お姉ちゃんと弟も喋ってるところをそんなに見たことがない。いつも横になってテレビを見てる、その後姿しか知らない気がする。子供に興味がないんだろう、でもお母さんはいつもお父さんの悪口を言わなかった、少なくともあたし達子供の前では。別にお父さんが立派だとか、お父さんがいないとご飯が食べられないだとか、お父さんが働いてくれてるから生活ができるんだとか、そういうことは言わなくて、本当はお母さんには許婚がいたんだけどお父さんがその家にもお母さんの家にも頭下げに行って結局お嫁に貰っちゃった話とか、初めて買ってあげたプレゼントはネクタイだったとか、そんな話ばっかりをしていて、あたしやお姉ちゃんはそんなこと聞かされても両親の結婚前の話になんか興味ないよ、と思ってたけどお母さんがあんまり楽しそうに話すからそれでお父さんをすごく嫌いだったりにもなれないまま大きくなった。
一度、台所に出しっぱなしだったお父さんの携帯を見ちゃったことがある。
千里と同じ機種だったから使い方は知っていて、なんとなしにデータファイルを開いたら裸の女の人の写メがあった。股開いてるのとか、あそこに指突っ込まれてるのとか、結合写真はなかったけど、突っ込んでる指はお父さんのだなって分かった。だって爪があたしとそっくり。指の割に爪が丸っこすぎる。相手の人はお母さんじゃなくて、若い人でもなくて、ちょっとおばさんっぽい、なんか美人でもない人だった。そういうお店の人なのか、お父さんの愛人なのか、ただシーツ真っ白だ、って、どの写メ見ても思った。うちのシーツは全部柄もので、あたしのは水色に金魚がいっぱい泳いでるやつだ。
お父さん浮気してるのかな、お母さん知らないんだろうにな。
でもショックは全然なかった。へぇ、することしてんだ親くらいの年齢でも、って感心したくらいだった。もっと取り乱したり不潔とかって思わないといけないのかも、って気もしたけど、お父さんはお父さんだし、あたしの旦那さんじゃないし。家族だから何、って感じだった、あたしは冷たいのかもしれない。
だけどお父さん、他の女とかにお金使ってるんだとしたら、それよりまず先に、お母さんが欲しがってる電動自転車とか買ってあげればいいのに。
タカちゃんも女の人を抱いたことがあるんだろうな。
彼の背中を見ながら、そんなことを考えてるうちにすごく切なくなった。急に、ものすごく。お父さんの浮気証拠には少しも動揺しなかったのに。
タカちゃんの部屋は男くさい。汗とか体臭とか、わあ男! ってくらい煮詰まって男くさい。あたしのコロンくらいじゃその匂いは中和できなくて、もっと大人の女の人が発する女くささじゃないと太刀打ちできないのかな、とか思う。そういう人じゃないとタカちゃんに釣り合わなく思えてしまう。タカちゃんってあたしをどう捉えてるんだろう。変な女子高生、物好きな女子高生、意味不明な女子高生、うざったい女子高生、誰だこれ。最後の、誰だこれ、くらいが一番当てはまりそうで怖い、誰だ若いことはそれだけで素晴らしい武器なんだなんて言ってた奴は、タカちゃんにとっての女子高生は意味がないじゃないか。
「……タカちゃん、帰るね」
「おお」
おお、って。テレビから目をそらすこともなく彼は適当な返事をする。あたしが放った言葉の意味なんて考えてない、きっと、「結婚して」とか言っても「おお」って言うんだ、とりあえず。……なんかそれっていい考えっぽいな。
タカちゃん家を出る前に千里にメールした。返事はすぐにきて、あたし達は遊びに行くことになった、いいのがいるんだ、って千里が興奮気味に言ってたから、知らない男の人を交えてまた遊ぶんだろうな、そしてお小遣いを貰うんだろうな、タカちゃんが怒ったりしたらすぐにそういうことは止めるんだけど、あたしは話したことがないし、だからタカちゃんも怒らないまんまだし、それより彼がそこまであたしに興味があるかっていうのが心配。どうせ怒られるんだったら一般的な大人が子供を倫理観がないとかって怒るのじゃなくて、自分を大事にしなさいとかって理由で男と女っぽい怒り方してくんないかな、それは贅沢かな、ところでタカちゃんに倫理観とかってあるのかな。
千里は美人だと思う、小顔でこんな田舎に住んでるんじゃなくて渋谷とか原宿とかで遊んでるような女の子だったんなら、すぐにスカウトされるだろうにって感じの。色も白いし、スタイルもいいし。目がまたでかいんだ、唇なんて苺みたいに真っ赤だし。可愛いな、ってあたしでもたまに見惚れる。可愛い、と、美人、が一緒になってる人間なんてそういない、横顔は美人、正面から見ると可愛い、なんて。
なんでそんなに可愛くて美人ちゃんなのに身体使ってお金稼いでるんだろう、って不思議に思うけど、本人はやりたくてやってるんだからいいんだー、と笑う。千里には生活費を出してくれている義理のお父さんがいて、その人にずっと頼ってるのが心苦しいから早く自分で稼げるようになりたいんだって言う。
「別にその人に悪いとかっていうんじゃなくて、悪いってのもあるけどさ、なんか窮屈で嫌なの、分かるでしょ?」
本当のお父さんは千里がちっさい時に亡くなってて、お母さんは再婚したけど千里が中学の時に亡くなった。義理のお父さんはお母さんにそっくりな千里を純粋にめちゃめちゃ可愛がったけど、その義理パパも再婚することになって、千里は亡くなったお母さんの実家に行くことになって。だって、義理パパについてっても、赤の他人と暮らすってことじゃん。だけど義理パパは千里のことを本当の娘みたいに可愛がってたから、せめて養育費は出す、不自由はさせない、って言うんだって。
「お父さん――義理のね――から貰ったお金、使ってないよ、おばあちゃんが全部貯金してくれてる。高校なんか行かないで働き始めて、養育費はもういらないですよーって言ってあげたいんだけど、高校くらいは出てくれって言うんだよ。お父さんが」
お父さん、と言うときの千里の目はちょっと優しい、と思う。でもちょっとうざそうだったりもする。血が繋がってなくて、しかも一緒に住んでなかったりすると、接し方もあたしなんかが想像する以上に難しいんだろう。いや、接する人によるか。
そんな千里は女が自立するにはまず男、と考えてる娘で、今まで付き合ってきた人はみんな十も二十も年上ばっかりだったって本人は言う。お金がある人がいいじゃない、そうすると同世代なんて全然ダメだし、でもお金だけって訳でもないし。千里が可愛い顔してそんなこと言うと、なんか結構きゅーんと心が痛くなる。不甲斐なくてごめんねー、って、あたしが謝りたくなる。
「でもね、啓ちゃんが自分で稼ぐこと教えてくれたの、あ、啓ちゃんって今の彼氏ね、啓吾って言うの、私より十っくらい年上、仕事? あー、なんかね、あんまし柄の良くないお仕事、ほら、テキ屋さんとかしたりもする、」
「えっ、ヤクザさん!」
「えーえー、でもよく分かんない、私がそう勝手に思ってるだけかも、それにもしもそうだったとしても、ほら、多分、下っ端だし、多分、うんうん、多分ね、あっ、スーツとか着ると格好良いんだよ、ジャージとかでも格好良いけど、啓ちゃんは袴姿とかも似合いそうなんだぁ」
日本男児って感じなのかな。
極道の妻達、のテーマソングがあたしの頭の中で勝手に流れ出す、姐さん! とかって叫んでみたくなる、あれれ、千里が姐さん? でも千里は美人だから、どっちかっていうと崩れた感じの愛人になった方が似合うと思う、真っ赤なスリップドレスとか着て。タバコ吸って。あたしのイメージって貧困。
「でも日本もさ、不景気とかいうのに私達と遊ぶのに金出したりする男もいてさ、よく分かんないよね、なんで税金とかって上がるの? 国が無駄遣いしてるんでしょ? っていうか、国ってお金発行できるんだったよね、いっぱい作って国中お金持ちにしちゃえばいいのにね」
「……そうするとインフレだかデフレだかってのが起こるんじゃなかったっけ? うーわー、咲ちゃん久々に頭使っちゃったよ、社会科の教科書とかで遠い昔に読んだ記憶!」
「消費税上がるって?」
「なんか言ってたね、貧乏人から金取らないで欲しいよね、自作自演とかでのんびりした日本でやっていくとかさ、」
「自給自足、っていう言葉だったと思う、そういう時に使うのって」
でもハイテク文化に慣らされたあたし達はきっとこのままのらりくらりと生きていくんだと思う、難しいことは頭のいい人たちが考えればいい、ゆとり教育って、馬鹿を増やして物事を深く考えないで、とりあえず先送りに先送りに責任とか持てませーん、分かんなーいって人間ばっかりで日本を埋め尽くすための計画なんでしょ? 結構成功してるよ、部分的、地域的に。
駅前で千里と待ち合わせして、電車に乗って隣の隣の駅まで行く。そこの駅前は飲み屋としょぼいゲームセンター――格闘ゲームの基盤ばかりが二列くらいに置いてある狭い店――とパチンコ屋がたくさん並んでいて、でもちょっと歩くと大きくて立派なゲーセンやカラオケボックスが今度は並んでいる。遊ぶため、娯楽のため、だけの街、みたいな。小学生の時からずっと、親や学校に「あそこへは子供だけで行ってはいけません」と言われているような場所。昼間に通るのはそう怖くないけど、夕暮れ時はちょっと怖い、日が落ちたらもっと怖い。道はおしっこの匂いがするし、酔っ払いがゲロしたあとがそこら中にあるし、やたらと大声で騒ぎ、酔っ払ってるなら何してもいいんだと思っていそうなおっさんとか、着飾ってるつもりなんだか派手で露出度が高いだけの目に悪そうな原色おばさん――笑っちゃうくらい太ってたりするんだこれがまた――があたし達を見て、ガキは帰れ! って叫んだりして。ストレス溜まってんのかな。次の世を背負うはずのあたし達が頼りなさ過ぎて、見てると腹が立つんかな、とかって思ったりもするけど、しつけ方法間違った犬から噛まれても文句は言えないんじゃないかしらね。
「クレープ食べたい」
「そういえばこの前からそんなこと言ってたよねー」
「男とかと遊ぶの、嫌だな」
「そう? でもさ、男交えなくて、私と咲で何して遊ぶのよ」
映画見るとか買い物するとか、お茶しながらおしゃべりするとか?
何して遊ぶのよ、なんて言われると、確かに何をしていいのか分からない自分に気付く。そうだよなー、遊ぶのって頭使う。一緒にいるだけなら学校でも会える。遊ぶって何? 共通の趣味があるならともかく。
「でも遊ぶったって、」
ゲーセンのUFOキャッチャーで欲しくもない景品を取ってもらって喜んで見せたり、カラオケで聞きたくもないような歌を聞いてあげたり。するだけだし。車でのドライブはしないけど――走る個室なんて何されるかどこに連れて行かれるか――、電車で出かけるくらいはする。目的地があるわけじゃなくて、大抵いちゃいちゃしてるだけがいいって言われる、知り合うこともないであろう他人に、自分は高校生の彼女がいるんだ、みたいなことをさり気なく見せびらかしたりしたいんだろう、そんなのにどんな意味があるのか、あたしは知らないけど。
待ち合わせの時間を過ぎそうだから、と、千里が携帯で連絡を入れる。チリ、と名乗るのは、とりあえず偽名、なんだそうで、でもまったく関係ない名前を付けちゃうと覚えられないから、ちさと、の読み方を変えたんだって、でもあたしは千里にはチリって名前の方が元々似合ってるんじゃないかと思ってしまう。二文字でキリッと呼んであげたい感じがするから。
「あー、コーラ飲みたい」
「咲は食べたいものとか飲みたいものとかはっきり分かってていいよね、私最近ダメなんだ、啓ちゃんから何食いたい、とか何飲みたい、とか聞かれても、ぱぱっと答えられなくて」
「えー、あたしなんてその時の気分で適当に言ってるだけだよ、真剣に食べたいとか飲みたいとかって、そんなんじゃないよ、いや、クレープは食べたいしコーラは飲みたいけど」
ちょっと遅れるね、と千里が切った電話は、いつものスモークピンクのじゃなくて、シンプルな紺色のやつだった。プリペイドのだと、教えてもらう。だって自分のマジ番号なんか教えたら何人相手しなきゃなんなくなるのよって、笑う。
千里は可愛いいのに、千里の啓ちゃんはどうして彼女が他の男と遊んでお金を貰ったりするのが平気なんだろう。それが平気ってことは、千里に本気じゃないってことなんじゃないかな。あたしの考えは単純なのかもしれない、でももしタカちゃんが他の女と遊んでお金貰ってたりしたら、あたしはすっごく嫌な気分になる、絶対むっとしていらいらっとして、心がいがいがする。それとも啓ちゃんは千里が可愛すぎるから、自分になんか本気にならないだろうって予防線とか張ってるのかな。最初から傷付いておくの、あいつはああいう女だからって決め付けておいて、後で自分が傷付きそうになったら「ほら!」って。あー良かっただから最初から俺は言ってたんだよあいつはああいう奴だってさ! みたいに。啓ちゃんは千里に本気になるのが怖いんだよ。そういう気持ちだったらあたしも分かる、あたしがお父さんに対して、嫌いじゃないけどでも最初から諦めてる感じで接するのと一緒だと思うから、どうせ返事しないなら声かけないでおこう、とか、そういう風な。って、あたしは啓ちゃんって人、全然知らないんだけど。
そんなことを考えながら会った男の人達は、すごく印象が薄い人達だった。千里が先にお金を貰っておいてくれて、別に寝たりしないから五千円ずつだったけど、帰りにまた五千円ずつくれた。まだ若そうな、でも会社員って感じのふたり組だった、ゲーセン行ってちょっとお茶飲んで、話して。全然楽しくないのに一万円貰っちゃって、こういうので甘い思いしちゃうと、世の中ちょろいって思っちゃうだろうな、って他人事みたいに考えたりもしたけど、タカちゃんとご飯食べれるな、とも思ってた。




