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白眼の王子  作者: 夏野 零音


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第一話『僕のお仕事』


ープロローグー


 『鏡よ 鏡。この世で 一番美しいのは、だぁれ?』



 日も暮れかかったスノーベル王国の端に位置する『魔の森』。隣国との境でもあるけれど、魔獣がうろつくこの森に入ろうとする人間なんか滅多にいない。本当なら僕だって、王宮の隅っこではあるけれど、小綺麗な温かい部屋で本を読んで寛いでいる時間だ。それなのに、へたり込んでいる僕の所まで陽射しが届かないから、辺りは 一足早く夜になってしまったみたい。転んだせいで捻った足はジンジンするし、湿った地面の上に座ったのも初めてだし、小石が散らばっていて お尻が少し痛いし。初夏の青々とした草木の煙るような香りに混じって、濡れた獣の匂いと僅かな唸り声が聞こえる。きっとこの『魔の森』に住んでいる魔獣達のものだろう。普通、獣は狩りをする時、自身の気配を出来るだけ消す。風下に移動して、匂いが流れる事すら気遣うのは、狩りの成功率を上げるためだ。それなのに、魔の森(ここ)にいる魔獣達は自分に絶対の自信があるのだろう。気配を消すどころか、こうして遠くから唸り声をあげて()()を萎縮させる。逃げられたらどうするのだろうか、逃げる獲物を追いかけて(なぶ)るのが好きなのだろうか。草木の隙間から僕の周りを黒い獣が囲んでいるのを見ながら、そんな疑問が頭に浮かぶ。グウルルルル…、四方から放たれる よだれを含んだ唸り声に、この魔獣達はチームなのだな、と思う。『魔の森』は単独の魔獣がほとんどだと聞いていた。自身より 強いか弱いか、弱ければ喰われて終わりだからだ。なのに、僕を取り囲んでいる魔獣達はざっと六匹程度、それが一つの意志を持って行動しているように感じる。簡単に言うと『絶対絶命』、あと数秒でこの魔獣達が一斉に僕に襲いかかり、無力な僕は なす術なく 数分後には跡形もなくこの世から消えているだろう。


 そう、継母様(おかあさま)の願い通りに――――。




 ◇◇◇◇◇

 僕の名前は ノヴァ・アモール・スノーベル。

 この魔法使いの国と呼ばれる、広大な土地を治める『スノーベル王国』の第一王子として産まれた。母は公爵家の美しい娘で、妖精姫とも呼ばれていた。時の王太子にも溺愛され、やがて王妃となってもその美貌は健在で、その息子である僕も見事にその遺伝子を受け継いでいた。そう、見た目だけなら、並ぶ者などいない美貌の持ち主だ。サラサラの蜂蜜色の髪に陶器のような肌、スラリと伸びた手足は華奢で、見たもの聞いたもの 一度で覚えてしまう聡明な頭脳。それなのに僕は『白眼(はくがん)の王子』と影で呼ばれ、見下されている。この王国では稀に色素が抜け落ち、白を纏った者が産まれる。それは髪であったり、肌であったり…そう、()()()であったり――。残念な事に抜け落ちた色は、そのまま欠如として扱われる、たとえば 髪の色が白い者は知能が低く、肌の色が白い者は病弱であったり…差別の対象となって来たのだ。全てが全て、能力が欠如している訳ではないのだが、遥か昔にそういった例が多かった為に、今でも冷遇されているのだ。僕の目が開いた時に父王はひどく落胆されたようだ。まあ気持ちも解る、妖精姫と呼ばれる最愛の伴侶から産まれた待望の初の子供が『白眼』だったのだ。迷信と言われるようになって久しいが、色素欠乏(アルビノ)差別は未だ色濃く残っている。母はそんな僕でも愛情を注いで育んでくれた。そう、まだ 母が生きていた頃は良かった。第一王子として扱われていたし、使用人や家庭教師もたくさん居た。だが、母が病死すると事態は一変した――いや、病床に伏せるようになってから、緩やかに変わっていっていたのかも知れない。父王は体調を崩しがちな王妃の代わりに、どこからか美しい黒髪の女性を側妃に迎えた。その女性が王宮を闊歩するようになってから、母の体調はどんどん悪くなり、時を置かずに帰らぬ人となってしまった。母の遺言は『目立たず、自分の幸せを守ること』。


 母が亡くなると大々的に葬儀が行われた。妖精姫と呼ばれ国民から愛されていた王妃を失った国民の嘆きは酷かった、その子供である王子が『白眼』だったからこそ、余計に。僕の部屋は北の塔の、一番奥へと移動させられた。それでも身の回りの世話をしてくれる使用人は何人もいたし、部屋は狭くなったけれど清潔で、食事が減らされるような事も無かった。そして母の遺言通り、僕はおとなしく従順な子供を演じていた。『白眼の王子』として侮られているから、僕のそばでも使用人は平気で噂話もしたし、父王が伏せっている事もそれで知れた。僕はひたすらおとなしく、静かに過ごしていくつもりだった。だって、父王が亡くなれば幼い王子に変わって、色欲な王弟殿下が政を行うだろう。王太子になるのは継母様(おかあさま)の産んだ王子だろうし、そうなれば白眼の王子など邪魔でしかない。アルビノであったとしても、僕の容姿を褒め称え、支持する人間は多いのだから。それに、産まれてから(かしず)かれて生きてきたのに、今更 平民の生活が出来るとも思えない。お金なんて持った事もなければ使った事もない。欲しいものがあれば商人を呼ぶし、支払いは使用人の仕事だ。だから、僕は、息を殺して おとなしく、善い子でいなければならなかった。『善い子』それが僕の『仕事』である。


 そうして、慎ましく『仕事』にせいを出していたある日。

 とうとう 恐れていた事が起こってしまった。継母様(おかあさま)が男の子を産んだのだ。継母様の最初の子供は女の子だったらしく、僕に影響が出るような事は無かった。この国では男子のみが王位継承権を持つからだ。そのうちに父王が伏せがちになり、継母様が懐妊する事は無かったのだが、僕が十五となるささやかな祝いの席で、その話が飛び込んで来たのだ。王子を産んだのなら、継母様の地位は絶対的なものになる。それでなくとも塞ぎがちな父王の代わりに権力を振るっているのだ。王弟殿下の後ろ盾もあるし、怖いものなど何も無くなるだろう。そう思ってから半月ほど、僕は見知らず兵士に連れられ 黒塗りの馬車に揺られ、この『魔の森』へと降り立った。用済みの『白眼の王子』を魔獣共に喰わせるつもりなんだろう。『仕事』中であった僕は、見知らぬ兵士にもおとなしくついて行ったし、黒塗りの馬車の中でも騒ぐ事なく静かにしていた。だからだろうか、兵士は言った。

「…本来であれば、貴方様をここで切り捨てるまでが私の『仕事』でございました。しかしながら貴方様は高貴なるお方、すでにご自分の運命を受け入れていらっしゃるのでしょう。であれば私の『仕事』はここまで。どうせ辺りに民家もございませんし、魔の森から逃げ出せた者もいない。これにて私は帰らせて頂きます。どうかご冥福を…。」

 そう言って騎士の礼を取ると、兵士は馬車へと戻り馬を操って帰って行った。騎士にとって相棒である剣は大切な物だ、敵どころか忠誠を誓った王族を斬ったとなれば剣が汚名で汚れる。だから騎士は命令とはいえ剣を抜きたく無かったのだろう。ここで斬り殺されなかったのは僥倖だろうが、この魔の森で一晩も越せないのは明白である。そう、つまり大ピンチな訳だ。しかしいつまでも馬車が去った方を眺めていたところで戻ってくる訳でもない。仕方なく僕はそろそろと魔の森の中へと足を進めた。薄暗いせいか、枯れ葉で滑りやすくなっていたからか、うねりまくっている木の根に簡単に足を取られ、そのままベシャリと転ぶ。転ぶなんて子供の時以来だ、ぼんやりと空を見上げると、遥か上空に葉の影から太陽の光がうっすら見える。だがもう夕暮れなのだろう、時期にその淡い光さえも見れなくなる。寒さからか、恐怖からか、ぶるりと体が震えた。その時である、辺り一面に茂る草の奥から魔獣の唸り声が聞こえて来たのは…。


 正直に言うと、僕には勝算があった。

この白眼は、噂されているようなポンコツでは無く、なんと全ての魔法を使える者の印だったのだ。だがそれはアルビノと区別しづらく、まとめて欠落者としてレッテルが貼られていた。アルビノに教育を施そうとする奇特な者がいるはずもなく、教育を受けられなければ いかに全ての魔法が使える資質を持っていたとしても使える訳が無い。だからこそ、白眼もアルビノとしてひとまとめにされていたのだ。だが僕は王子として産まれた、いかな白眼とはいえ、家庭教師もたくさん居たし、図書室の本も読み放題だし、何より戦力外と判断されていたので暇な時間が多く、その全てを魔法勉学に充てる事が出来た。これが平民であったならパンを買う為に朝から晩まで働かなくてはいけないだろう、「王子」として産まれた事に大変感謝している。母が亡くなってからは家庭教師はいなくなったが、基礎は学んでいたのであとは図書室の本さえあれば自主練で済む。僕はまず、守護魔法の中にある、空間を切り離す魔法の修練を開始した。空間を切り離す事によって、敵から身を守る術なのだが、僕はそれを魔法練習の場とした。部屋で魔法の練習をして大爆発させたり、調度品を壊したりしたら僕の『仕事』の妨げになる。あくまで僕は戦力外のおとなしい善い子で居なければならない。

 

 この空間を切り離す魔法がなかなか難しく、切り離すよりも複製(コピー)した方が早い事に気づいた。つまり、部屋を複製して空間を二つ作り、複製した空間で暴れても、複製した方を消せば元の空間には傷一つ無い、という事だ。空間複製スパティウムドゥプリカーレを習得してからは、時間と体力と魔力保持量が許す限り、空間に引きこもって修練に励んだ。独学では難しい事もあったけど、自分で使い易いように調整していくのも楽しかった。だから、転けて足がジンジンと痛かったけど、空間複製スパティウムドゥプリカーレを展開すれば魔獣達は僕に指一本…爪一本?触れる事は出来ないし、攻撃魔法も回復魔法も、それこそこの世にある魔法は、なんだって使えるまでになっているのだ。だからこそ、魔の森に置き去りにされたって顔色一つ変えなかったって訳。でもまあ、知識として「知っている」のと「体験」するのはまた違うものなんだなぁ、とは思った。冷遇されてたとは云え、王室育ちな僕は散歩で歩くとしても、綺麗に手入れされた庭しか歩いた事はないし、馬や、部屋で飼っている猫からはこんな悪臭を嗅いだ事も無い。「あぁ、野生って凄いなぁ…」と感じ入ってしまったのも、仕方ないと思わないか?僕が惚けているとみなして魔獣達が一斉に踊りかかって来た! ガアァァっと歓喜に似た雄叫びを上げてる。もしかして僕は久しぶりの()()だったりするのだろうか。高くジャンプし、中心に座り込んでいる僕目掛けて魔獣が迫って来る。

 慌てて攻撃魔法を口にするより早く、黒い大きな影が 僕を庇うように突っ込んで来て、魔獣を二体ほど吹き飛ばした。「え…」と声を出す事しか出来ない。大きな物体はそのまま僕の後ろに着地した二体も薙ぎ払い、残りの魔獣は顔色を変え、慌ててその場を離れる。吹っ飛ばされた魔獣も慌ててその後に続き逃げ出した。そして日が沈み、真っ暗になった森に月光の光がもたらされる。その場には相変わらず座り込んだままの僕と、魔獣よりも二回り大きな――黒い毛並みの狼がこちらを見据えて立っていた。

 

 

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