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第八話 異動の理由を知る人
翌週のシフト終わり、バックヤードでレジ締めを手伝っていた時のことだった。
「田奈さん」
店長は売上表から目を離さないまま、独り言のような声で言った。
「永山のことだけどさ」
一瞬、手が止まりそうになるのを、私はなんとかこらえた。
「……はい」
「悪い奴じゃないんだよ。あいつ、誰にでも親切だろ? 本人の知らないところで勘違いされることが多いのは、田奈さんも知ってると思うんだけどさ──」
売上をノートパソコンに打ち込むキーボードを叩く音が、一定のリズムで続く。
「選ばないってのも、立派な選択なんだけどな……職場じゃ、それが一番ややこしくなる」
それだけ言って、店長はノートパソコンの画面を閉じた。
「だからまあ──距離感がわかってる人と一緒にいる分には、問題は起きにくい」
忠告とも、評価とも、どちらにも取れない言い方だった。
「仕事としては、ね」
最後にそう付け足して、店長は立ち上がった。
「戸締り頼んだよ」
「はい……」
背中を向けた店長を見送りながら、私はレジの鍵を回した。
誰かを選ばないこと。
踏み込まないこと。
それが優しさなのか。
逃げなのか。
少なくとも、関係が壊れる理由になるくらいには、人の気持ちは面倒なのは、わかる。
私は指を擦り、鍵の感触を確かめてから、静かにシャッターを下ろした。




