第二話 いらぬ心配
永山さんが行きたいアフタヌーンティーに付き合う話をした次の日、私は店内で在庫補充をしながら悩んでいた。
別に異性とお茶しに行くくらいどうってことない。アフタヌーンティーは食べに行ったことないけど。
この店の人たちと忘年会や歓送迎会で飲んだりする感覚だし。
問題は着ていく服。
アフタヌーンティーってなんかおしゃれな人たちが行くイメージだし、永山さんが見せてくれたパンフも高級感あったし、どうしよう。
冠婚葬祭用の黒いワンピースはなんかイメージが違う気がする。
かといって気合いをいれすぎて、私が永山さんに気があると思われるのは癪。
でも他のおしゃれなお客さんや店員さんに笑われるのはもっと嫌。
正直に言うと永山さんにはどう思われてもいいけど、アフタヌーンティーを楽しみに来ている他の女性から見て笑われないラインを狙いたい。
けど、そんな服を持っていない。
そんなおしゃれな場所に行ったこともないし、何を着ていけばいいんだろう。
在庫補充を終わらせてバックヤードに引っ込んでため息を吐いた。
「あれ? 田奈さんお疲れ気味?」
誰もいないと思っていたら、積まれた在庫の段ボールをテーブル代わりに、立ったままノートパソコンで事務作業をする店長がいた。
「学生バイト達のシフト調整で連勤になっちゃったけど大丈夫? 疲労困憊なら次の時間のレジは俺が代わっちゃるよ~」
「その代わりにシフト変更の打ち込みやらされるならレジに立ちます」
「老眼にはキツいから頼みたかったのにな……田奈さんなら正確だから安心できるし」
店長は軽口をたたきながらも、目線をノートパソコンから離さず、強めのタイピング音を響かせる。
気にせず私は空っぽの段ボールを解体して回収用の場所に押し込めた。
「ところで、永山とアフタヌーンティーに行くんだって?」
思わぬ店長からの発言に、私は勢いよく振り返った。なんで知っているの。
変わらず店長はノートパソコンの画面を見ている状態で続けた。
「俺も永山に誘われたんだけどさ、野郎二人で行くべき場所じゃないだろ? 周りのお客さんのテンション下がっちまうだろうし。永山はともかく俺みたいなおっさんじゃ店の雰囲気ぶち壊しちまう」
店長はやれやれと愚痴のようにこぼした。
「まあ──これはセクハラとかじゃなくマジで言うけど、永山は男女関係なく誘ってたから、田奈さんだからって声かけたわけじゃないみたいよ? 一緒に行く人が決まったって俺に報告してくるくらいだしな」
そう言って伸びをして肩をほぐすように腕を回す店長の言い方に、私は鼻で笑った。
「大丈夫ですよ。私も永山さんのことは何とも思っていませんし、今回もシフトを代わるような感覚で承諾したんです」
決して恋愛感情があるわけではない。
普段から永山さんは誰にでも親切だから、本人の知らぬところで好意を寄せられ、他店舗で事件が起きてこの店舗に異動してきた事情を、店長も私も知っている。
「ま、田奈さんなら大丈夫だとは思うけど。なんかあったらいつでも相談してね~」
フルタイムで、数年だが一緒に働いている店長からの信頼がどれほどのものかなんて、私にはわからない。
けれど、私は少しだけ店長としての店長を信頼している。
だから思い切って聞いてみることした。
「アフタヌーンティーって何着ていけばいいんですかね?」
妻帯者で二児の父である店長は、ノートパソコンをゆっくり閉じながら接客用の笑顔をうかべた。
「そういうことは矢向さんやベテランレディたちに聞きなさい」
「言ったら永山さんと一緒にいくのバレるじゃないですか」
世のゴシップに飢えているベテラン主婦の矢向さんを筆頭に、すぐに店中にいらぬ噂が広まるのは勘弁したい。
そう思って口が軽そうで堅い店長に相談したのに。
「別にアフタヌーンティーに行くって直球で言わずに、ちょっとおしゃれな場所に行く時の服装について相談すりゃあいいんじゃないの?」
そう言えばいいのか。
感心して頷く私に、店長は小馬鹿にするように口角を上げて笑った。




