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008 トバイアスの教会②

 そして、僕はお母さんの腕の中から、白い服を着た女性に渡された。


 お母さんは、まるで今生の別れのように何度も渡すのをためらい、しかし、最後には僕の額にキスをすると、白い服を着た女性に僕を渡した。


 お父さんも、僕の額にキスをする。ヒゲがチクチクした。


 でもヒゲのチクチクなんて気にならなかった。


 だって、いつも元気なお父さんが泣きそうな顔をしていたから。


 なんだかものすごい葛藤があったみたいだ。


 もしかして、洗礼の儀式って辛いものなのだろうか?


 なんか怖くなってきた。


 白い服を着た女の人に抱えられて、そのまま僕は建物の奥へと連れて行かれる。


 お母さんとお父さんは、まるで祈るように手を組むと、僕を見送った。


 なんだかお父さんとお母さんから離されて、僕はいよいよ不安になってきた。


「クラーク!」


 お母さんの悲痛に満ちた叫ぶ声が聞こえる。


 たぶんだけど、クラークは僕の名前だ。お母さんは必死に僕を呼んでいるのだ。


 そう思うと居ても立っても居られずに、僕は女性の白い服を掴み、女性の肩越しに後ろを見た。


 そこには、こちらに向かって必死に手を伸ばすお母さんと、そんなお母さんを抱きしめているお父さんの姿があった。


「あいおー!」


 僕は言葉にならない声で大丈夫だと伝える。


 でも、本当は心の中は不安でいっぱいだ。


 僕はこれからどうなるのだろう?


 不安に思っていると、僕はとある一室に連れて行かれた。


 そこは、建物の中でも奥まった場所にある石造りの部屋だった。四方も天井も床も白い壁に囲まれており、壁や床には蝋燭に火が着けられている。


「んお?」


 一番奇妙なのは、床に彫られた幾何学的な模様だ。文字のようなものもあり、パッと見ると魔法陣みたいだ。


 そんな魔法陣の真ん中に座布団のようなものを置くと、僕を抱えていた女性がそっと僕をその座布団の上に置いた。


 暇だから数えてみると、白い服を着た人たちは全員で十三人いるようだ。


 これから何が起こるのだろう?


 かなり不安だ。


 正直、できることなら逃げ出したい気持ちはある。ゴーレムを創れば、逃げ出すことも可能だろう。


 でも、この儀式がこの世界でどんな意味を持つのかわからないので、逃げるに逃げられない。


 白い服を着た人たちを見ていると、その内の半数くらい、七人が魔法陣に手を伸ばした。


 すると、白い服を着た人たちが伸ばした手から魔法陣が光り始める。


 魔法陣が光で満たされると、今度は縦に光が伸び始めた。


 気が付けば、僕は魔法陣の光に囲まれていた。まるで結界みたいだ。


 下準備が終わったからなのか、なんだか他の人よりかなり豪華な服を着た人が現れた。白髪のおじいちゃんだ。おじいちゃんは右手に金色の鐘、左手には分厚い本を持っていた。


 そのおじいちゃんが、朗々とした声で語り出す。


 部屋の中にいるみんなの真剣な視線が僕に集まる。まるで、これから起こる何かに警戒しているようなピリピリする雰囲気だ。


 その時、もう叫ぶような勢いでおじいちゃんが言葉を発すると同時に、右手に持った鐘を鳴らす。


 鐘の意外にも軽やかな音に驚いたけど……。それだけだ。何も起こらない。


 それからしばらくして、おじいちゃんが号令を発すると、僕を囲んでいた魔法陣が解かれた。


 なんだか部屋にいるみんながホッとしたような安堵したような緩んだ雰囲気になる。


 えっと……? これで終わりなのだろうか?


 おじいちゃんが、さっきの険しい表情から好々爺のような表情になると、部屋にいるみんなに指示を出し始めた。


 僕をここまで連れて来た女性がもう一度僕を抱くと、速足で建物の外に向かっていく。


 建物の入り口近く、大きな扉の向こうにある聖堂のような場所に僕の両親はいた。


 両親は片膝を突いて、聖堂の奥に安置されている七体の像に向かって一心不乱に祈っていた。


 声をかけるのを躊躇ってしまうほど真剣な雰囲気だ。


 そんな両親に向かって、僕を抱いた女性が声をかける。


 すると、弾かれたようにこちらを向く両親。


「クラーク!」

「クラーク……!」


 両親は立ち上がると、走ってこちらに向かってきた。


 そのまま女性からお母さんが僕を受け取ると、堪らないと言わんばかりに涙を流しながら僕にキスの雨を降らせて頬擦りする。なんだか恥ずかしいけど、お母さんが嬉しそうで僕も嬉しいよ。


 お父さんは、そんな僕をお母さんごと強く抱きしめて、そのザラザラの指で僕の反対の頬を何度も擦ってきた。僕のもちもちほっぺが削れちゃうよ?


 でも、そんなお父さんの目尻にも光るものがあった。


 ふと見ると、僕をここまで連れて来た女性が少し涙ぐんでいた。感動的な光景なのかもしれない。


 でも、あの儀式は何だったんだろう?


 たしかに奇麗だったけど、何もなかったしなぁ……。


 まぁ、きっと洗礼的なものなのだろう。


 でも、それだとただの通過儀礼のはずなんだけど、なんで両親はこんなにも感動的な雰囲気なんだろう?


 わかんないや。


 やっぱり、早く言葉を覚えないとなぁ。

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