007 トバイアスの教会
オレ、アドルフ・ランドールは幌馬車の中で揺られながらセシリアの方をチラリと見る。
セシリアは長旅で少し疲れた様子だったが、それでもクラークを膝の上に乗せて抱きしめていた。その顔は本当に幸せそうだ。クラークのことがかわいくてかわいくて仕方がないのだろう。
無論、オレもクラークをかわいいと思う気持ちはある。自分の初めての子どもだしな。できることなら守ってやりたい。
だが……。
あのオークとゴブリンとの戦闘中に突如現れた謎の巨大土人形。あれはどう見てもクラークが普段遊んでいる土人形を大きくしたものだった。関連性がないわけがない。
オレは……。クラークの実力を見誤っていた。そのことをただただ痛感する。
クラークは、小さな土人形を生み出して、それを指示することができるだけだと思っていた。
だから、脅威にはならない。そう思っていたんだが……。
鮮烈に蘇るのは、巨大な土人形がオークの頭を一撃で粉砕する姿だ。
今回のように味方してくれるなら頼もしいことこの上ない。
しかし、クラークが悪しき者、悪魔憑きだった場合はどうなる?
何かのきっかけで、悪魔として村人たちを攻撃し始めたら……。そう考えるとゾッとする。
その場合、クラークを処分するのはオレの役目になるだろう。
そんなのは嫌だ!
オレだってクラークを愛しているんだ!
今でも覚えている。クラークが初めてオレの指を握ってくれた時のことを。
本当に小さな手だと思った。何に代えても守らなくてはならないと誓った。
だから、オレはクラークをトバイアスに連れて行くことに決めた。
トバイアスの教会なら、たとえクラークが悪魔憑きだったとしても、きっとクラークを救ってくれる。
おそらく、かなりのお布施を要求されるだろう。
また借金が増えるのは忸怩たる思いだ。
だが、お金程度でクラークが救えるなら、いくら出したっていい!
思い出すのは、巨大土人形を前にしたサムの表情だ。あの勇敢なサムが、怯えていた。それほどまでに巨大土人形は強力すぎた。
小さな土人形が勝手に動くだけでも不気味なのに、このままでは、いくらクラークが悪魔憑きではないと言い張っても、村人たちが恐れてしまう。
そうなってからでは遅い。
そうなる前に、クラークが悪魔憑きではないという証が必要なのだ。
トバイアスの教会の言葉ならば、村の皆も信じるだろうし、誰も文句は言えない。クラークに文句を言えば、クラークを認めたトバイアスの教会への文句になるからな。
だから、早い方がいい。
母上やセシリアは、せめてクラークの首が座ってからと言っていたが、強行してよかった。
あとは、トバイアスの教会で何を言われるかだが……。
「なんとかなってくれよ……」
オレは祈るような気持ちで前方に見えてきたトバイアスの立派な石造りの防壁を睨み付けるように見続けた。
◇
豚頭とゴブリンに襲われた日から三日後。
ようやく僕たちは目的地にたどり着いたみたいだ。
そこは大きな石造りの防壁に囲まれた都市だった。防壁の入口周りには露天商が並び、その奥には粗末な作りの家のようなものが見える。
都市の中に入れなかった人が、ここで生活しているのだろうか?
僕たちを乗せた幌馬車は、都市に入ろうと並んでいる人々を横目にどんどん防壁の入口へと近づいていく。
並ばなくてもいいのかな? さすがに横入りは怒られるんじゃないの?
そんな僕の思いなど関係なしに幌馬車は進み、都市の入口でお父さんが何かを門を守る警備兵に見せると、あっさりと都市の中に入れた。
「ほあー!」
都市の中には人、人、人。こんなにいっぱい人がいるのかと驚くほどの人々の姿があった。建物も集落にあったものとは比較にならないほど洗練されており、一気に文明レベルが上がった気さえする。
ここは都会なのだろう。日本にいた時も思ったことはあるけど、田舎と都会の差がハンパない。
トコトコと幌馬車で向かう先には、なんだか神聖な感じがする白い大きな建物があった。どうやらここが目的地らしい。
神殿? この国の神社みたいなものなのかな?
入口の脇に幌馬車を止めると、おとうさんが幌馬車を降りた。続いて、僕を抱いたままお母さんがお父さんの手を借りて幌馬車を降りる。
そして、御者のおじさんを幌馬車に残して、僕たちはその白い建物へと入っていく。
手続きが必要なのか、白に金のラインが入った服を着た人たちとお父さんが話していた。その様子を心配そうに見ているお母さん。
たぶん、あの白い服を着た人たちが、この建物の管理人なのだろう。なんだか神聖な感じのする場所だし、神官みたいに神に仕えているのかな? 聖職者ってやつかもしれない。
僕は生まれたばかりだし、もしかして洗礼とかしてくれるのだろうか?
日本の記憶を持っている僕としては神様ってどこにでもいる感じなんだけど、この世界の宗教はどんな感じなんだろう? あんまり厳しいのじゃないといいなぁ……。
そんなことを思っていると、白い服を着た人たちと話していたお父さんがこちらを、正確には僕を指差した。
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