024 ばあばと散歩
「ばあば!」
「クラークはほんに成長が早いねえ」
おばあちゃんがよしよしと頭を撫でてくれる。
「むふー!」
嬉しくて、つい鼻息が荒くなってしまう。僕はおばあちゃんが大好きなのだ。
おばあちゃんは、お母さんの代わりによく僕の面倒を見てくれた。そして、僕をよく褒めてくれる。
村を拡大した時や、お宝を持ち帰ると、その細い腕のどこにそんな力があるのかと思うくらい僕を高い高いをして喜んでくれるのだ。
おばあちゃんにとって、僕は辺境の貴族であるランドール男爵家の悲願を達成した孫だ。もうかなり甘やかしてくれるのである。
そんな僕は今、おばあちゃんに手を引かれて、大きくなった村の中を見て回っていた。
ゴーレムを通して知っている情報でも、実際に村ができていく様子を見るのは嬉しいものだ。
もしかしたら、おばあちゃんはこれが見せたくて、僕をよく散歩に誘うのかもしれない。
「ここを見て、クラーク」
「んな?」
おばあちゃんが指差しているのは地面だった。そこだけ、ちょっとだけ地面の色が違っている。まるで掘り返したように茶色い地面だ。
そして、なぜここだけこうなっているのかも、僕はもう知っている。
「ここはね、クラーク。元々村の壁があった場所よ」
「あい!」
そう。ここは元々のランドール村の木の壁があった場所。村の最奥だった場所だ。
でも、今は違う。
前を見れば村はまだまだ続いており、村を守る壁ゴーレムは遥か向こうだ。
その間には製作途中の家々が建ち並び、もう作られた畑には、青々と何かが育っている。
行き交う人々の表情は明るく、未来を信じているもの特有の輝きを放っていた。
「全部、クラークがやったことだよ。わたくしたちの悲願を、いいえ、ランドール男爵家の代々のご先祖様の悲願を、クラークがやり遂げたのよ。クラークはほんにすごい子だ。きっと精霊様が使わしてくださったに違いない」
「あうあう……」
さすがに褒められすぎな気がするけど、それだけおばあちゃんにとって僕のしたことは大きな出来事だったんだろうね。
僕としてはできる力があったからやっただけで、僕は自分のことをすごい奴だとは思っていない。
でも、周囲はそう思ってはくれないんだよね。
「御子様だ!」
「土の御子様がおいでになったぞ!」
「ありがたや、ありがたや」
「みんな、拝んどけ!」
「この先もランドール村にいいことがありますように!」
「ランドールの御子に栄光あれ!」
僕を見つけると、村人たちが両手を組んで拝みだす。
この僕を拝むのをやめさせたいんだけど、ダメって言っても勝手にやりそうな雰囲気だ。
さらに、最近は僕のことを御子様と呼ぶことが定着しつつある。
僕はそんなにすごいものじゃないんだけどなぁ……。
たぶんだけど、みんな何かに縋りたいんだと思う。
ここは依然として人類最前線の村に過ぎないし、そんなつもりはないけど、いつ潰されるかもわからない。ましてや、いつ自分が死んでしまうかなんて誰にもわからないんだ。
そんな中で、一気に問題を解決してくれる存在が現れた。
それが僕だ。
自分で言うことじゃないけど、縋る当てとしては最適な気がする。
でも、僕だってだいぶ強くなったとは思うけど、まだまだ弱いと思う。たぶん、今の僕より強い存在なんて、数え切れないくらいいっぱいいるだろう。
だから、僕は強くならなくちゃいけない。みんなを守るために、このランドール男爵領を守るために、何より、家族を守るために。
僕の覚悟を察したのか、おばあちゃんの僕の右手を握る手がキュッと強く握ってくる。
僕はそれに応えるように、キュッとおばあちゃんの手を握り返した。
「お義母様にクラークではありませんか。また村の中をお散歩ですか?」
村の中を散歩していると、フードを被ったお母さんと出会った。お母さんは治癒魔法が使えるので、もしも怪我人が出た時のために工事現場の近くで待機しているのだ。
そんなお母さんの後ろには、二人の若い男が意識を失って横になっていた。怪我自体はないので、もう治療済みなのだろう。
「セシリア、ご苦労様だね。そうだよ。クラークと散歩していたんだ。ここの景色は通る度に変わってて面白いからね。それに、赤ん坊のうちからよく歩かせると、丈夫な子どもになるんだよ。アドルフを見てみな。あの子もこのくらいの時によく一緒に散歩したものさ」
たしかに、お父さんは意外と筋肉もりもりのマッチョメンだからなぁ。あながち間違いじゃないかもしれない。
「そうだったんですね。日中はクラークのお世話をお任せしてしまって申し訳ないです……」
「なに、わたくしが好きでやっていることさね。クラークと散歩するのは楽しいからね。この楽しさもクラークがくれたんだ。ほんにすごい子だよ」
二人は笑いながら会話している。一応、二人は嫁姑の関係だけど、その関係は良好そうでよかったよ。
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