022 宴
その日の夕方。
村の中央にある円形の広場に村人たちが集まっていた。その数、子どもも入れて三百から五百人くらいいるだろうか。この小さな村にこんなに多くの人が住んでいるのかと驚かされる光景だ。もうひしめき合うという言葉が似合うくらいぎゅうぎゅうである。
これはもっと村を大きく拡大してもよかったかなぁ。
そんな広場の中央では、村の女の人たちが総出で忙しく働いている。みんなのご飯を作っているのだ。たくさん食べる人もいるだろうし、だいたい六百人分くらい作っているのだろうか。それは大変だよね。
しかも、今夜は御馳走だ。滅多に食べられないベーコンの塊を買っているのを知っている。僕も食べられるといいなぁ。まだ難しいかな?
そんな僕だけど、最近は母乳ではなく、普段はパンを煮たパン粥や細かく切られた野菜、肉団子なんかを食べている。たぶん、この地域に伝わる離乳食なのだろう。
僕の健康に気を使っているのだろうけど、塩分控えめにしているのかと思っていたけど、今日お父さんがデニスから塩を買っているのを見て、実は違うことに気が付いた。
たぶん、この辺りでは塩が貴重品なのだ。
塩と言えば、岩塩などを除けば、海で作るのが一般的だろう。たぶん、近くに海がないので、デニスに運んでもらっているのだ。
運んでもらうということは、運賃が発生するということだ。デニスにも塩を運ぶだけのメリットがないと運ぶ意味がないからね。
僕たち家族は、屋敷にある小さな庭に机と椅子を運んで、村人たちと一緒にご飯を待っている状態である。
屋敷の庭にはデニスたち商隊の姿もある。
ちなみに、我が家のメイドであるケリーは、広場の真ん中で女の人たちに指示を飛ばして料理を作っている。
広場の真ん中からはおいしそうな匂いがして、みんなが今か今かと食事の時を待っていた。
そんな時、広場の中央で調理をしていたケリーが大きく丸を作る。たぶん、料理ができたのだろう。
僕の隣で、お父さんが立ち上がった。
「皆、待ちどうしいだろうが、オレの話を聞いてくれ! 心配するな、長い話じゃない。オレも早く食べたいからな」
お父さんの言葉に、村人たちから笑いが漏れる。
「皆、今日まで本当によくやってくれた。今日は大いに食って、飲んで、英気を養ってくれ。明日からもまた頼むぞ!」
「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」
お父さんがそう締めくくると、村人たちが拳を突き上げて一斉に吠える。なんだか一体感があっていいね。僕も思わず拳を突き上げちゃったよ。
そんな僕の姿を見て、隣に座るお母さんはクスクスと笑っていた。
それから僕たちの机にできあがった料理が運ばれてくる。
「クラーク様にはこちらを」
「おー!」
それは、具を潰したポトフのような料理だった。たぶん、僕でも食べやすいように具を潰したり細かく切ったりしてくれたスペシャルバージョンである。ところどころに見えるピンクの欠片が、ベーコンだろう。
他にも、棒に巻き付いた蛇のようなパンも添えられている。
ケリーはパンを小さく毟ると、ポトフに入れてくれた。これで僕のご飯の完成だ。
「クラーク、熱いから気を付けるのですよ」
「あい!」
僕はさっそく小さな木製のスプーンを右手に取ると、さっそくポトフを掬う。きっと熱々なのだろう。掬ったポトフからはすごい湯気が出ている。
でも、すごいいい匂いなんだ。胃をガツンと直撃するような、これ絶対うまいやつだと確信する匂いだ。
「ふー、ふー」
僕はスプーンで掬ったポトフに息を吹きかけると、意を決してちょっとだけ食べてみる。
「ほふっ!」
熱い!
でも、おいしい!
いろんな野菜やベーコンから出汁がよく出ている。塩味もちょうどいい塩梅だし、なにより、ベーコンの旨味がすごい!
僕のお皿の中のベーコンは、僕が食べやすいように小っちゃい肉片にカットされているけど、それでも存在感があるおいしさだ。普段食べているヤギもおいしいけど、ベーコンは格が違った。
「はふっ、はふっ」
熱いのでゆっくり食べる。もちろん、スプーンから落とすような粗相はしない。僕は賢い赤ちゃんなのだ。
「うー!」
ケリーの千切ってくれたパンも、ポトフの汁を吸ってふやふやになって食べやすく、とてもおいしい。
やっぱり、小麦のパンはほんのり甘くておいしいね。
実は、僕たち領主一族でも、小麦のパンを食べられる機会は意外と少ない。いつもはもっぱら芋を食べている。
たぶん、小麦よりも芋の方がたくさん採れるからだろう。村人たちもきっと普段は芋を食べていると思う。
「あぅ……」
そんな僕のおいしいお食事タイムは、すぐに終わってしまった。元々お皿が小さかったからね。
胃には満足感があるけど、もっと食べたいな。
そんな僕の気持ちを察したのか、ケリーがやってきた。
「クラーク様、おかわりもございますよ?」
「たーい!」
やったぜ!
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