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002 セシリア・ランドール

 わたくしはセシリア・ランドール。辺境にあるランドール男爵領の領主、アドルフの妻でございます。


 今、わたくしは、とても幸せです。


 夫、アドルフとの間に子どもを授かり、順調に育っています。


 わたくしたちのかわいいクラークは、まっすぐで癖のないピカピカの黒髪とキラキラの黒い瞳を持つ男の子です。とってもかわいらしいんですよ?


 夫はとても体が大きいから、クラークもとても大きな子に育つかもしれません。その時が今から待ち遠しいです。


「あなた、わたくしはそろそろクラークを見てきますわ」


 食堂で昼食を取った後、わたくしはそわそわした気持ちを抑えながら、夫であるアドルフに言います。


「ああ。頼んだ」


 サラダをもぐもぐ食べていた夫が言葉短く頷きました。


 おそらく、わたくしがクラークにお乳をあげる時間だと気が付いたのでしょう。おそらく、時間を置いて寝室にやってくるはずです。夫もクラークをかわいがっていますからね。絶対に後で来るはずです。


 それにしても……。


「ふふっ」


 わたくしは堪え切れずに笑ってしまいました。


「どうしたんだ?」


 夫がボサボサの髪の隙間から不思議そうな目で問いかけてきます。


「いえ、あなたったら、クラークに泣かれないようにいつもビクビクしているんですもの。いつも勇敢なあなたのそんな姿がおかしくて」

「それは……。泣かしたら、かわいそうだろ……?」


 少し照れたように言葉尻がだんだん小さくなっていく夫。そんな姿もかわいらしいです。


 夫のこんな姿が見れたのも、クラークのおかげですね。


「では、行ってまいりますね」

「ああ。オレも後から行く」

「はい。お待ちしておりますわ」


 夫と別れて食堂を出ると、わたくしの体重でもギシギシと軋みをあげる廊下を歩いていきます。


 本当はお屋敷の修繕もしたいのですけど、ランドール男爵家の財政は火の車どころか借金だらけです。


 やはり、モンスターの襲撃に備えて防備を固めないといけませんからね。仕方がないこととはいえ、この状態が続くのは……。


 少なくとも、クラークが領地を継ぐまでには、健全な財政にしたいのですが……。なかなか難しそうです。


「はぁ……」


 クラークが生まれてから、この領地の未来のことを考えると溜息しか出ません。


 ですが、わたくしのお母様も言っていました。子どもが大きくなるたびに悩み事が増えると。


 クラークはまだ生まれたばかりだというのに、わたくしはもう悩み事がいっぱいです。


「しっかりしなくては!」


 わたくしはクラークのお母様なのですから!


 決意を新たに、わたくしは寝室のドアを開けます。


 わたくしたち夫婦とクラークの眠る寝室です。わたくしも辺境の出ですからわかりますけど、貴族の寝室としてはかなり質素な部類だと思います。おそらく、王都に住む成功した商人の方がよっぽど裕福な暮らしをしているでしょう。


 クラークに豊かな暮らしをさせてあげられなくて申し訳ない。そんな気持ちを抱えながら、ベビーベッドを見ます。


 すると、そこには眠ってしまったクラークの姿がありました。


 起こさないようにそっと近づくと、穏やかな顔ですやすやと眠るクラークが。


「かわいい……。あら?」


 その時、わたくしはクラークのベビーベッドの上に見慣れないものを見つけました。


 それは、お人形……なのでしょうか? 粘土を捏ねて作ったもののようです。その数は全部で五体。簡単な作りのものから、複雑な作りのものまでいろいろあります。


 赤ちゃんのおもちゃとして、誰かがクラークに与えたのでしょうか?


 ですが、赤ちゃんはなんでも口に入れてしまうとお母様も言っていました。お義母様にも十分注意するように言われています。


「冷たい。本当によくできていますね……」


 夫がクラークに与えたのでしょうか?


 わたくしは、おもちゃを一つ持ち上げると、よくよく観察してみます。


 たしかに精巧な作りのおもちゃかもしれませんが、触った感じではやはり粘土のようです。誰かのご厚意かもしれませんが、クラークが口に入れてしまっては危険です。


「仕方ありませんね。撤去してしまいましょう」


 わたくしはそっと粘土のおもちゃを一つ一つ持ち上げると、寝ているクラークからでも見える棚の上に乗せました。見て楽しむ分にはいいですからね。


 その後、目を覚ましたクラークにお乳を与えました。そして、遅れてやってきた夫に粘土のおもちゃを見せると、夫は知らないと言います。それだけではなく、お義母様に確認しても、メイドのケリーに確認しても知らないと言います。


 村人の誰かがクラークに与えた?


 でも、村人たちがわたくしたちに確認も取らずにそんなことをするでしょうか?


 不思議に思いながらその日は寝ると、次の日にはまたクラークのベビーベッドに粘土のおもちゃが置かれていました。


 しかも、七個も。


 数が増えています。いえ、問題はそこではありません。いったいどこの誰がこんなことを……?


 しかし、わたくしたちも疑問をよそに、粘土のおもちゃは毎日のようにどこからともなく現れ、その数や大きさを増やしていきます。


 いったいどうなっているのでしょう……?


 その秘密を知るには、その日から七日経たないといけませんでした。

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