019 壁ゴーレム
「こうしてはおれんな! デニス、悪いが商売の話は後だ! 今すぐにでも確認せねば! セシリア、すまんがクラークは貰っていくぞ!」
「あ! あなた!」
「あうー⁉」
お父さんは、お母さんの膝の上で踊っていた僕を掴むと、小脇に抱えて屋敷の外に向かって走り出した。
視界がガクガクするー!
「着いたぞ!」
「あう」
そこは村の端っこにある木の壁のすぐ内側に建てられた足組の上だった。
「よいしょっと」
「おおおおおお!」
お父さんに肩車をしてもらうと、ただでさえ高かった視界がもっと高くなる。さすがに木を見下ろすまではいかないけど、木々の葉っぱと同じくらいの高さだ。
「キャッキャッ!」
なぜだか視界が高くなっただけですごく楽しかった。キャッキャッしてしまう。
「お? 楽しいのか? そういえば、クラークはここから村の外を見るのは初めてになるか」
「うー」
ゴーレムを通して見たことはあるけど、肉眼で見るのは確かに初めてかもしれない。湿った風や緑の臭いが新鮮だ。
「一応、ここから先もランドール男爵領になっている。まあ、なってはいるが、近くの木々を切り倒して木材として利用するのが精々で、とても自分の領地とは言えないのが実情だ」
「むー……」
たしかに、僕のゴーレムでかなり掃除したとはいえ、この森の中はいつモンスターに襲われるかもわからない危険な土地だ。
そんな土地が、ランドール男爵領の大半を占めている。これはたしかに村を広げて安全圏を広げたいと思うのも無理はないよね。
「だから、クラークの力にはかなり期待している。だが、失敗しても大丈夫だぞ? 無理もしなくていい。クラークのペースでいいから、挑戦してみくれないか?」
「あい!」
「あなた。突然走り出して、こんな場所に……」
「男爵様! 先ほどのお話ですが……」
僕がお父さんの言葉に頷くと、ちょうどお母さんとデニスも足組に上ってくるところだった。
「おう!」
僕はお母さんたちに手を上げて応えると、その手に土を生み出す。
そして、その土をポイッと木の壁の向こうに投げた。
僕の投げた土は、地面に叩き付けられてぺちゃっと潰れる。
「んー!」
僕と、投げた土にはパスのようなものが繋がっている。そのパスを頼りに土を捏ねて指示を出していく。
すると、土は周囲に砂や石を飲み込むのように急激に成長していく。
そのままどんどん縦にも横にも成長し、できあがったのは縦長の長方形だ。その高さは三メートルくらいあるだろうか。木の壁よりも高い。
これが壁ゴーレムである。創ってみてわかったけど、壁ゴーレムは防御力を上げるためか、土の密度が高い。そのため、創るためには大量の土が必要だ。
それに、壁ゴーレムのサイズはある程度自由に変更可能らしい。大きいサイズの壁ゴーレムを創ろうと思えば、それだけ多くのMPを消費するみたいだ。
「デカいな! すごいぞ、クラーク!」
「あいー!」
壁ゴーレムを見て、お父さんはまるで子どものように大はしゃぎだ。
「まあ! これを、クラークが?」
「こ、これは⁉ このような力が⁉」
壁ゴーレムの大きさにお母さんもデニスも驚いているみたいだ。
でも、驚くのはまだ早いよ!
「あいあー!」
僕が指示を出すと、壁ゴーレムがのっしのっしと歩き出した。その速さは、お世辞にも速いとは言えない。でも、移動可能と移動不可能の間には、越えられない壁がある。この移動できる能力で、ゲームでも助かったこともあるしね。
「移動できるのか! すごいな!」
僕を肩車したままのお父さんがぴょんぴょん跳ねている。嬉しそうだね。僕も喜んでくれて嬉しいよ。
「てい!」
嬉しくなった僕は、どんどん土を生み出しては投げて、どんどん壁ゴーレムを創っては移動させていく。
壁ゴーレムは、森を一部中に入れるくらいの広さでどんどん壁を築いていく。
だいたい、今までの村の広さから倍の広さになった感じかな。
「もうあんな壁が……! クラークは本当にすごいですね」
「こ、こんなことが……⁉」
お母さんも嬉しそうだ。デニスは開いた口が塞がらないという感じでどんどんできていく壁ゴーレムの防壁を見ている。
「ああ! 本当にすごいぞ、クラーク! あとで強度確かめなくてはいけないが、これは画期的だ! 歴史が変わるかもしれん!」
それはさすがに大袈裟じゃないかな?
でも、お父さんも喜んでいるみたいでよかったよ。
その後、壁ゴーレムでできた防壁の強度を確かめるために、お父さんは僕をお母さんに預けると、嬉しそうに大剣を担いで行ってしまった。
壁ゴーレムは今の木の壁よりも丈夫だろうし、たぶん合格が貰えるだろう。
「思い立ったらすぐに行動するのは変わりませんね。デニス、お待たせしてしまってごめんなさいね」
「いいえ、奥様……。私も気になりますので。それにしても、クラーク様のお力はすごいですね。すごすぎます。男爵様もおっしゃっていましたが、これは辺境の歴史を変えるかもしれませんよ!」
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