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017 行商人デニス

 お父さんにすべてのお宝を託した数日後。村はいつになく活気づいていた。行商人たちが村に来たのだ。


 僕もようやくよちよちと歩けるようになったので、お母さんに手を引かれるようにして屋敷の応接間に行く。


 応接間に行くと、父上が待っていた。


「よしよし、クラークも来たな。これから行商人と会うのだが、クラークも見ているといい」

「あい!」


 僕はお母さんの膝の上に座ると、ちょうどノックの音が飛び込んできた。


「デニス様をお連れしました」

「入ってくれ」


 中年メイドのケリーに案内されて部屋に入ってきたのは、二十代半ばの青年だった。ここまで長旅だったのだろう。無精ヒゲが目立っているが、服には清潔感があった。たぶん、着替えたのかな?


「お久しぶりでございます、ランドール男爵様、奥方様。今年も私、デニスがランドール男爵領の担当になりました。よろしくお願いいたします」


 そう言って深々と頭を下げるデニス。


 デニスは顔を上げると、今度は僕に向かって深く頭を下げる。


「初めましてお目にかかります、クラーク様。私はデニスという行商人でございます。以後、お見知りおきを」

「あう!」


 手を上げて返事をすると、デニスはにっこりと人好きのする笑みを見せて手を上げて応えてくれた。いい人だね。


「デニス、立ち話もあれだ。座ってくれ」

「はい。失礼いたします」


 デニスは僕たちと向かいの席に座ると、ケリーがみんなの前にコップを置く。中身はどうやら水みたいだ。


「デニス、何か変わったことはあったか? 他の領地や辺境伯の噂でもいいが」

「そうでございますね。今年は潰された村はありませんし、私の担当地域は、皆様お元気でしたよ」

「そうか。それはよかった」


 デニスがお父さんの言葉に頷く。


「はい。今年はモンスターの襲撃が少ないようでして、皆様領地を拡大するチャンスと考えていたのですが……」


 そこで、デニスの表情が曇る。


 何か悪いことでもあったのだろうか?


「我が領でも領地を拡大しようかと考えていたのだが……。どうかしたのか?」

「それがですね、辺境伯様が難色を示されまして……」

「何? 領地は切り取り次第の約束ではなかったのか?」


 お父さんの硬質な言葉が応接間に響いた。


 というか、僕は初めて知ったけど、領地って切り取り次第なんだ。


 つまり、モンスターを倒して、森を開拓した分だけ自分の領地になるということだろう。これって、かなりの好条件なのでは?


 でも、いつモンスターに襲われるかわからない土地だし、たぶん、ここは人類の最前線といってもいいほど辺境の土地だと思う。


 実際、生活も苦しいしね。


 だから、それぐらいの旨みがないと、そもそも領主になってくれる人がいないんだろう。


 でも、切り取り次第か。これはいいことを聞いたね。


「いえ、そちらの方ではなく……。その……補助金の方が……」


 何とも言いづらそうに歯切れ悪く言うデニス。


 補助金? 補助金って何だろう?


「何? まさか、補助金が出ないのか?」


 信じられないことを聞いたとばかりにお父さんがデニスに問いかける。


「はい。辺境伯様のお話では、補助金はあくまで被害に遭った領地に出すものであって、領地拡大のためには出さないと……」

「それでは壁も移動できないし、村も拡大できないではないか! これでは、何のための切り取り次第かわからんぞ!」

「おっしゃる通りなのですが、辺境伯様のお考えですので……」

「また辺境伯の悪い癖が出たか……」


 悪い癖?


 お父さんとデニスの会話は僕にはちんぷんかんぷんだけど、それでもわかることもある。


 例えば、補助金の話。


 お父さんの話しぶりからすると、たぶん村を囲っている木の壁を広げて村を拡大したかったのだろう。そして、拡大した分だけ領地が広がったということだ。


 ここはいつモンスターに襲われるかわからない危険な土地だ。そんな場所ではおちおち農業もできないので、家も農地もすべて壁に囲われている。


 つまり、壁の中だけが自由にできる土地なのだ。その土地を広げるために、壁を広げたい。


 でも、それをしようとすると、大工事になるのは目に見えている。壁を移動している間は、危険な時間は少しでも短い方がいい。


 そうなると、人を雇って一気に工事してしまうのが一番いいのは僕でもわかる。


 そうなれば、人を雇うのにお金がかかる。雇った人にご飯を食べさせるのにもお金がかかる。雇った人々を護衛するのにもお金がかかる。


 たぶん、辺境伯という人は、そのための補助金を出さないと言っているのだろう。


 お父さんの言う通り、これでは何のための切り取り次第の許可かわからない。


「辺境伯は、我々の飼い殺しをご希望か……。くそったれ!」


 お父さんがドンッと机を叩いた。


 コップに入った水がちゃぽんと揺れた。


 お父さんの憤慨もわかる。一生懸命、命懸けでやってきたことの結果がこれというのは残酷だ。


 僕、その辺境伯って人のこと嫌いだな……。

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