恋文
「――仰せの通り、先ほど責務を終えました。幾分時間が掛かってしまい申し訳ありません、姫君」
「いえ、気にしないで。ありがとう清乃」
ある日の昼下がり。
風情豊かな縁側にて、優美な仕草で空を眺める少女へと報告と謝意を申し上げる。すると、柔らかに微笑み感謝の言葉をくださる少女。彼女が幼少の頃からお仕えしている、私の敬愛すべき姫君で。……しかし、それにしても……いつも拝見していながら、あまりの美しさに思わず見蕩れてしまいます。
ともあれ、そんな絶美の少女から託されたのは文の代筆。最初の一通から数ヶ月、もう幾度も文を送ってくださっている男性――恐らくは20代半ばと思しき見目麗しき男性に、姫君ご自身ではなく私が返事を認めているわけで。
ですが、それは一向に構いません。代筆とはいえ、姫君が初めてお返事の意志をお示しになったことは従者としてたいそう喜ばしいことです。……ですが、問題なのは――
「――あの、姫君。畏れ多くも度々申し上げておりますが……そろそろ、ご自身でお返事をなさってはいかがでしょう。さもなくば、流石に愛想を尽かされてしまうかもしれませんよ?」
そう、畏れ多くも告げる。前述の通り、代筆は一向に構いません。ですが……お相手が姫君のことを諦めないよう上手く匂わせた上でお断りしてほしいという、何とも難易度の高い仰せをなさるものだから流石にこちらも大変で。それに、お相手のかの男性にも申し訳なく思いますし。
そして、今回はとりわけ大変でした。直接は書かれていませんでしたが、もし芳しい返事が得られなかったら文を送るのは今回を最後に――即ち、姫君から身を引くという意志が文面から明確に伝わって。なので、どうにか彼が今後とも姫君のことを諦めないよう、それまで以上に脳漿を絞り文を認めたわけで……ええ、本当に大変でした。そして、疲労のみならず彼に対する罪悪の念もいっそう募って……うん、本当に申し訳ない。
「……ええ、分かっています。ですが、まだ……」
すると、たいそう決まりの悪そうに顔を逸らしつつ呟く姫君。……まあ、お気持ちは分かります。ですが、どのような文を送ってもお気持ちさえ伝われば受け入れてくれる――彼からは、それほどに真摯な姫君へと想いが毎度の文から胸を打つほどに伝わりますから。一方、このままお断りの返事を続けてしまえば、流石に脈なしと見做し姫君から身を引いてしまう可能性も否めない。実際、今回の御文にその覚悟が読み取れたように。
そっと、姫君のすぐ傍へ視線を落とす。そこには、僅かに成長の跡は見えるものの、お世辞にも綺麗とは言えない仮名文字で書かれた大量の文が。すると、徐にその中から一枚を手に取り見つめる姫君。そして、さっと目を逸らし呟くように言葉を紡ぐ。
「……だって……こんな下手なの送ったら、きっと嫌われちゃうから……」




