第18話:今後も
午前中いっぱいかけて獲得素材の引き取りを終えた攻略部隊。事前準備はしたとはいえ、店主も立会人も価値算定にはやはり苦慮していたし、求めに応じて多少の処理も施したため、万事に時間がかかった。全額が現金で入ったわけではなく、一部は後ほど商店から別途払い出すという形になったが、それでも収益がおよそ確定したのでその後は『ジマイン』本部に出向き、参加者全員で報酬を分配した。数字に明るくない獣人たちだが別グループとの協働なのでまったくのドンブリ勘定というわけにはいかず、エルレアと同期の犬型獣人サグを呼び寄せて計算を委ねていた。なお、自己強化にこだわる彼等は『悪食』と同じく、魔石を売り払うという考えはなかったため、そちらはそちらで十数名で振り分けるのにまた確認の時間をかなり要した。
そうは言っても、まだ日の高いうちには山分けは終えられたので、エルレアたちは獣人と別れ冒険者ギルドに向かうことにした。攻略任務本体の完了手続きはナルコたちが既に終わらせているが、『悪食』は別途目付役クエストの処理を行わねばならなかったからである。あまり深刻な心配はしていなかったが、大人数の『ジマイン』側に好き放題されないよう、報酬配分の完了までは報告書の補遺を出す余地を残しておいて、いざという時には手札のひとつとして切れるようにするという狙いもあった。
「本当にお疲れ様でした。水の中で大変だったと、ニャルコさんからすこしお聞きしましたよ」
今回得られたクエスト点数の処理や、目付役任務の報酬払い出しの手続きを行ってくれたのは、エルレアもすっかりお馴染みの猫型獣人女性ミケだった。
「ミケはね、実は獣人の中ではかなりのエリートなんだって」
地上帰還後も後処理に忙殺されてきて、いいかげんしっかりとした休養を取りたい『悪食』の先輩ふたり。冒険者ギルドから宿への帰路、あくびを噛み殺しながらヴェガがエルレアに教えてくれた。出発前の食事会でナルコに聞いたのだという。
事務手続きを担っているミケは、学力の高さと人当たりの柔らかさを買われて、『ジマイン』と冒険者ギルドの肝煎りで受付を務めることになった。愛らしい見た目も相まって隠れファンが多く、狂暴な印象を持たれがちでクエスト発注相手としてためらわれたりもしやすい獣人たちのイメージ向上に、かなり寄与しているそうだ。なんなら昨日会話した『コルネリウス商店』の店主弟にしても、受付嬢ミケとの伝手はあるのかとナルコにこっそり聞いているのをエルレアの耳が捉えていたくらいである。ナルコも待遇改善に頭を悩ませていたが、種族差別の解消に向けては、こういう地道な草の根活動こそが実を結んでゆくものなのかもしれない。
「ナルコも彼女も、それぞれのフィールドで闘ってるのね」
いつも優しく気遣ってくれる受付の彼女の態度に和まされることの多かったエルレアだが、穏やかな見た目の後ろにはなかなか大きな使命を背負っているようだ。ヴェガの言葉に頷きながらエルレアは、それぞれにそれぞれの背景があるものだと感じ入った。
しかしミケについての話を聞くと、エルレアには他にもうひとつ気になっていたことが思い出された。
「そういえば、ネコ系の方は今回のグループにはいませんでしたね」
「うん、到達深度15位に『スレヴァー』っていう組がいるんだけど、そこの虎型獣人が『ジマイン』内の最大派閥のトップらしいわ。前回の階層主討伐もそっちが主力。ネコ系はナルコ派とは違ってほとんどそっちのグループだそうよ」
「え、15位というと、変な言い方ですけど『ジャベル』さんより下の方がトップなんですか」
「ザバン迷宮の深部到達を主眼に置いてない冒険者もいるんですよ。彼等は能力向上のために迷宮を使っているだけで、もっとシンプルな荒事のほうが得意な人たちなんです」
「あー、なるほど、深度3位のナルコさんたちが、特に探索に強いグループってことなんですね」
単純に戦闘力が高ければそれで深部に進めるわけではないのだ。冒険者にとってもっとも稼げる仕事のひとつではあるのだろうが、ハンナやムーキーのような探索活動に特化した人材が求められたり、魔物解体にもトキのような専門知識を要したりと、志向によっては迷宮探索は合わないのかもしれない。逆に地上での賞金首狩りなど『悪食』の面々が関心の薄い領域もいろいろとあり、それらを得意とする者もまたいる。
「共同作戦開催って、結構いろいろ面倒だったでしょう。ナルコは前回はその手の準備を押し付けられただけに近かったらしいけど、それでも街で名が上がるのは元締めの三位のほうなんだから、虎の派閥ってたぶん政治ベタよね」
「あんまりうまくねーのはどっちもだろ。名誉だけかっさらわれたとか思われると、派閥間で気持ちにしこりが残りかねないからな。まあ獣人同士の関係性は知らねーけど」
ネコ派閥が主力を担ったにせよ、人々が話題にしやすいのは当然、参加者中トップの者についてである。三位がいたからこそ、となりやすいわけだ。もしもそれを想定できなかったのならばネコ組の立ち回りが悪いし、とはいえナルコの方でもより積極的に功を譲っておくべきだったのかもしれない。
今回『悪食』は公には、目付役としての立場を逸脱していない。実際に担った役割はそれなりに大きかったが、最下層攻略を果たしたのはあくまでも『混成攻略部隊』ではなく『ジマイン』である。報告書でもそうまとめている。多少仲は深まったとはいえ、こういう機微には敏感な外人としての振る舞いであった。
「にしても、いち派閥を率いてるとはいうが、テナー氏はつくづく面倒見いいひとだったよな、ウチ相手も含めてさ。腹黒な企みには鈍いんだろうが、それでもいろんな物事に気を配れる感じはした。そのぶん気になる問題も多くて心労が絶えないんだろうけど」
「うーん、もしかしたら、冒険者活動が単独行動なのは、そういうところの裏返しもあるのかもしれませんね」
他人との関わりをあまり気にしなくていい迷宮探索が街での活動よりも好きなエルレアとしては、なんとなくナルコの気持ちもすこし推し量れる気がした。もちろん氏族全体を背負う彼女にはもっと別の考えもあるのだろうけれど。
面倒見の良さや目配りの利かせ方でいうと先輩ふたりも相当なのではないかとも思うが、ナルコは街の新顔のエルレアから見てもひとかどの人物であるような印象は受けている。とりわけヴェガは、酒席での話のウマが合ったことで、彼女のことが気に入ったようであった。
「打ち上げでまたいろいろ話してみようかしらね。これまでほとんど絡みはなかったけど、特にナルコとは今後も協力関係でいたいわ」
今日のやりとりの中で、慰労の宴席を設ける話も出たものの、特に『悪食』側がさすがにゆっくりと身体を休めたかったため、開催は明後日にしてもらっている。
今回の共闘や打ち上げを機に、彼等と交流を重ねていければ、互いに良い影響が更にもたらせるのかもしれない。ミケのように日常から距離を近付けることも相互理解にはとてもいいはずである。この街でのエルレアは、言ってみれば森人代表のようなものかもしれないのだ。実際そこまでの大役は担えないが、イメージアップなどをしておけば、種族にとってもいいことがあるかもしれない。
自分たちが楽しんでいる秋の味覚も試してみてもらおうかな、そう考えたエルレアのお腹が、天高く馬も人も肥ゆる秋の空に大きく鳴り響いたのだった。




