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地味パーティーのエルレアさん  作者: 甘栗八
第4章 初めて見る景色
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第16話:引き揚げ

 階層主戦を終えて、一行は魔物の解体を進めている。


 『碧蟹(ガザマイア)』は食用等にも一応供されるがすぐに傷むため、甲殻を中心に安定して使えそうな部位のみを持ち帰る方針である。今回狩った大型以上の種は皆新型であり、わりと手探りの面が大きかったため、魔石を採るのも一苦労であった。魔石感知にも長けたハンナとムーキーを軸に、あれこれと試しながら甲殻を割ったり筋目に刃を入れたりしている。戦闘をとおしてそれなりに痛めつけたが、とはいえ巨大な甲殻の大部分は表面の水晶も無事で、珍しさから市場価値も相当なものになるだろう。


 素材処理には参加していない者もいる。

 今際のきわに『ゲンリュウ』の放った魔法のせいで、パッチとターレスが負傷したため、エルレアはふたりの治療でおよそ魔力を使い切った。他の面々は水流攻撃とそれにより崩れてきた天井の岩とをどうにか躱しきったが、岩盤からエルレアを守った自動盾ムラサキは三分の一ほど欠けてしまってもう動かない。

 エルレアは魔力を少しでも回復するようにと言われて、後始末の間にまた腕輪部屋(シェルター)で休憩を取っていた。おそらくこれ以上の戦闘はないが、逆に解体の力仕事でエルレアひとり増えたところでできることは知れていたため、一応の備えとしてということである。メインタンク役として戦闘での消耗の激しかったグラーンとロザンヌも横で寝ていた。




「腹の部分がさ、『タチキリ』の方は三角に尖ってるよね。『ゲンリュウ』の方は丸っこい。こっちがメスだね」


「ふーん、(つがい)だったのかな。こいつらの産卵でこんなに異常発生したってこと?」


「『胃袋』の魔物は、(カタ)しても湧いてくるからな。どうやって生まれてんのかはよくわかってねーっつーけど」


 『ジャベル』のハンナ、ラフト、モリソンが会話している横で、トキも腹部の残骸を確認している。


「『コルネリウス商店』に水棲種の解説本があると聞いたんで軽く見せてもらったんですがね。育ちきってない腹節を見るに、『ゲンリュウ』は未成体っぽいですよ。内子(うちこ)も白くて小さい。仮にコイツに大型種をポコポコ生まれてしまってたら、しばらく最下層は蟹の天下だったのかもしれません」


「じゃあ、いい時期に討伐できたってことかな。つーかトキさんはいいかげん休んだら?」 


「いやあ、起きたら全部切り分けられてたっつーんじゃあ、新型を拝みに来た甲斐がないじゃないですか」


 魔物への好奇心を隠さない様子に、不要な肉塊を横で焼却処分しているヴェガが肩をすくめた。


 道中狩った大型種はナルコが携行していたが、もののついでにこちらも含めて解体処理を行っている。ナルコの収納は大容量かつ冷蔵機能を備えており、死後しばらく経った魔物もあまり悪臭などが目立たなかったことにトキが感嘆の声をあげた。



◇◇◇



 おおよその処理が済み、超大型種二体の素材は獣人たちが持ち帰れるサイズに整えられたので、休んでいたエルレアたちも起こされて外に出てきている。

 『謁見室』の端では再び据え付けた『コルネリウス』の器具がゴウンゴウンと魔法水の揮発を促していた。室内の水は、戦闘で増えた分程度は、すぐに減りなおした様子ではある。


「『玉座』の始末はどうすべきかな」


 ノートを取り出して鉗脚や感覚器官などをスケッチしていたトキとムーキーに、暖房器具のほうを見ながらナルコが話しかけた。今回の活動の中で最下層の水をすべて干し切ることは現実的ではないとの見立てをしているからだ。手を止めて応じるトキ。


「水源がいなくなったんで、放っといても魔法水は消えていくとは思いますがね。ある程度掻き出して(なら)したら、揮発は早まるかもしれません。まあこれ以上は任務外とは言えるんじゃないですか」


 階層主戦には、準備を含めて十四刻(約7時間)ほど費やした。働きどおしのトキはヘトヘトだし、エルレアの回復余力も限られている。ムラサキは壊れてしまったし、獣人たちにも疲れが目立っていた。ナルコを筆頭にまだ元気な面子もいるが、全体的にはかなりくたびれていると言っていい。


「チームとしての継戦能力には限界が近付いてるから、あんまり無理したくないな。思い切って大きい休憩を入れたとしても、残りの滞在可能時間が微妙なところだからね。これ以上の魔法水処理が絶対に必要じゃないなら、もう切り上げたい」


 ここでたとえば半日をまるっと休養に充てれば、ベテラン冒険者たちは完全回復に近い形に体力を戻すだけの技術を持っている。ただその後この階層にいられる時間は二刻(約1時間)程度になる。そうなると、もはや急いで噴門を目指さなければならないタイミングだ。丸一日を過ぎて強制転移を受けてしまうと大事故である。


 では、休息を取りつつ攻略部隊が魔法水処理作業を続ける価値はどれほどあるのか。

 核となるのは、次の階層主がどの魔物になるかというところである。よく知られた魔物がヌシになれば環境も()()()に戻るはずだし、逆に再び『碧蟹(ガザマイア)』が返り咲けばヒトにとっては嫌な状況が続くことになるだろう。

 通説では、噴門のエネルギーをもとに危険種が変異してヌシになるのだとは言われている。魔物発生のメカニズムはよくわかっていないが、この層にはカニ出没後も『沙巌熊(アダマス)』などが出た痕跡も見られたため、今後最下層に現れたそういう馴染みの種をヌシ争いにおいて後押ししてやるのが効果的ではないかと思われる。すなわち、空位期間中は最下層ではなるたけカニを狩り、他の魔物はあまり狩らない。


 『碧蟹(ガザマイア)』に、水の満ちた『玉座』に籠もられて安全に魔素を吸収されつづける、というのがこの場合のワーストケースである。本来階層主は噴門前を陣取ることが圧倒的に多い。噴門から離れた場所で魔素をどれほど独占できるのかはわからないが、今回の超大型も『出口』エリアは制圧しつづけるようにしていた気配があるので、他の種が噴門側で健在ならばこの問題は起きづらいようには思われる。

 逆に、カニが湧くこと自体は、今回の異変を見るに、水の多寡を問わず起きる可能性はあった。魔法水を減らせば他の種が『碧蟹(ガザマイア)』に後れを取ることは減るだろうが、事態の直接解決に必須かというとそういうわけではなさそうだ。


「そう考えていくと、水をなくすことよりも、経過観察と他種支援のほうが重要でしょう。我々だけで粘るより、早めに他の組も入れ始めたほうがいいと思います」


 トキの整理にナルコも他のリーダーたちも頷いた。


「よし、じゃあここで引き揚げよう。皆、新型ヌシ討伐、よくやったよ」


 ナルコの言葉に、獣人たちの大きな勝鬨が『謁見室』中に(こだま)した。



◇◇◇



 攻略部隊は地上に帰還した。

 大噴門で別れることになった一同、『悪食(アクジキ)』側は魔石を多目に保持させてもらっている。獲得物の明細は参加パーティー全員でお互いに確認して同じ物を手元に残したが、獣人たちだけに現物を持たせておくわけにはいかないのだ。抜け駆けて処分されるとトラブルになるからである。元締めのナルコがその点はかなり配慮してくれた。


「ヴェガさんの容量なら全素材をまとめて持てるのかとも思ってたんですけど、確かにいちパーティーが独占するのは不健全ですね」


「ええ、『ジマイン』側にある程度主導させたけど、ナルコがこっちにも気を遣ってくれてよかったわ。お互い完全な信頼があるわけじゃないからね。……それでいうとエルレアちゃんはともかく、トキくんは、今回余力なくしすぎじゃなかった?」


 例によって霧のシャワーで、こびりついたカニ特有の生臭さを入念に落とした後、宿への路でヴェガがトキの立ち回りを咎めている。ナルコやラフトがいまだゆとりを残している中、エルレアもトキも、魔力枯渇に近しいところまでいったのだ。特に魔法に頼る割合の大きいトキのほうが影響は大きい。


「利害関係は保ってたと思うけどなあ。報告まで終える必要のある『ジマイン』側として、ウチは生還させないといけない存在ではあっただろ?」


「それにしたって、私達の持ち物に目をつけられたら、全財産奪われて殺されるってケースも一応ありえたんだから」


「えっ、ナルコさんたち相手でも、そこまで心配しないといけないんですか」


 表向きはかなり仲良くやれていた今回の共同作戦において、ヴェガはそんなことまで気に掛けていたのかとエルレアは不思議に思った。


「いい人感あったのは否定しないわ。私も悪感情はないし、十中八九大丈夫だとは思う。でも残りの一を引くと死んじゃうんだったら、もうちょっと慎重になっても損はないっていう話よ。ツェリークだって、討伐は獣人にがんばらせろって言ってたでしょう。戦闘には参加せずに魔力回復に努めててもよかったんじゃないの」


「ええー、でもヴェガさんは、私には最初っからすごく甘かったです」


「それは優先順位の問題。トキくんがより安全になるんだったら私は博奕打ってもいいの」


「うーん、なるほど……」


 ナルコ側に悪意がないとしても、仮に帰還までに新しく抜き差しならないトラブルが起こったとしたら、彼女達は余力のない『悪食(アクジキ)』を見殺しにして自分たちだけが生きて帰る選択を取った可能性はある。それはそうする者が特別に悪辣なわけではなく、危地において自立できていない者が悪いのだ。他の人たちとの協働は、お互いに命がかかっている分、相応の緊張感は個々で持っておくべきだというのがヴェガの主張であった。心配性の彼女にトキが苦笑しつつ応じる。


「つっても報告義務はウチ持ちだから階層主戦を見届けないわけにはいかねーしさ。それに、俺達を見殺しにしなきゃあいけないくらいの状況にはさせないだろ、ってくらいにテナー氏は凄腕だったからな。まあ、ヴェガの言うこともわかるよ。次はもうちょい自重する」


 ……あんまり自重はしなさそうな気がするなあ。


 彼の無鉄砲さが気にかかりだしているエルレアも、ヴェガと同じように、へらへらと笑っているトキには白い目を向けたのだった。

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