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地味パーティーのエルレアさん  作者: 甘栗八
第4章 初めて見る景色
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第12話:合流

 最下層に出てくる場所は、みな同じである。ここは『最下層入口』と呼ばれている。平坦で多少開けている上、一方向に道が伸びているだけのどん詰まりで、魔物からの挟撃の心配なども少なく、集まるにも都合がいい。


 現在、大噴門通過から二十二刻(約11時間)が経過したところで、全チームともこの最下層入口に集合することはできたが、道中で『ミエシズ』の後衛パッチと『キーファット』のアナグマ戦士キトが負傷していた。特に『沙巌熊(アダマス)』の石弾を背骨に被弾したパッチは割と重症で、イヌ型獣人ジャークの背に負われて荒い息を吐いていた。他の魔物と争いだして放たれた流れ弾を運悪く受けてしまったらしい。早めに最下層に進入して入口周辺の安全確保を進めていた『悪食(アクジキ)』たちを見て、ホッとした顔を見せた『ミエシズ』メンバーである。パッチの青褪めた顔を見て走り寄ったエルレアは、すぐに手当てを施した。


「魔力に余裕のある医療術師(ヒーラー)がいなかったら、ひとりで帰すか本番では寝かしたままにしなきゃならないところだった。後衛が減らずに済んで助かったよ」


 同チームの女性戦士ロザンヌが、エルレアの手を握って感謝を告げた。負傷などで行動継続が難しい場合、普通の探索では次層に行かず帰還してしまえばよいのだが、こと共同作戦においては途中離脱はよほどのことがないと許されないらしい。そして初級者ひとりがドジを踏んだ程度では、そのよほどのことには勘定されないのだ。なにせ本命との衝突をすっぽかすと全体の作戦が狂い、他のチームすべてが危機にさらされかねないのである。ひとたび最下層に立ち入った以上は、最低限噴門までは辿り着けなければ全滅してしまうのだから。


 『座紋(タドック)』の巻き起こした小規模な岩盤崩落に巻き込まれて左足を引き摺っていたキトも、同様に治療が済んだ。ただしこちらは、残った『ジャベル』の到着までナルコに止められた。中級者たちが負傷していた場合、作戦遂行に影響の大きい彼等の回復が優先するし、まだエルレアの魔力残量に余裕は大きいとはいえ、階層主戦前に軽率に使い過ぎることはできない。さいわいというかさすがというか、中級者揃いの『ジャベル』は全員無傷で現れたため、キトも癒やすことが許可されたのだった。


「予定の合流時刻まではあと二刻もある。もうちょっと慎重に進んでれば負傷を避けられたのなら、時間の使い方を考え直しなよ。早く着けばいいっていうわけじゃないからね」


「いやー、エルレアっちも早くて助かりました。中に医療術師(ヒーラー)がいるのって便利ですねえー」


「大丈夫です。今度見かけたら『座紋(タドック)』なんぞ粉々にしてやります」


 ナルコの厳しい言葉はあまり届いていないのか、元気になったパッチにもキトにも堪えた様子はなく、なんだかピントのズレた反応をしている。カニ処理で活躍してくれるならばと肩をすくめた狼の横で、同じチームのリーダーたちの方が恐縮していた。


 ともあれ、これでみな万全の状態で最下層攻略に臨める。



◇◇◇



 攻略部隊は、大量に発生している『碧蟹(ガザマイア)』を処理しながら奥を目指し始めた。


 先の『悪食(アクジキ)』による調査時と比べても見かける数は増えており、場所によっては足の踏み場もないほどである。加えてぬかるんだ足下と粘つく泡沫(あぶく)が冒険者たちの行動を阻害する。とはいえ『碧蟹(ガザマイア)』の通常種は戦闘巧者たちにとってみればさほどの脅威ではなく、進行部分の確保は順調に進んでいた。


 冷気をまとうロザンヌの剣が一気に三体を串刺しにした。ターレスの槍からは瘴気が吹き出て周辺の魔物をひと息に腐食させた。グラーンが振るう大槌は赤黒く燃え盛って多数を一撃で粉砕した。面々は魔道具を持つことで模擬戦とはまた異なる姿を見せている。(あるじ)の方に吹き飛ばされてきた甲殻の破片をヒュヒュッと動いて弾き返した自動浮遊盾ムラサキを撫でながら、エルレアは獣人種族のつよさにあらためて感嘆を覚えていた。魔法を使えばトキは自分とも更に良い勝負ができたかも、とナルコは言っていたが、トキに打ち負かされた他の獣人たちとて似た立場だったのだろう。

 もっぱら『碧蟹(ガザマイア)』を相手にしている攻略部隊。あたりには他の魔物の死骸も散見されるが、やはりみな数の暴力を誇るカニたちにやられてしまったようだ。肉や内臓はほとんど残っておらず、食い尽くされていた。




 新型階層主は、次階層へとつながるゲート『噴門』のある通称『出口』エリアか、トキが『玉座』と名付けた最奥の区画にいる可能性が高い。成長途中でも『沙巌熊(アダマス)』を両断するほどの強個体であるはずで、『タチキリ』と呼ぶことにしている。その『タチキリ』を探しながら歩む一行は、ひとまず『出口』エリアまでの制圧を目標に置いていた。『玉座』側にいるにしても結局噴門は確保せねばならない。


「このさき、『沙巌熊(アダマス)』級にデカいのが一体いるよ!」


「んじゃ、お仲間の死骸でも喰らいやがれ!」


 緩やかに弧を描く細目の通路、手前で敵を感知したハンナの警告を聞いて、投石士のモリソンが特製投弾帯(スリング)に足下の甲殻を引っ掛け、前方曲がり角からわずかに見えた大型種を狙撃した。間に合わせの弾とは思えない精密なコントロールだ。バコンと強烈な音を立てて対象にぶち当たった弾は完全に砕け散ったようだが、同時に前に踏み出たグラーンが水流の反撃を受けて即座に退いた。うまく躱したものの、岩壁を抉る侮れない威力である。


「傷はついてるが、あまり(こた)えてないぞ。ヌシとは思えんが危険種級だ」


「装甲も相当に分厚いってことか。んじゃ、急所狙いだな」


「ハンナ、前方に目眩ましを張ってもらえる? オレが削るからさー、グラーンも援護よろしく」


「はーい、わかったよ!」


 前線を張る『ジャベル』は、自在に雷をあやつるラフトの剣撃を軸として大型種に挑みかかった。襲い来る巨大な鉗脚(ハサミ)をグラーンのハンマーが正面から弾く。と同時にモリソンの投擲が、この衝突で一瞬硬直した蟹の飛び出た目玉を打ち抜いた。背に飛び乗ったラフトが浴びせた斬撃はハサミの根元に弾かれたが、それを見たこのキツネ獣人は二本持ったもう片方の剣に体重を乗せ近くの関節を刺し貫いた。激しく体を揺すった大型『碧蟹(ガザマイア)』からとんぼ返りをうって飛び降りた仲間、着地を狙ったもう片方の鉗脚(ハサミ)はグラーンがまた防いだ。

 足下、水面下で蠢いて後方モリソンの足に切りつけようとした通常サイズの『碧蟹(ガザマイア)』をハンナのロープが引っ掛け、二列目でサポートするナルコが素早く踏みつける。獣人たちのコンビネーションは素晴らしい練度で、残った眼をまた狙撃され足をほとんど切り飛ばされたこの大型危険種は、水を四方に跳ね上げて倒れ込んだところで頭部をグラーンの振り下ろした大槌に叩き潰された。


「単純に始末するなら、まあこんなもんっしょ。売り物になるかっていうと自信ないけど」


「オッケーオッケー、でっかい欠片だけ拾ってこう。素材なんかを考えるのは、全部終わってからじゃないとキリがないよね!」


「おつかれさん、代わるぜ」


 ウィズマーの言で前線を交代した『キーファット』たちも、全体10位の『ジャベル』からは格の落ちるパーティーながら、その後に『出口』エリア手前で遭遇した大型種をこれまた巧みな連携で翻弄して無傷で撃破した。ナルコからの苦言もあって、傷を負うことを避ける立ち回りをリーダーのイタチが徹底している。そのぶん時間はかかったが、爆風で加速したキトの両手斧を地道に当てて一本ずつ脚を削りきった。こんなところで消耗してはいられない。まだ階層主『タチキリ』は姿を見せてもいないのである。




「うーん、それらしき奴はいないっすね。やっぱ『玉座』に引っ込んでんのか」


 先行したウィズマーが通常種を蹴り飛ばしながら首をひねる。出口エリアにまで踏み込んだ攻略部隊だが、依然としてヌシの姿はなかった。かわりに一帯の水量はエルレアたちが以前確認した時よりも格段に増えていた。基本試算ではひと月で膝丈ほどかとも見ていたが、半月未満にして既に噴門周辺全域はゆうに脹脛(ふくらはぎ)まで水に浸かる状態となっており、どうも『碧蟹』連中はなお積極的に魔法水を増やしている。他の場所もそれなりに水浸しにはなっていたが、このあたりはやはり特に溜まりやすく、調べてみたところ一部では腰まで達するほどになっていた。


 周辺の敵を一掃して、一行は小休憩を取っている。足下はトキの土魔法で岩を崩して一段高く小さい台地を形成し、乾いた拠点を整えた上で、火を起こして暖を取っていた。あわせて湯を沸かして冷えた身体を温める。普段熱いものが苦手な者たちも、個々に温度を調整して飲んでいた。『胃袋』第一階層の気温はかなり安定しているし、獣人には人間よりも寒さに強い者が多いが、濡れたまま冷えたままでいると体力は無闇に失われてしまう。


 他エリアから断続的に魔物が寄せてはきていたため、『ミエシズ』を中心に引き続き警戒も続けてはいる。その様子と、休んでいる面々をともに見渡しながら、トキがナルコに声をかけた。


「テナーさん、一応確認ですがね。大型種への対処法は見えましたし、現状では手数で押し通れば噴門まで辿り着けるというのがわかりました。報告はおおよそここまででも最低限まとめられますが、作戦は続行しますか?」


「そうだね、ありがとう。階層主討伐を目標にはしていたけど、一旦状況を整理しようか」


 ナルコは火の側に全員を呼び集めた。

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