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地味パーティーのエルレアさん  作者: 甘栗八
第4章 初めて見る景色
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第11話:快速

 前回の『ジマイン』による階層主討伐共同作戦(レイド)、ナスケスの言葉でいうゼロ日目(デイ)から数えると、十二日目になる。空位期間にいくつかの組が消息不明になっており、冒険者たちの迷宮探索活動はめっきりおとなしくなっていた。最下層の異状について、単純にリスク過多だと見て手控えた者たちも多いし、実力ある他の大手氏族たちも、『ジマイン』に攻略を命じたバナデア執政側への配慮もあって少なくとも初回の挑戦は見守る方針としている。そんな作戦決行当日未明、サナテー岸壁にそびえる『大噴門』の管理棟広間。


 受付で登録を済ませた今回の編成は以下のとおりである。


『ジャベル』

 ラフト(キツネ型獣人):中級、魔法戦士(剣、二刀流)

 グラーン(水牛型獣人):中級、戦士(大槌)

 ハンナ(アライグマ型獣人):中級、野外活動専門家(レンジャー)

 モリソン(イヌ型獣人):中級、投石士


『キーファット』

 ウィズマー(イタチ型獣人):中級、格闘家

 メック(イヌ型獣人):中級、戦士(剣・盾)

 キト(アナグマ型獣人):初級、戦士(両手斧)

 ターレス(イヌ型獣人):初級、戦士(槍)


『ミエシズ』

 ムーキー(リス型獣人):中級、野外活動専門家(レンジャー)

 ロザンヌ(イヌ型獣人):中級、戦士(剣・盾)

 ジャーク(イヌ型獣人):初級、戦士(短剣、二刀流)

 パッチ(イヌ型獣人):初級、投石士


悪食(アクジキ)』+α

 ナルコ(狼型獣人):上級、野外活動専門家(レンジャー)

 トキ(人間):中級、魔法戦士(棒)

 ヴェガ(人間):中級、魔道士

 エルレア(森人(エルフ)):初級、医療術師(ヒーラー)


 別行動のチーム同士で時間を合わせる必要がある都合、分かれる組数は少ないに越したことはないため、ナルコは枠の空いているエルレアたちとともに進むことになった。目付役の『悪食(アクジキ)』が間に合わないという事故は防ぎたいというのが彼女の腹でもある。




「国の調査案件でも、入場税はふつうに取られるんですねえ」


 苦笑しているトキの言葉にナルコが応えた。


「減免要望は出したのだけど、却下された。入場税を何度も割り引かせておきながら任務そっちのけで狩りにいそしむ不届者が過去にいたせいで、そういうのは受けなくなったらしいよ」


「なるほど、まあ、あるあるなんですかね。支払いも別に目立っていいわけじゃないし手間かかるし、いよいよ()()の案件は価値を探すのが難しいなあ」


「聞かれてますよ……」


 大噴門前の兵士がトキとナルコをギロリと睨んだので、エルレアは気になってしまった。ふたりには気に留める様子もない。ナルコは集うメンバーをぐるりと見渡して口を開いた。


「払いの多寡で『ジマイン』は手を緩めない。『悪食(アクジキ)』も同じ。他の連中が軒並み二の足を踏んだ最下層、新型のヌシを討ち果たすのは誰?」


「ウオオオオッ!! アタシ達だ!!!」

「『ジマイン』にまかせとけっつーの!!」

「俺達、俺達、俺達!!!」


 建物まるごとが揺れようかという咆哮が答えた。エルレアも武者震いがした。燃え上がっている仲間たちも傷付くであろう最下層攻略、回復は自分頼みなのである。皆で生きて帰るのだ。


 やってやんぜー、などとピョンピョン跳び跳ねて叫んでいるムーキーの後ろで、握りこぶしを作って小さく「わたしたちだー!」と応えてみたエルレア。隣でヴェガとトキもやる気満々である。


「フフッ、冷静な顔していながら、煽るのも得意なのね。私も元気出たかな」


「未知の相手だからこそ面白いってとこもある。カニのハサミごときに深部への扉を閉ざさせはしないさ。切り拓くのは俺達だ」


 こうして共同作戦の幕が開けた。



◇◇◇



 といっても、最初はパーティー毎に別行動で、第七層での集合時刻は半日後である。休憩も挟みつつ慎重に進むと、各層平均四刻(約2時間)程度は予定しておかねばならない。最下層が目的とはいえ途中で狩った魔物の素材は基本的に回収するし、危険種のやりすごしなどに時間を食うこともあるのだ。最下層での活動に向けて、あらかじめ道中で食事や仮眠などを取っておく必要もある。

 ひととおり盛り上がってから落ち着き直した一同は、ひと組ずつ大噴門を通過していった。どのチームも相応の経験者たちで、冷静さを欠いては迷宮は歩めないと知っている。道中でドジを踏んで辿り着けすらしないというのが、『胃袋』での共同作戦において最もあってはならないことなのである。




 探索開始早々、エルレアたちは驚きの情報を明かされた。

 なんと、ナルコには幽門の気配がわかるのだという。魔素を感じ取っているのかニオイがするのかはなんとも言えないが、獣人全般に共通のものではない個人的な特技だそうだ。探し回る必要が少ないので、行程も最短に近い形で取れる。到達深度第三位のからくりのひとつらしい。また、視覚に頼りきらない索敵自体は獣人種族の十八番で、見えない位置の魔物でも感じ取れる者は多いらしい。

 彼女は道先は示しつつも、探索進行自体は『悪食(アクジキ)』に委ねる形を取っている。エルレアはこれまでと同じく、『兎殺(べべディアーガ)』の罠や物陰に潜む『刃脚蛇虫(ジャンバラ)』に細心の注意を払い、危険種徘徊の徴候がないか五感を配りながら、斥候を担った。単独の魔物をコソコソと地道に狙撃しつつ、複数体の処理は誘き寄せて仲間に任せるスタイルなので、フロア進入早々に群れと出くわしたり幽門付近に魔物が集まったりしている場合を除いて、うまく戦況を自分からリードできるようになってきている。自動浮遊盾の出番も今日はまだほぼない。


 導かれるとおりに歩んで一刻(約30分)で、早くも第一層の幽門を発見できた。周辺の安全確保を済ませてひと息つく一行。時間は短いといっても集中力はそれなりに消耗する。


「うん、近かったな。エルレアさんって野外活動専門家(レンジャー)登録でもいいくらい普通に戦えるんだ。回復役だけでも十分なのに凄いよ。それに、『悪食(アクジキ)』の探索は基本に忠実だね」


「うちは堅実さが売りの地味なパーティーですから」


「そう? ことさらに目立とうとはしてこなかっただけでしょう」


 ナルコの述べた感想に、エルレアはすこし誇らしくなった。獣人の初級参加者たちに比べるとひよっこ同然の自分ではあろうが、探索活動面を上級冒険者からも評価されるのは、実力が伸びてきた証のように感じられる。自分も他の人たちのように、もっと自信を持って危地に挑めるようになりたいと思う。また、チームとして特に先輩ふたりが評価されていることも嬉しい。


「あなたはもっと速いの? 単独(ソロ)だと安全確保しきらないでも、幽門にひとりで飛び込んでしまえば次に行けるものね」


「うん。深部に行く時は大概、第一階層なら全部あわせて四刻(約2時間)くらいで駆け抜けるかな」


「すごい! そういうやりかたもあるんですか」


 幽門感知は、他に彼女の知っている範囲で言うと『ジャベル』のハンナが似たような勘が働くらしい。ただ彼女と違い、それに加えてナルコは、自己治癒力が極端に高く速攻中に多少の事故があっても立て直しやすいのと、個の戦闘力が高いのとで、万事が個人行動に適していることから今のスタイルがかなうのであった。

 単独で潜るのはリスキーではあるし、休憩中や素材回収中などの警戒もすべて自分ひとりでまかなわねばならないため、他人に推奨はできないとナルコは言う。


「そうだなあ。昔は俺も独りで別の迷宮に入ってましたけど、仲間がいるとできることがまた変わりますから、スタイルごとにそれぞれ良いところはありますよね」


「ああ、トキさんもソロだったんだ。道理でバランスがいい」

 



 その後は、層ごとにナルコ、トキ、エルレアで斥候をローテーションしながら進んだ。各々それぞれの進み方があるもので、『兎殺(ベベディアーガ)』の穴をナルコはわざと踏んで、出てきた魔物を瞬時に踏み殺していた。天井から落ちてきた動く岩塊『座紋(タドック)』は蹴り飛ばされて破裂した。進行速度優先で、浅層での素材保全はほとんど考えていないようである。

 トキが単独で先導するのをエルレアはこれまで見たことがなかったが、行く手を塞ぐ肉食獣『黄箔狢(サルベン)』の群れ相手に躊躇なく突入して瞬く間に打ち伏せてしまったし、岩壁を伝う黄土色の蛇『双手紐(ナガロッサ)』は素手で掴んで首の骨を折っていた。石礫や砂針などはあまり使わなくても問題ないのだという。




「前にも増して快速だったな。テナーさん、助かりました。うちに合わせてくれたのも、ありがとうございます」


「どういたしまして。魔物素材をきっちり獲りながらこのペースっていうのは、『悪食(アクジキ)』の実力の高さだね。あたしも勉強になったよ」


 道中は一度危険種『胡粉護巌斗犀(シジロザボラック)』とニアミスしたくらいで大きなトラブルはなく、大噴門から第六層の幽門まで、十六刻(約8時間)ほどで到達することができた。時間にも体力にも魔力にもずいぶんと余裕がある。道に迷いづらいナルコが同行を申し出たのは、ゲストパーティーである『悪食(アクジキ)』への配慮もあったのかもしれないとエルレアは思った。

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