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地味パーティーのエルレアさん  作者: 甘栗八
第4章 初めて見る景色
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第9話:事前訓練

 合同訓練。


 ジマイン本部に朝方集合したのは、『ジャベル』、『キーファット』、『ミエシズ』と『悪食(アクジキ)』の四組にナルコを加えた計12名である。エルレアは全員の名前をきちんと覚えなおしてきた。ナルコを除く他の組は、直近の階層主討伐に出向いたチームとは別なのだという。なお、一昨日の打ち合わせでいた中では、同期のイヌ型男性サグは迷宮に潜らないので訓練にも参加しない。


 ザバン東を蛇行するサギレイ川を北西にやや遡った大きな中州地帯『イーバスの喉仏』周辺は、人里にほど近いにも関わらず魔物が出る。その多くは鳥類だが一部に水棲種も見られる。人間社会への被害はごく限定的であることと、獲られる素材の取扱価格がもっと狩りやすい普通の野生動物と大差ないことから、クエストの対象地域に名前が上がることはごく稀だが、冒険者を目指す近隣住民が修行に訪れたりする。ぬかるんで悪い足場が確認にはちょうどよかろうと獣人たちが選定した。ジマイン本部からは八刻(約4時間)ほどである。


「水場想定でいうと、理想的には『ガルナッソ湿地』あたりが危険種もいて今回の事前訓練に最適なんだけど、移動に時間がかかりすぎてしまうからね」

「うげえ、あっちは立ち入りたくねえっす。第一階層よりよっぽどタチがわりい」

屍霊(しりょう)はだいっきらいなんだよね!」

「近付きたくないものなあ。ああいう手合いは魔法使いに任せたいよ」


 道中、ナルコの言葉に他の獣人たちがワイワイと反応している。エルレアは大型黒竜戦を思い返した。トキは毒液を魔法で守りながら武器で殴りつけていたが、そういうすべがなければ好んで近付きたくないのはそうであろう。隣を歩いているイタチのウィズマーの言葉に、エルレアは彼等の編成について尋ねてみた。


「ウィズマーさんは格闘家なんですよね。今回はどのパーティーにも、魔法使いの方はいらっしゃらないんですか」


「ええ、あっしたちは近接特化みてえなもんですから。何人かは遠距離攻撃屋もいやすが、特にうちのチーム『キーファット』は全員前衛なんっす」


「すこし語弊があるかもしれんね。ワシらも魔力を用いた自己強化はあやつるんだが、他者や外界に影響を及ぼす魔法を使える者は少ないんだ」


 すぐ隣を歩いていた水牛型獣人グラーンが補足を入れてくれた。獣人たちは種族として外部放出型の魔法が不得手なのだそうだ。その分、自己の身体・感覚強化に長じた者が多く、純粋な肉弾戦では他の追随を許さない。ただそのため、たとえば『四伎烏(ザッパ)』のような物理攻撃の効きづらい種を相手取っては、魔道具が生命線になってくる。収納魔法などとも縁が遠く、冒険活動のサポートも装備品頼みである。そのため特にベテラン冒険者ほど、身の回りの各種道具への関心は高いという。取引下手にもかかわらず新しい商店をあえて覗いた理由でもあるらしい。


 エルレアは冒険中は、自動浮遊盾ムラサキを常に背に追従させることにしていた。仕舞い込んでいると擬似精霊の学習が捗らないからである。ずっと気になってたんだけどさあ、とアライグマ女性のハンナが尋ねてきたので、軽く説明したところ、思いのほかワクワクした反応を返された。


「え、それ使役人形(ゴーレム)なんだ。自分で動いてくれんの?! すごーい!!」

「自作なんすか、『悪食(アクジキ)』さんって器用なんすねえ」

「ワシらもそういう新規開発の盛んな工房なんかにツテがほしいのう」


 面白がった獣人たちが、後でムラサキのトレーニングにも付き合ってくれることになった。攻撃のバリエーションを色々と覚えてゆくのが大切だとヴェガたちも言っている。



◇◇◇



 中州に渡るには持参の簡易イカダを用いた。この程度の持ち物や携行容量は参加チームみな各々で備えている。大人数が上陸したので弱い魔物達は四散してしまい、狩ろうと思うと気配を殺して近付きなおす必要があった。想定から外れたものではないが、対魔物でいうと大した訓練はできないであろう。


 ひとまず開けた場所に拠点を定めた一同は、水辺に移って各チームの行動の確認をしている。

 こと脅威種との戦いにおいて主力となるのは中級冒険者の面々で、前線は各獣人パーティーから数名ずつが担い、他のメンバーがサポートする。全体リーダーのナルコは、前線が崩されかけた時のヘルプ役になる。『悪食(アクジキ)』は遊軍的に動きながら支援と回復を軸として立ち回ることになった。基本的な戦法は『ジマイン』のみで完結しているため、部外者を混じえても連携に大きな問題はなさそうだった。

 ただやはり、ぬかるみや水場ではひとつひとつの行動が鈍くなる。仮想敵を相手に動き回ってみている中で、ぬめった石に足を滑らせてしまった『ミエシズ』のイヌ型格闘家ジャークなどは、トキの繰り出した浮く石礫(いしつぶて)の群れで転倒を防いでもらったりしていた。また、足場となるイカダを浮かべての行動も試している。


「遠距離魔法攻撃は(はな)ってもいいの?」


「即席の編成だから、基本は攻撃での連携は避けるようにしようか」


「グラーンの旦那や俺なんかは武器が重たいから、殴りつけた時の反動も見越しながら次を狙ってるんだ。その相手がいきなり燃え盛ったりしたら困っちまうんでね」


 ヴェガに対するナルコの答えに付け足したアナグマ男性のキトは乱戦に強く、さながら狂戦士のように暴れ狂うのだと、同じチームのウィズマーが言っていた。攻める方はある程度ゆだねてしまった方がお互いによいのであろう。


「はーい。じゃあ私達は、後方支援を主体に考えるわ」


 特に深い水場では、泳ぎの得意なイタチのウィズマーや水の抵抗をものともしないパワフルな水牛のグラーンを中心に据える。こういった協働時の動き、および水場での立ち回りは、四刻(約2時間)ほどでいったん確認を一区切りにまで持っていくことができた。




 拠点に戻ってきた一行は、濡れてしまった持ち物の手入れと休憩に時間を当てている。季節柄、水温もかなり低くなってきていることもあり、焚き木を集めて火も起こした。


「今回『ミエシズ』はサポートがメインだけどさー、ボクもゆくゆくは主戦を張りたいんだ! やっぱ一番強い相手と戦う最前線が花形だよなー!」


 爆ぜる木切れを前に暖を取っているエルレアに、白いモコモコとした耳が特徴のプードル型男性『パッチ』が、小柄な体で大きな身振りを交えながら語った。


「投石士のオマエは、一番前に行くと危なすぎるだろ。ただでさえチビッコなんだから」


「いや、心意気の問題っていうかさー」


「浪漫は地上に置いていきな。やれることで全力を尽くすんだ。半端なこと言ってると、いつまでたっても中級になんて上がれないよ」


 同じチームの近接型戦士『ロザンヌ』がたしなめる。亜麻色の長毛種でバチバチの睫毛が目立つ、大柄なイヌの彼女は、中級者としてリスのムーキーとともにパーティーを引っ張る存在なのだそうだ。彼女たち『ミエシズ』と『キーファット』は初級中級がふたりずつという構成だが、それに対して『ジャベル』は全員が中級なのだった。焚き火の向こう側で立って会話しているのはそのリーダーのラフトとトキである。


「さすがにベテランの集まりだけあって、『ジャベル』さんの動きはいちいち見栄えがよかったです」


「サンキュー! 付き合いが長いから連携もこなれてきてんだけどさ、オレたちは、活躍しつづけないとバラされちゃうんだ。ほら、中級をふたりずつに分ければ、二つのチームが迷宮に入れるっしょ」


「ああ、大氏族はそういうとこ大変ですねえ」


 聞こえてきた内容にエルレアは、同期のサグが、迷宮挑戦には初級者たちは枠が空くのを待つのだと言っていたことを思い出した。中級者側からすると、慣れた仲間を外されてしまうと冒険者としては活動しづらくなるものなのかもしれない。

 今回の参加チームでは、初級の者も戦闘想定時の動きはかなりこなれているように見受けられた。軽く尋ねてみたところ、みな五年以上は冒険者をつとめていて、迷宮にも二年以上は潜り続けているという。中級資格こそ得られていないが、明確に目立つ長所があるからこういうパーティーに入れるのだ。大氏族には強者の数も多いとはいえ、()()()()もなかなかに厳しそうなものである。




 なんとなく初中級の両者の立場などを考え込んでしまったエルレアの前に、ナルコがやってきた。


「エルレアさんは、回復魔法を何発使えるの?」


「あ、いまは二級を十回ほどは使えると思うのですが、ちょっと正確にわからないです……」


 軽く昔の数倍には魔力が上がっている自覚はあるが、限界を試される機会がこれまでなかったため、エルレアはこの質問にしっかりと答えられなかった。確かに、これは連携チームがリスクをどこまで取れるのかという問題に直結している。


「そう。じゃあここで確認しよう」


 ナルコによると、獣人たちは普段からトレーニングのために模擬戦を頻繁に行っているのだという。近接格闘主体の者ばかりなので噛み合わせがよいのだ。真剣などを持つことはさすがにごく少ないが、それでも大怪我を負うこともある。本来大規模作戦の前には行うべきでないが、むしろそういう負傷の治療でエルレアの限界を測ろう、というのが彼女の提案であった。


「このあたりの狩りだと、怪我なんてなかなかしないからね。弱い魔物相手よりも、足場の確認なんかもリアルにしやすいでしょう」


 他の獣人たちも皆、乗り気な様子である。

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