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地味パーティーのエルレアさん  作者: 甘栗八
第4章 初めて見る景色
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第7話:『ジマイン』が請け負う以上は

 『ジマイン』本部には、冒険者ギルドからは北に半刻(約15分)ほど歩いてゆく。あたりには獣人が多く住んでいるらしい。エルレアはこれまでこちらには来たことがなかった。ここらも街の中心部と呼べなくはないが、冒険者ギルドなどのある区域から比べると、すこし雰囲気が違う。あけすけな表現を使えば、多少全体的に小汚く、だが活気はより強かった。道を歩きながらキョロキョロとまわりを見渡すと、生肉、生野菜などの専門飲食店が軒を連ねており、種族特有の食生活が見て取れる。こういうところにも、自分でも食べられるものがあるのだろうか。


「うん? エルレアさんは食事が好きなの?」


「あ、いえ、うあ、なんか食い意地張っちゃったみたいで恥ずかしいです……」


 なんとなく浮かんだ疑問を口にしたところ、ナルコが不可思議な表情を見せたのでエルレアは赤面してしまった。といっても彼女の側に揶揄する意図はなく、獣人は決まった食を摂ることが大半なのと他種族がこのあたりに好んで立ち寄りはしないのとで、普段の嗜好と異なる他所の飲食店に興味を持つ者が単純に新鮮だったのだという。縮こまっているエルレアの代わりにヴェガが口を開いた。


「フフッ、そうね。生肉なんかは遠慮しておくけど、いろいろなものを食べてみたいのはメンバー共通かな」


「そう、パーティー名も『悪食(アクジキ)』だものね。もしよければ後で一緒に食事しよう。人間用のものもあるから不自由はしないはずだよ」


 一貫して排他的でないナルコの姿勢には、エルレアはなんとなく安心感を覚えつつある。共闘はこういうところから始まっているのかもしれない。




 本部の建物は、以前訪れた『ハザウィック』ほど気の利いた造りではないが、サイズはひとまわり上に見える立派なものであった。圧をかけすぎないようにと配慮したらしく、今回の参加者以外とはほとんど顔を合わせることなしに、『悪食(アクジキ)』一行は会議用の一室に通された。随分と体格のいい獣人もおり、部屋も椅子も大きいが、逆に小さい者もほっそりとした者もいる。


「エルレアさん! 『悪食(アクジキ)』さん!! このたびは大変ご迷惑をおかけいたしやして!!!」


 そのほっそりとした方、入室早々に最敬礼で迎えたのは例のイタチ型獣人である。やや丸っこい鼻が地面につこうかというほど頭を下げながら発された大声に、エルレアは気圧されてしまった。


「いえ、いえ、だ、大丈夫です……」


「一緒に食事行くことにしたんで、後でエルレアにこのへんでメシおごってください。それでチャラってことで」


「おおお、寛大なお言葉、ありがとうございやす! そいつぁ勿論!! 皆さんにとびっきりのお食事を御馳走させていただきやす!!!」


 こちらとしては、彼のしでかした騒動については特に気にしないというのが総意だと確認している。さらりと軽い要求を出して相手の面目が立つよう落としどころを示したトキに、エルレアは流石だなと感心した。自分も見習いたい。ふむふむと笑顔で頷いているエルレアを見て、またナルコが首を傾げた。


「そんなに獣人街のごはんが食べたかったの……?」


「ち、ちがいます! あ、いや、嫌いとかそういう失礼な意味ではないんですけど、えっと、だから違いはしないんですけど、うーんと……」


「フフッ、まあとにかく、まずは席につかせてもらおうかしら」


 あたふたしているエルレアに苦笑したヴェガが、立っている一同を促した。四角にぐるりと並べられた長机の、奥側に元締めを担うナルコが、今度は初めに腰を下ろした。『悪食(アクジキ)』はその左手の一辺に案内された。イタチ型獣人は再度頭を低く下げて、一番最後に腰を下ろした。




 部屋には十四名の獣人と『悪食(アクジキ)』がいる。総指揮を行うのはナルコ=テナーで、他に四名ずつ三組のパーティーが獣人側として参加する。それに事務手続きまわりの補佐役でもうひとり、背の高いイヌ型獣人がいた。互いの自己紹介から始まった打ち合わせだが、エルレアにはまったく誰が誰やら覚えられなかった。かろうじて、イタチの彼が『ウィズマー』という中級冒険者だとは記憶した。ふと気付くとトキは横でメモを取っている。自分もそうしておけばよかった、後で見せてもらわねば……。


 そのトキがナルコに問いかける。


「目標を最初に確認しなおしたいんですけど、『階層主および碧蟹(ガザマイア)を駆除して環境を正常化する』のか、『階層主の出現した第一階層最下層で安定した噴門到達法を確立する』のか、『今回は事前調査目的』なのか、どれですかね」


 狼は軽くうなずくと、ゆっくりと全体を見渡して静かに言った。


「『ジマイン』が請け負う以上は、元凶の階層主を駆除する。新型であろうとも変わらない。つまり回答としては一番目。いかに街の連中があたしたちの立場を軽んじようと、あたしたちの実力を貶めさせはしない」


 その言葉に、獣人全員が一挙に沸き立った。


「ウォーーッ、やってやるぜ!」

「いいこと言ってくれるよね、アネゴ!」

「危険種討伐なら『ジマイン』さ!!」


 騒がしい獣人達の声に耳がキンキンとなりながらエルレアは、実は先輩ふたりと彼女達は似ているのかな、と思った。というか一線級の経験者たちは皆、己の実力にはしっかりとしたプライドを持っているのかもしれない。自信を培ってきたからこそ、危地にも根拠を持って挑めるのだ。


 ひとりナルコは変わらず静かなまま、周囲がすこし落ち着くのを待って言葉を続けた。


「――といっても、戦闘以外は気が抜けがちなのがうちの悪癖でね。環境対策のほうは、正直なところしっかりとした策がないの。『悪食(アクジキ)』さんはギルド長の懐刀だとも聞くよ。ぜひ知恵をお借りしたいな」


「目標はよくわかりました。ありがとうございます。先日もヌシを討伐されてますし、そこは俺達からも異論ないです。魔法水の処理などについては、いくつか腹案がありますが、ある程度は人海戦術になるかもしれません」


「そう、よかった。メンバーはがんばらせるから、主導してくれると嬉しいよ」




「あたしのほうからも最初に確認しておきたいな」


 なごやかな雰囲気を見せていた狼の目が、急に鋭くなった。


「『悪食(アクジキ)』さんは戦力として勘定できるの?」


 この質問で一気に空気が張り詰めた。他の獣人たちも、敵意こそ含まれていないが甘さのない目付きを向ける。

 本来彼女達は、氏族単独で階層主討伐を目指せる実力者なのだ。国から課せられたため受け入れているが、部外者の参加はリスクが先行する。彼女達の安全に直結してもいるし、その助力度合いは報酬分配の基本方針に関わる問題でもあった。魔法水処理における知恵者(ちえもの)として最低限の役割は保証した上なので喧嘩腰にはなっていないのがナルコのうまいところだが、しかしどこまで任務に献身するかまずは鮮明にせよと言っているのである。

 共同作戦(レイド)での身の振り方は、ヴェガとエルレアはトキに一任する方針として既に決めていた。トキは値踏みするような周囲の視線に動じることなく応じた。


「ええ、目付役とか命じられましたけど、うちも一参加者として扱ってください。攻撃、補助、回復、ひととおりこなせます」


「階層主との衝突経験はあるのだっけ?」


「そうですね、たとえば『王級翡翠巨鬼(ドーヴァ・サーバスラ)』を過去に単独行で仕留めました。去年の春先です」


「「「!!!」」」


 獣人たちがどよめいた。ナルコはあまり変わらないがピクリと眉を上げたのがうかがえた。


「そう。第二階層の(ヌシ)を狩ってるんだ。聞いたことなかったな。確かに狩り手不明の空位期間があった」


()られたものがほとんどなかったんで、ウチとしちゃあ大仰に言いふらしかねまして」


 こういう時の彼の台詞はどこまでが真意かわからないエルレアである。ただ、素材保全や解体にこだわりの強い人物ゆえ、狩りの成功とはあまり見做せなかったのかもしれないと思った。


「といっても、まだ信用ないのはわかってますよ。それに、逆に我々も皆さんとの協働の仕方を考えたいですし。連携確認なんかを実地で行ってから本番に臨みますよね?」


「そうだね、近辺で二日ほどの訓練を設けたいと思ってた。迷宮に入ると、後はぶっつけになってしまうからね」


 話題は自然と、この連携訓練の組み方に移った。いくらかのやりとりで、明後日以降、近隣の川沿いで魔物の出没する地域に赴いてキャンプを張ろうということになった。参加する獣人達はやりとりをナルコに任せているようで、ここまでガヤを除いてほとんど発言していない。




 ところで、共同作戦(レイド)による最下層攻略について、エルレアにはよくわかっていないところがあり、どうしても気になっている。場の話がいつそれに触れるかわからなかったので、思い切って口を開いてみた。


「あのう……私は協働が初めてなので、素人の疑問で恐縮なんですが、お伺いしたいことがありまして……」


「どうぞ? 誰だって最初は初めてだよ。なんでも訊いてくれるかな」


 商店の件での恩義があるからだろうか、ナルコも他の獣人も、エルレア個人に向ける眼差しはなんとなく温かい。


「ありがとうございます。えっと、そもそも『胃袋』では『幽門』は四人までしか通れないと伺いました。どうやってこの大人数で挑むのでしょう」


 ひとつの組が他を魔法収納に入れて運ぶのかもしれないと考えたエルレアだが、そうすると『大噴門』で支払う入場税を誤魔化すことにもなりかねなさそうで、国の案件としてはかなり不適切なやりかたに感じられる。


「ああ、たしかに、知らないと疑問に思うか。最下層は必ず七層目にあるでしょう。だから時間を合わせて進入するんだ。逆に言うと、道中は別行動になるよ」


 ああ、なるほど……。


 時計そのものは高価な上に携行が難しいし容易にズレてしまったりもするが、冒険者たちは経過時間を測る道具を持ち歩いている。これを用いて、たとえば探索開始から二十刻後、などでおおよその時間を合わせて最下層で待ち合わせるわけだ。最下層はみな同じ場所に着くのである。


「それはまだ伝えられてなかったですね。『幽門』の制約への着眼は勘がいいです。実は他にも影響がありまして」


 微笑んだナルコの回答に、トキが続けた。


 エルレアは一度、他のパーティーと幽門通過順で揉めたことがある。こういう事態で待ち合わせの時刻に間に合わないなど作戦の進行が妨げられるのを防ぐため、ザバン迷宮での共同作戦(レイド)は原則申告制になっていた。予定を公示することで他チームが下手に巻き込まれたり邪魔立てしたりしないようにしているのだ。くわえて、同じフロアで居合わせた場合には共同作戦参加チームを優先するのが慣行となっている。もちろん遵守しきらない者もおり、その場合は実力勝負になるが、とはいえ迷宮においても相互にルールを守るのが最適解だという認識は広く持たれている。過去には競合勢力が積極的に妨害することもあったというが、そういう有害さの目立つグループは血腥(ちなまぐさ)い抗争の末に淘汰されてきたというのが現在のザバンである。


「公示の話でいうと、今回の階層主は新種のはずですから、特殊素材が得られる見込みの高い儲け話として他の派閥も気にするんではと思うんですが、一噛みさせろという声はないんですか?」


「よそには今、ジマイン(うち)から討伐意向の照会をかけてる。あたしたちでやるのに参加させはしないけど、別のところが名乗り出るっていうのなら、そのグループの結果を待ってもいいからね。ただ、ここまで返答のあった限りではどこも(けん)だよ」


 この公示などの手配は実地訓練と並行して進めるという。(ふる)い氏族としてそのあたりは一定慣れているらしい。




 その他にもおおよその話を一段落つけた一同は、街中で一緒に夕食を摂ることにした。

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