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地味パーティーのエルレアさん  作者: 甘栗八
第4章 初めて見る景色
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第1話:空位期間

 夕暮れ時、家路へと急ぐ人々の足元を虫の音が彩る。日の入りはとみに早くなり、暮れなずむ街路を撫でる風には肌寒ささえ覚えるようになっていた。しばらくの間しつこく揺蕩っていた炎節の名残りももはや遠い。


 季節は秋も盛りである。




 エルレアは、ヴェガとふたりで商会に立ち寄った帰り道であった。


「どこもかしこも、『階層主』討伐の話題で持ちきりですね」


 ザバン迷宮各階層の最下層には、『噴門』に集う魔力を独占して変異した危険種、『階層主』が君臨している。探索者たちが次の階層に進むためには、この脅威を掻い潜っていかねばならない。

 真っ向から対決を挑む者は少ないが、時折討伐を企画するチームも現れる。今回は先一昨日、獣人派閥『ジマイン』が、氏族内で企画した『共同作戦(レイド)』により第一階層の階層主を倒した。エースの狼型獣人ナルコ=テナーが監修を担ったそうだ。

 このあとはまた別の魔物が(ヌシ)へと成り替わるのだが、その出現までには一週間ほどの猶予があると言われている。それまでの間は『空位期間』と呼ばれており、比較的安全に次の階層へと進めるわけで、迷宮に挑む冒険者たちからするといわばボーナスタイムのようなものであった。またこのため一時的に第二階層の資源が出回りやすくなることもあって、このニュースには街の人々からの関心も高いのだった。


「うん、私たちにとってもラッキーだったわ。これまで第一階層最下層以降への進入は避けてたけど、空位期間ができたことでついにトキくんの許可も出たし。がんばりましょうね」


「はい、緊張しますけど、楽しみです!」


 エルレアたちは明日早朝に、最下層に踏み入る予定である。




 さて、街中の屋台で夕食を調達したふたりは、拠点の宿に戻った。手早く机に広げる。部屋に残って装備の調整をおこなっていたトキは、甘ダレをかけた廿日鱒(ハツカマス)の唐揚げにかぶりつきながら収獲処分の顛末報告を受けて、相好を崩した。


「おー、いい金額じゃあないですか。様子見を兼ねて行っていただいた初めての店でしたが、素材売却も板についてきましたね」


「ありがとうございます。おかげさまで、いくぶんか慣れてきました。『コルネリウス』さんは、やっぱりこのあたりではあまり見ない物品の取り扱いも多いようでしたよ」 


 今回訪問した『コルネリウス商店』は、西方の皇都ハリナルカンに本拠を置く商会の系列店であるらしい。夏の終わりにザバンに新しく出店した彼等は、この街ではエルレアよりもさらに新顔と言えよう。

 彼等は品揃えの違いが訴求点らしく、本国ならではの医薬品や書物に加えて、最先端の魔導工学を駆使した暖房器具、というのが目玉として展示されていた。ヴェガが話を聞いたところ、魔石の代わりに外界の魔素を取り込んで熱に変換する機構が組み込まれているのだという。魔素のない街中ではそもそも使い物にならないし効率も実用的とはとても言えないようだが、こういった大首都の先進技術の(すい)も取り扱えるというのは確かにこの店ならではなのだった。


 さて、初取引ではお互いにどう転ぶかわからないものだが、その中でも適正価格に落ち着かせることができたのをトキは褒めてくれている。おつかいを卒なくこなせたことにニコニコしているエルレアの横で、糸金栗(イトカネグリ)の炊き込みご飯の握り飯を頬張り終えたヴェガも言葉を添えた。


「最初、やけに安い見積を出されたのよね。エルレアちゃんが指摘してくれたんだけど」


「まあ、本当にお間違えになっただけかもしれませんから」


 ちくしょうめ、勘定まちごうとりましたわ。そう本国訛りでへらへらと頭をかいて計算し直した店員の様子をエルレアは思い返した。わざとなのかどうなのか、自分には判別がつかない。


「うーん、どうだか。居合わせた獣人チームは数字が不得手なみたいで、まるめこまれて買い叩かれてたの。こっちから口出しはできなかったけど、この時期の『角負豚(ゲットル)』をまるまる二頭で十両ばかしって、狩人(ハンター)をバカにした金額よね。エルレアちゃんは読み書きそろばんがしっかりしてるから頼もしいわ」


「へえ、ザバンで獣人からぼったくるのは命知らずな気もするけど、亜人(デミ)には吹っかけるのが本国(ふう)なのかねえ」


 ヴェガとトキの会話に、ナメた振る舞いは許さない、というのが最大手氏族『ハザウィック』の流儀だと聞いた記憶がエルレアの頭をよぎった。他の集団も似たようなものなのかもしれない。


「ぼったくると、獣人氏族から仕返しに殺されてしまったりするんでしょうか?」


「あ、いや、『命知らず』ってのは言葉の綾でした。よっぽどじゃなけりゃあ市民(カタギ)相手の刃傷沙汰(にんじょうざた)までにはならないと思いますよ。獣人たちも同じルールの範囲では生きてます。ならず者が集まってる分、街中での一般市民への暴行なんかは御法度として厳しく取り締まられてるしね。ただ、二級市民として不当に扱われがちな亜人は、横のつながりが強いところが多いんで、すぐに噂が回りますしバックの強面(こわもて)も出て来やすいですから」


 医療術師(ヒーラー)の連盟しかり、小人(ドワーフ)の職人組合しかり、ザバンではそれなりの力を持った互助団体が少なくない。冒険者ギルドもそのひとつである。おのおの、身を守るために固まっているのだ。それ自体はおそらく皇都ハリナルカンのほうでもそうなのだろうが、特性はまた大きく異なるものなのかもしれない、とヴェガが続ける。


「本国側は人種の区分もよりハッキリしてるって聞くわね。だから獣人グループにも遠慮なしなのかも。文化的に成熟した社会ほど、実力とは別の要素が個人の扱いにも入り込んでくるものかもしれないわ」


「ううーん、社会特性ですか……」


「まあ、獣人組はなにかしらケチつけられてたにせよ、『角負豚(ゲットル)』は皮革も牙も便利だし肉も血も脂も内臓(モツ)も全部旨い。賢くて逃げ足が速いから狩るのは多少手間だが、出回ると嬉しい獲物ではあるよな」


 壮大な話題に眉をしかめて口元をフニフニさせだしたエルレアを見て、トキが話を流した。それを見てエルレアも、商店の件から派生した社会問題については、いったん頭から追い出すことにした。目の前の食事に集中しよう。




 獣人組が買い叩かれていた『角負豚(ゲットル)』は、冬を前に脂肪を蓄えだすので、この時期には美味な個体が多いと屋台でも売り文句を聞いた。まとまった肉はさすがに高いが端切れなどを使った料理は広く親しまれている。その脂をふんだんに染み込ませて焼いたという丸茄子のステーキを口いっぱいに含んだエルレアは、まだしっかりと残る温かみを感じながら、食卓に並んだ秋の恵みに喜びを覚えるのだった。

第4章はレイドものです。

魔境で大物とリアルに戦うとどうなるのか、地味パーティーの真骨頂を見ていただければと思います。

日次更新します。

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