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地味パーティーのエルレアさん  作者: 甘栗八
第3章 ガンゾ=べラッソの遺産
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第17話:安らかに

 ダバヤ峠から山道を外れて。


 すこし木々の少なくなっている斜面に、トキは土魔法で一畳ほどの穴を形作った。見晴らしは良すぎるわけではないが、木の葉の群れの向こうに青く水平線が覗いている。ここならば道行く者や地元の村人などに荒らされる心配も少なかろう。細君の亡骸を横たえ、ガンゾの日記を胸元に乗せて、ヴェガが焼く。トキもエルレアも(こうべ)を垂れて哀悼を示した。次いでその上に、マモリテの折れた右脚を置く。


百々(もも)の呪いは土に還り、千々(ちぢ)の祈りは天に帰る。勝手だが、あんたの魂はこっちにあったと思うことにするよ。奥さんと安らかに眠ってくれ」


 屈み込んだトキの添えた掌が、マモリテの右脚を砂粒に変えてゆく。妻の骨を覆い、灰と混じる。同じ場所で、もう離れることがないように。

 この墓穴に三人は深く土をかぶせた。


 早朝、夏の日差しもまだ白く柔らかな快天のもと、眼下遠くにわずかに見える深く青い内海。穏やかなその表情は、人の過ちなど包み込んでしまう広さを持っているようにエルレアには感じられた。



◇◇◇



 同日、日暮れ時。

 足を早めた一行は、ザバンまで帰還していた。


「強奪品って、どうするんですか?」


 下手に捌けば自分たちが強盗犯としての疑いをかけられまいか、という疑問である。山道をゆく商人は多くの荷物は持てないため、必然単価の高い品や輸送を急ぐものが主体となる。携行と換金のしやすい物は残党が持ち去ったのだろうが、それでも絹布や香辛料、乾燥茶葉などがアジトに残されていた。


「専門の買取業者がいるんです。()のやつね。相場の六掛けくらいになっちまいますけど」


 こういった持ち主不定の拾得物は、売り手の身元確認を前提に、入手経緯不問として割り引いた値段で買い取ってくれる機関があるのだという。どうしてもこの手の品物は再流通に際してケチがつきやすいが、かといって正規に取り扱ってもらえないと入手者は闇市場で処分せざるをえなくなる。()()のほうでも、非合法なマーケットばかりを活性化させたくはないのだ。背景には、賊や魔物への対策はある程度商人側でなんとかせよという思想がある。身を守る手が及ばぬならば、より安全な道を辿れということだ。


「死骸とともにあったとはいえ、密封されてたものも多い。絹布なんかはヴェガが脱臭できる。()()()に捌いてもいっぱしの収入にはなるんじゃないかな。カワティシ領主にゃあ生憎(あいにく)ですけどね」


 カワティシ領主たちは残党拠点を野放しにはできないだろう。しかし再訪したとて、もはや完全にもぬけの殻なのだ。金目の物は今度こそ残っていない。


「そもそも山賊征伐に最初っから本腰入れてれば、薬の使いだって普通にラツカ山道を通れたわけでしょ。全部自業自得よ」


 ヴェガは手厳しい。

 売り払う目処さえ立っているのであれば、エルレアも、これは深く考えないことにした。強盗被害を受けた商会に同情の余地はあるかもしれないが、逐一品物を返しに行くのなどが現実的でないというのはさすがにわかる。




 黒羊歯亭(くろしだてい)。二日ぶりのまともな食事が嬉しかった。海鮮も美味しかったが、ここの塩梅はまた格別である。


「三人で寝るなら隣にもうひとつベッドを並べようかしら」


 一定の実入りも見込めることなので、三人は使い道を夕食の肴にしていた。

 女性ふたりが寝台に入る横で、トキは昨夜はソファーに座って寝たのだ。この先、迷宮で長居する場合などを考えると、()()を更に快適にしておいても良いかもしれない、とヴェガは言っている。


「あの、私はソファーでも地べたでも……」


 エルレアとしては、トキと近ければ近いだけ落ち着かない。遠慮を見せながら、自分の加入前はふたり同じ寝台で寝ていたのだろうか、という考えがよぎる。


 ――意外とスケベなのね


「あうーー」


 蘇った記憶に珍妙な声を漏らして勝手に丸まったエルレアを、怪訝な目でふたりは見たのだった。

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