第14話:砂に還りやがれ
マモリテの唸る拳を掌底で逸らし、懐に潜り込むとトキは胴体を腰に担いだ。気合いとともに重い石像が宙に舞う。首から地面に叩きつけられたマモリテは、逆さになったまま長い左腕を背中側に伸ばし、トキの左脚を掴もうとした。足を踏み変えて避けるトキは距離を変えない。伸びきった石像の左腕に添えたままの手に、濃い金色の魔力光をまとっている。
「風花・砂還……!!」
石の塊にそのエネルギーが浸透するや、前腕部は砂と化してサラサラと崩れ出した。
上から振り下ろされるマモリテの踵。こちらはトキは後方に跳んで躱した。この動く石像、人型をしているが動作はおよそ人体の制約と無縁のようである。
トキからの魔力の侵食を左肘までで防ぎ、立ち上がって体勢を直したマモリテは、ギチギチと奇妙な音を鳴らしながら、やや腰を落とすと右手を前に突き出した。対するトキは石の棒で前方地面にゆるやかな弧を線引く。
ボッ!!!
切り離された石の拳が勢いよく前方に射出された。それは、足元に引かれた線から砂のトゲが多数上方に生え伸びたのと、ちょうど同じタイミングであった。この障害物を苦も無く貫いた飛ぶ拳は、トキの振る棒に逸らされて後方の天井に激突すると、そのままぐるりと半円を描いてややゆっくりとまた本体に戻った。
後衛ふたりは高速の格闘戦に大きな手出しができずにいる。
「う、何かできることは……」
「あの飛ぶ拳に矢を当てられる? 私の魔力を乗せるわ」
「はい!」
エルレアは矢をつがえ機を伺いだした。
「砂揉錐……」
拳の飛んで戻る間に、トキが手をついた地面から舞い上がった砂が、宙空で捻れて石の針を形作っている。
「流!!」
ドッ(カンッ)
腰を落としたマモリテの右脚の付け根に石の針が飛び、衝撃を加える。石像の硬い体に弾かれたそれは地面に跳ねて甲高い音を立てた。
ボッ
攻撃を気にかけず再度射出される石拳。
ドッドッ(カッカンッ)
ドドドドドッ(カカカカカンッ)
ドドドドドドッ(カカカカカカンッ)
その隙に、狂いなく同じ箇所に立て続けに時間差で石の針が殺到する。重なる衝撃に、堅牢なマモリテの右太腿上部も少しずつ削れてゆく。
飛拳の軌道に石棍を入れてまた斜め上方に逸らしたトキは、石針の連撃に乗じて前方に駆ける。後ろでは天井に突き刺さった石拳がズボリと抜けたところに、エルレアの矢が浅く突き立った。飛拳は主の下へ戻ろうとそのまま飛ぶ速度を上げ始めた、が。
「杜若輝笛……力尽くで溶かしてやるわ!」
ヴェガが自身の拳ほどの太さの熱線を放つ。刺さった矢に込められた魔力へと誘導され、速度は通常の火炎魔法より劣りつつもグニャリと曲がりながら石塊を捉えたこの魔法は、飛んで戻ろうとするマモリテの拳を逃さず、そのまま高温を与え続けた。エルレアの矢尻を中心に真っ赤に熱されてゆく飛拳は、その軌道にボトボトと溶けたマグマをしたたらせながら、三分の一ほどの体積を失ったところでドズンと地面に落ちて動かなくなった。
駆け寄ったトキが繰り出す、石像の右膝目掛け繰り出される棒の突き。マモリテは半ばを失った左腕を下から斜めに振って迎えうつ。が、それを屈んで避けたトキは突き攻撃を中断し、マモリテの手前でグルっと小さく横に回転した。その勢いのまま、右内腿に横薙ぎの打撃を入れる。
バキャッ!!
右脚付け根に更に亀裂が走る。しかしそれを無視してマモリテが蹴り上げた左脚が、トキの脇腹をまともに捉えた。
「ガフッ」
「トキくんっ!!」
咄嗟に身体を逃がしつつもダメージを負い、勢いのままに転がりながら左に距離を取るトキ。そちらを向いたマモリテの斜め下から、右腿に火球が刺さった。
「石塊がいつまでも調子乗ってんじゃないわよ!!!」
次いでヴェガの杖から乱打される火球が連続で炸裂する。その衝撃についに限界を迎えたマモリテの右脚は根本から凄まじい音を立てて折れた。バランスを崩しズズンと前方に倒れたマモリテ、両腕の先を失い右脚もなく、もはや起き上がるのに十分な力がない。そこにトキが走り寄った。
頭部に右掌を当てる。金色の光が溢れた。
「おかわりだ、砂に還りやがれ……!」
残った左脚が背中側に跳ね折れて最後の抵抗を試みるも、頭部までは届かない。やがてマモリテの全身は風化しつくし、砂になって崩れ去っていった。
トキは細く息を吐いてエルレアたちの方を見やった。
わずかな時間巻き戻って。
マモリテをトキが押さえ込んでいる最中、エルレアは、わずかな衣擦れの音を聞いてバッと振り返った。火球の連打が祟り、杖に身体を預けてゼエゼエと息を荒げるヴェガの背後、いつの間にか青い人影が静かに迫っていた。
……『青殻病患者』!!
「ヴェガさん!!」
咄嗟に放った矢は、その人影の頭部を捉えた。
後方にドサリと倒れたそれは、何度か手足を痙攣させ、そのまま動かなくなった。




