第12話:予想通り
朝四時頃に発って、一行は九時過ぎに麓の村に着いた。なかば駆け足のようなペースにはなったが、ひたすら歩むだけならば体力強化の進んだ冒険者たちにとっては苦ではない。
一行のことを覚えていた村人を見かけ、軽く話を聞いてみると、討伐隊もここを拠点として捜索活動に出たらしい。
「あんたらがダバヤ峠を越えてきなすった時は、山賊にやられんで幸運なことじゃったと思うたけんど、今回亡くなった兵隊さんはほんに気の毒なことでしたなあ」
往路では残党を無視したこともあり、盗賊撃退を触れ回ってはいなかった。村人が山道に入り始めて被害が出たら責任が取れない。休憩中、一行の武勇伝をまるで自らが下したかのごとく語ろうとし始めたレミ女史にも、聴取などを求められはじめると到着が遅れかねないぞとこちらから釘を差していた。そのため村人は、賊の対処をしたのが討伐隊だと信じている。
さて、聞き取った状況もあわせて整理すると。
討伐隊の足取りとしては、初日(『悪食』のカワティシ到着当日)にラキバエで泊まり、二日目の午前中にここに到着。同日に調査を開始。捕虜の新米盗賊に案内させながら、場所の確認ができたところで、三日目に荷を負わせるための馬も連れて全員で向かった。馬車は山道には適さぬため村に留め置かれている。そこで返り討ちに遭って、村にどうにか戻ってきたのが八名。急ぎ手当てをしたが二名は程なく息を引き取った。残りは治療などのためラキバエ方面に既に帰還した。そして彼等からの報告と生き残りの目撃情報がカワティシにまで届いたのが昨日のことである。領主の側ではそれにかぶせて、敗退ではなく討伐は成功したと触れ回りはじめた。
「やっぱり大惨事だったみてーだな、手掛かりには事欠かなそうだ。とはいえ速度勝負、ここからもある程度強行軍で行くか。山中泊も視野に入れよう」
◇◇◇
足跡はわかりやすかった。彼等の往路に魔物との戦闘痕跡も見えたし、生還者の残した血痕も散見された。カワティシ=ザバンルート、峠間を四分の三ほど進んだところで獣道を横に折れたようである。ご丁寧に側の樹の枝が折られていたのは、討伐隊内の先行部隊が目印にしたものであろう。そこからすこし進んだところで一頭の馬の死骸が見つかった。魔物に喰われて肉や内臓はほぼ残っていない。更にゆくと、ひとりの兵士の屍があった。アジトからは逃げ出したものの途中で力尽きたのだ。こちらも喰い漁られて損傷が激しく、死因はよくわからなかった。ただしこの男が地面に残した血の痕が、一行を目的地まで導いてくれる。
登り下りをあわせて二刻(1時間)ほど進んだ谷間の地、口を開けた洞窟がガンゾ一党の根城であった。討伐隊に脇にどけられたものの、入口を隠すように草や岩などでカモフラージュしていた形跡がある。明らかに単なる自然の洞穴ではない人為が見て取れる。
周囲には見たところ三名の亡骸が散らばっている。魔物や野生動物の手はかかっていない。何らかの危険を感じ取って近づかないのかもしれない。
「転がってる位置から見て、内部から吹っ飛ばされた感じがするな。なかなかの剛力だ。やっぱり盗賊残党ごときの仕業じゃあない」
「あらためて予想通り、使役人形が動いているのでほぼ決まり、ということね」
「洞窟の外に出ている可能性はあるのでしょうか」
周囲を見渡しながらエルレアは聞いてみた。
「侵入者をどこまでも追っかけて殺すみたいな、拠点を守る目的から外れた行動を使役人形に仕込んでいるとは思いがたいですね。あるとして索敵用の木偶が別にいるパターンだけど、にしたって術者がいないと大したことはできないはずだ。あたりに軟土は一部見られるがそれらしき足跡も残ってない。本命は中にいると見るのが妥当でしょう。そいつは『マモリテ』とでも名付けとくか」
エルレアはひとつの兵士の死体の隣にしゃがみこんでみた。地面に座り込むような形で頭を垂れている。背中から骨が飛び出て、腐敗汁が染み出していた。白い蛆が這っている。胴体はすこし膨張しているがガスも溜まりきらず傷口から抜けていくようだ。目に刺さる悪臭に耐えながら装備品を見やると、人の頭以上に大きな拳が強烈にめり込んだ跡が金属製の胸甲前方に確認できた。
立ち上がってふたりを呼ぶ。
「マモリテが人間と同じ形をしているのなら、かなり大きいみたいね。拳が武器のようだわ。重量を感じるけど、他に何かわかる?」
「使役人形の形状は多岐にわたるそうだから、一概には巨体かどうかは言えないかな。格闘型っぽいというのはいい手掛かりだ。鎧に焼け焦げなんかがなく拳の型がそのまま残っているところから、属性魔法による強化もほぼない。岩石で作り出した拳骨をブチ当ててたりすることもあり得るけど、弾と思しきブツも周囲にはなし。遠距離攻撃だとしても武器を回収するタイプだな。まあ十中八九、近接格闘型の硬いヤツか」
「どうやったら止まるんでしょう?」
使役人形は、込められた魔力で動いている。その魔力を使い果たせば人形は止まる。あとは物理的に人形を破壊するのも当然効果があるが、生物とは異なり明確な急所が少ないというのが特徴である。この点は屍霊と似ている。ヴェガは一点集中型の急所狙いが主体な上、炎という対生物寄りの属性に依存しており、マモリテが金属などの無機素材製であるならば、あまり有効な対抗手段がないかもしれない。トキとエルレアには輪をかけて火力がない。
ほかに、術師に与えられた命令を書き換えることでも無力化は可能なものの、よほど特殊な修練を積まねばそういう芸当はできない。今回は期待できないだろう。
「ってことで、まだ正体がわからん以上、撹乱して内在魔力の枯渇を狙うかな。そうすると後衛は危険なばっかりだから、俺が単騎で突っ込むか」
「絶対イヤ。階層主の機械人形にズタボロにされたでしょ。ひとりはやめて」
以前『胃袋』で敗退した、というのも使役人形の類が相手だったのか。
ヴェガの拒否反応を見て、エルレアはこの話もいずれ聞いておかねばと思った。そして同時に、自分がアジトに来たいと言ったがために今ヴェガを不安にさせているのだという考えもよぎった。トキが彼女にとってどれほど特別な存在かは、過去のことを教えてもらったためになんとなくわかるのだ。それなのに、トキばかりにリスクを負わせられようか。
「あのっ、どういうタイプか分からないといけないのでしたら、私がまず索敵に入るというのは……」
「ありえないです」
「ありえないわ」
ふたりは同時にピシャリと言った。
そばのトキがエルレアの正面に回り、手をパンパンと払うと、またほっぺたをその両手で挟み込んだ。
「ぷにゅっ」
「エルレアさん、言い出しっぺだからって過大に責任感じられたら、意見を聞くこともできなくなっちまうじゃないですか。リスク最小化のために作戦練ってんですよ。エルレアさんも安全第一、ほら復唱して」
「わらひほはんせんらいひち……」
「ここに来たのはチームの総意、はいどうぞ」
「ほほにひらろわひーうろほーい……」
何を悩んでいるか、いつも全部お見通しだ……。
トキは口角を上げると、頬を染めてモジモジしているエルレアを解放して言った。
「スタミナ切れ狙いっつったのは、かなうなら鹵獲してみたかったからだけど、安全優先で行く。撃破に集中だ。木製なんかの火が効くやつならヴェガが脚あたりを撃ち抜く感じで。生物っぽいやつならエルレアさんが電撃矢で動きを奪う。石や土塊だったら俺が部位破壊してくよ。金属製なら一回外まで退こう」
ヴェガもこの作戦に同意を示した。
「いいわね。遠距離攻撃持ちなことも考えられるから、私が対魔法に水の膜、トキくんは対物理に防護壁展開の準備を最初からね。電撃が効かなそうな場合は、回復が必要な想定でエルレアちゃんは魔力温存にシフトして」
「は、はい、わかりました! 絶対治します!」
「虎穴に入らずんば虎子を得ず。さあ行こうぜ」
一行は強化魔法の準備をすると、アジトに踏み込んだ。




