第11話:拠点には
討伐隊、もとい財宝回収部隊は、コテンパンにされて逃げ帰ってきたようだ。徒歩だったというから、荷馬車で持ち帰れる成果は何もなかったのであろう。馬も失ったのかもしれない。山賊征伐完了だと喧伝されているのはせめてもの見栄である。実際、討伐隊が何かしたかどうかとは関係なく、件の賊による被害はもう出るまいというのがトキの見立てでもある。
「ガンゾはともかく、あの雑魚盗賊の残党四人程度じゃ、十数名の武装兵士相手にはどうにもならない。いるな」
「まあ今さら他人事でしょ」
会計に立ち上がったふたりにならって、エルレアも席を立つ。
ただその心中は、ふたりのようには穏やかではなかった。
領主邸宅の警備兵たちがエルレアの容姿に陰口をたたいたことにトキたちが気分を害したため、討伐部隊は明示的に得られていたはずの注意喚起を聞きそこねた。それは本来自分達で調べをつけるべきことだし、連れて行った新米盗賊から引き出すべき情報だったのかもしれないが、エルレアはなんとなく後ろめたい気持ちにはなったのだ。これは、自分がいたことが手伝って十人もの死者が出る事態になったのではないかという、ぼんやりとした罪悪感のようなものである。
そんな気分を察したか、トキが背中に手を添えてくれた。
「伝えなかったのは俺ですからね、間違ってもエルレアさんが気に病むことじゃない」
「あう、はい、ありがとうございます。……私、もちろん、トキさんのせいとも思ってませんよ。現場の安全確認は自分でやるのが当たり前で、他人任せにしちゃいけない、って教わってきましたもの」
トキのせいではない。それは間違いない。エルレアのせいでもない。それも間違いない。ただただ討伐隊が不注意だっただけで、危険そうなら無理せず帰れば良かったのである。それでたとえ処罰されようが、命には代えられるまい。荒事の世界において自分で生きて帰るというのは、冒険者だけに求められる振る舞いではないのだ。
巡り合わせが悪かったせいでこうモヤモヤするのは心の弱さの問題かとエルレアは思った。そして、そんな機微にまで目を配ってくれる仲間の心遣いがまた嬉しかった。
宿への帰路、エルレアにはしかしまだなんだか心に引っかかっているものがあった。
ガンゾは使役人形を連れ歩いていなかった。だとすると、それを置いていたアジトには、自らの身を軽んじてでも守りたかったものがあるのではないだろうか。生に倦んだ彼が、それでも守りたかったものが。何の根拠もないが、直感のようなものである。
エルレアは思い切ってふたりに言ってみた。
「あの、あの、拠点には、私達が行ってみることはできないでしょうか」
「ん、そうだな、討伐隊の生き残りに今すぐ話を聞くことはできないだろうけど、彼等の移動痕跡を現地で追えそうには思います。間を置かずに行けば拠点の場所は多分特定できる。ただ、中には使役人形がいるだろうから一定危険でしょうね。理由お聞きできます?」
「えっと、ガンゾさんが使役人形を置くほどに大切なものがあるのでは、と思いまして。それがお宝だろうから行きたい、というわけではないんですけど、でも、なんだかこのままにしておいてはいけない気がしたんです」
エルレアも、これが一行を危険に晒す申し出だとは理解している。自分ひとりではどうにもならない。彼等の強さに甘えているにすぎないのだ。ふたりが難色を示せば、強いて主張するつもりはなかった。
「単なる強奪品じゃないかもってことね。クルーズがまた今度でよければ、帰路が山道でも私は別に構わないわよ。どこまで調べるかは現地次第にしましょうね」
「俺もオッケーです。何が残されてるかはわからねーけど、主を失った人形がいるんなら、土に還してやるのも弔いだろうさ。ガンゾにゃあ2点の恩義があるからな」
ザバンへは船旅を経て帰還する計画だったが、ふたりの快諾を受けて、往路と同じ峠越えを取ることになった。天候にも左右されるが、明日未明に発って一行の足で急げば、同日中にラツカ山地の探索に入れるだろう。




