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地味パーティーのエルレアさん  作者: 甘栗八
第3章 ガンゾ=べラッソの遺産
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第4話:一蹴

 先頭に立つ男が口を開いた。


「有り金まとめて出してもらおうか」


 俺が狙うならこのあたりかもな、と先行していたトキが戻って一行に注意を促した矢先、岸壁沿いの隘路に両側から立ちはだかったのが一帯を荒らし回る盗賊団である。姿を表したのは前に五名、後ろから三名。上方にも弓矢を見せつける者が二名、狙いをつけている。他に、もう数名の息遣いが現れたのをエルレアの優れた聴覚は聞き取った。茂みにいる。

 いま話した男性は明らかに他よりも良い装備をまとっているように見える。彼がリーダーであろうか。


 怯えて縮こまった依頼人ふたりを右腕で岸壁に寄せながら、エルレアは三面に警戒を払った。いますぐ()()に入れようとするのは却って危険だ。




「身ぐるみ全部置いてくなら、命だけは見逃してやってもいい」


「じゃあ俺も、命は助けてやろうかな。武器を置いてお縄にかかるならね」


 軽やかに応じるトキ。


 目の前の盗賊が口を結んで手を上げると、四本の矢が上と側面から一斉にトキに向かって放たれた。が、素早く横にずれて躱したその身体には当たらず、地面と岸壁に刺さった。同時にリーダー格の男の足元から鋭く伸びた一本の石の棘がこの盗賊を肛門から喉元まで串刺しにして、彼は二度とその口を開かぬまま息絶えた。トキは戻ってきた際に既に罠をめぐらしていたのだ。


 ヴェガが杖を振る。分厚い水の膜が岸壁に沿うエルレアたち三人を覆った。物理攻撃にはやや弱いとはいえ、並の矢など通さぬ魔法防壁である。


 前方、怒声を上げて飛び込んでくる者が三名、真横で磔となったボスらしき屍を見て躊躇する者一名。

 ヴェガに向かっては、うしろ側にいた三人全員が剣や斧をかざして突進してきた。同時に二本の矢が茂みの中から今度は彼女を襲う。

 もうふたりの弓使いは引き続きトキを狙った……ようだったが、それはまた地面に突き立った。かわりにトキからは石の飛礫(つぶて)が崖上と茂みの弓使いに放たれている。いずれも命中したらしく、独特の鈍い音がエルレアには立て続けに四回聞こえた。ひとりはバランスを崩してそのまま崖から落ち、エルレアたちのすぐ近くで顔面から地面に激突した。


 凄まじい勢いで石の棒が突き出されると、前方から斧を振りかざして襲いかかってきていた盗賊の頭部は生卵を割るかのように吹き飛んだ。ひとり狼狽えていた者の足元にまで鮮血が散る。そのまま横薙ぎに打ち据えたトキ、短剣使いの身体は不気味な音を立てて直角に折れ曲がり、くの字のまま岸壁にまでめり込んだ。棒を放して左膝を剣士の腹部に見舞う。中空で串刺しになっている(かしら)を超すほどに浮いたこの男は、受け身も取れずにグシャリと地面に落ちた。見向きもせず、尻餅をついた残りひとりに走り寄ったトキは、その男の脇腹に爪先を突き刺した後、ゴロゴロと転がったところに石枷を嵌めた。




「誘い込めばどうにでもなると思ってたのかしら」


 ヴェガを狙った矢は、いつの間にか空に浮かんでいた石の(つぶて)に阻まれて届いていない。横薙ぎにヴェガの振るった杖から三連の火球が、駆けてくる盗賊に向けて放たれた。轟音を上げて飛んだそれらは、命中した彼等の全身を焼き尽くし、あたりには複数の断末魔が響いて肉の焦げる嫌な匂いが漂った。


「――節穴揃いね」




 あっという間の虐殺劇であった。



◇◇◇



 水の膜がほどけ、エルレアは依頼人ふたりを慮っていた。いずれもブルブルと震えている。狩りには慣れた自分ですら衝撃を受ける血なまぐさい現場であった。


「あのう、ご気分は大丈夫でしょうか……?」


「ええ、ええ、もう大丈夫ですわ! 悪しき下郎どもを一蹴、血沸き肉踊るとはまさにこのことね!!」


 レミ女史は顔を紅潮させて拳を振り回している。単に興奮していたようだ。エルレアはポカンとした。


「いやはや……バケモノじみたもんでした……しかし助かりましたわい……うぷ……」


 シャマダ氏は逆に青褪めていた。膝が笑いきっている。辛うじて礼を述べつつもゲーゲーと吐き出してしまった彼に飲料水を差し出しながら、エルレアはトキたちを見やった。




 ガヒュ……ガヒュ……


 地べたで血反吐を吐きながら断続的に呼吸音を発しているのは、膝蹴りを喰らった男である。長くはあるまい。

 念のため、茂みの中にいた弓使いふたりの死亡を確認してきたトキは、拘束された盗賊を見下ろすと、あっさりと言った。


「生きてるのはふたりか。もうじきひとりになるけど」


 落ちてこなかったもうひとりの弓使いも、崖上から死骸を覗かせている。息遣いはもう、聞こえなかった。


「さらに減るかどうかは、心掛け次第だな。いくつか質問していいです?」


 震え上がって声もない男は、涙を流して尿を漏らしながら、ガクガクと物凄い勢いで首を縦に振った。




 あばら骨を砕かれたこの男がそれでも懸命に喋るには。

 頭目は無言で串刺しにされた男性、副頭領が地べたで虫の息の剣士で、盗賊団は他に四人が拠点を守って待機しているという。拠点はラツカ山地内の洞窟に構えている。この男性は最近加入したばかりの新米らしい。


「そういや見たことあるツラだ。たしか中級崩れのガンゾ=べラッソ、賞金首だぜ。こっちに流れてたのか」


 (かしら)の屍を親指で指しながらヴェガを向いて話すトキ。新米盗賊もガクガクとうなずく。


「いい仕留め方したわね。顔がきちんと判別できるじゃない」


 ヴェガは親玉の死骸にチラリと目をやった後、方針を確認した。


「アジトまで狩る?」


(さら)われてる人間でもいるなら考えるけど、先を急ぐ旅でもあるしなあ」


 新米盗賊によると誘拐などは手掛けていないらしい。彼の言葉のどこまでを信用するかは微妙なところではあったが、


「今はどうか、奥方様に薬を届けることを優先させていただきたく……!!」


 と主張するレミ女史の言を容れ、追加の討伐は見送ることとしたのだった。


「落ちてるカネを拾わねーのは罰が当たりそうだけど、俺達はプロフェッショナルだからな。受けてる依頼が第一だ」




 賞金首は行政機関に(あらた)めさせる必要がある。報酬を受け取るためというのもあるが、討伐の証拠があれば市民が再びこの道を選べるようにもなるのだ。この始末はさすがに譲れなかった。シャマダ氏が気を取り直すのを待つ意味合いもある。この目的にのっとり、頭目の亡骸(なきがら)は多少の処理をしてトキが収納に仕舞い込んだ。間を置かず事切れた副頭領を含む他の遺骸は道から少し離れたところに並べ、ヴェガが焼き尽くした後に土をかぶせた。すべてを持ち運ぶ理由はない。そのまま捨て置いても獣が食べただろうが、言い換えると魔物などが寄り付いて往来に危険も生じるため、一応の後始末である。


「この新米は()()に入れて連れて行こう。ちょうどいい実験台だ」


 捕縛した新米は領主に突き出す。幸いここはザバン側ロンデル公と行先カワティシ領主の重複管轄下であるから、カワティシまで連れていけばそれでよい。自分たちでアジトを訪ねるかどうかはさておき、このあと拠点へと案内させるためには生かしておく必要があった。

 脇腹をしこたま痛めたこの男とトキの顔を、エルレアは交互に見た。下手にもがかれたりすると、()で知らぬ間に急変する可能性もあるが、治療しても良いものだろうか……。

 恐る恐る切り出した申し出は快諾された。石枷を嵌めた今、過度に警戒することもない。回復の魔法を施した後、ヴェガが霧魔法で男を洗いさえした。せっかく用意した新空間にいきなり尿まみれで入られるのは、最初から牢屋として作ったとはいえ皆いい気分はしないのだ。掃除するのも自分たちなのである。


 おとなしくするよう言い含められた新米盗賊は、また首をガクガクと上下させて監禁部屋に素直に入ると、座り込んで項垂れたのだった。

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