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地味パーティーのエルレアさん  作者: 甘栗八
第2章 小賢しい会話
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第15話:すげえ呪文だぜ

 一行は『大噴門』に帰還した。先んじて戻らせた『羅銘露(ラメロ)』の姿はなかった。

 警備の兵に聞いてみたところ、石枷を破壊してもらって早々に立ち去ったらしい。『大噴門』前の警備兵は、負傷者も多く目にする手前、まったくその場で見殺しにしたりはせず、ある程度の手は貸してくれる。出立する者もいるため、居座られるのが迷惑だからというのもある。ただ、全員が拘束されたパーティーを見たのは初めてだと言っていた。迷宮内での冒険者間のトラブルがああいう形で決着するのは、ごく珍しいのだ。


「『幽門』が開き直すまで、中で二刻(約1時間)以上待ったわ。今頃もう彼等は本部に泣きを入れてるかしらね」


 活を入れられた後のダメオたちは、怯えながらも、横暴行為への謝罪や解放への礼を口にすることはなかった。よっぽど気位が高いのだろう。もしくは、最強氏族(クラン)の人間として他人に頭を下げることができないという妙な呪縛があるのかもしれない。


「ああ、悠長に出方は待ってられない。妙な伝わり方して主力から付け狙われても困るからな。このまま本丸に話つけに行こうぜ」


 『大噴門』施設から出た三人は、ヴェガの霧魔法で全身の汚れを一気に落とすと、一路街の中心部へと向かった。



◇◇◇



 大通に面して堂々と構えられた建物が『ハザウィック』の本部である。冒険者ギルドよりも更に大きくかつ立派で、華美な装飾はその勢力の強さを感じさせた。


「おたくの『羅銘露(ラメロ)』さんと今朝方(けさがた)迷宮内でご一緒しましてね。多少行き違いがあったようなんで、こちらからも一言入れに伺ったんですよ」


 構成員への対応のためか、ギルドよろしく一階は開かれており、受付まで置かれている。つくづく大した組織である。もはや単なる冒険者の派閥というよりも、ひとつの会社のようなものなのかもしれない。エルレアはいちいち目を見張らされた。




 受付から聞いて顔色を変えてやってきた構成員に通された大きな部屋の奥では、禿げた男性が革張りのソファーに腰掛けてパイプを燻らせていた。やや薄暗い中で、赤く日焼けした肌と深く刻まれた皺が伺えた。どことなくギルド長ツェリークと似た雰囲気があるが、より歳上に見える。彼が氏族の頭領であろうか。

 周囲には数名の構成員が直立不動で佇んでいる。まったく虎口のド真ん中もいいところであった。緊張が頂点に達しているエルレアの後ろで、大きな木製の扉が音を立てて閉まった。


「この事務所は一年半前に建て直したところでな、豪奢なもんで儂のような老いぼれにはまだ慣れん」


 頭領とおぼしき男性が口を開いた。


「御氏族の権勢が伺えます」


 一行は立ったままである。トキが短く答える。


「若いもんはウチを名門などと呼ぶがね、氏族(クラン)なんてのは冒険者が互いに助け合うために固まったにすぎん。見てくれなんぞは関係ないんだ。血を流すことを厭わん覚悟だけが絆を強くする。侮った振る舞いには必ず対価を支払わせる、そうやって泥臭く力を伸ばしてきたわけだな」


 男性はそう言うと、煙を細く長く吐き出してカーテンの張られたままの窓に目をやった。隙間から光がこぼれている。


「その短くない血みどろの人生で学んだことがある。世の中というのは助け合いで回ってる、とな。何事も独り占めは良くない。共栄ってもんがある」


 パイプの火を落とした男は、ギロリと目を向けた。


「お前さん、ウチのチームと配分で揉めたんだってな」




 エルレアはトキの顔をコソッと見た。どう説明するのだろう……。


「狩った『沙巌熊(アダマス)』です」


 横の広いスペースに、厚手の敷物を広げると、トキは続けてその上に魔獣の死骸をドサリと取り出した。収納魔法を開いた様子に身構えた控えの構成員たちも、キレイに喉元を撃ち抜かれた獲物を見て軽く感嘆の声を上げる。各素材の保全されきった『沙巌熊(アダマス)』は、彼等からしても珍しいのだ。


「受け取る資格があると思うなら収めりゃあいい。そうじゃないならおたくの名前に免じて恵んで差し上げましょう。俺たちゃまた狩れるんでね」


 そういうとトキはクルリと背を向けた。


「『ハザウィック』、迷宮で唱えたら素材が転がってくるんだからすげえ呪文だぜ。『ジマイン』あたりにも教えてやりてえもんだな」


 ヒラヒラと右手をかざしながら嘯くトキ。

 気色ばんで掴みかかろうとする横の構成員を、頭領の男性が制した。

 扉を押して退出するトキの後を、慌ててエルレアたちも追ったのだった。

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